番外編:正月

 


 屋敷の外から聞こえてくる喧騒で目を覚ます。


 新年早々何事かと思い俺は部屋の窓を開け、声の聞こえてくる方を見た。

 そこには――。


「うおおおッ! 行くぞフェイ、ポル!」

「ハイッ!」

「りょーかい!」


 災害蜂相手に襲い掛かるフェイ・カトル・ポルの三人が居た。

 災害蜂は三人の攻撃をヒラリと躱し、怪我を負わせない程度に反撃する。


 五分ほどすると三人は庭に積もっていた雪に顔を埋め倒れた。

 そんな三人に俺は部屋から声を掛ける。


「朝っぱらから元気だなー」


 すると三人はガバッと起き上がり、雪を払いながら顔を上げた。


「タスク兄! おはよう!」

「おはよー!」

「おはようございマス!」

「ん。おはよ」

「タスク兄もあそぼー!」

「んー、俺はいいや。それと今日は出かける予定だから程々にしとけよ」

「「はーい!」」


 俺は窓を閉め、私服に着替えて一階に降りる。

 ダイニングの扉を開け、中に入るとヘススとヴィクトリアが居た。


 二人に挨拶を済ませ俺がいつもの椅子に座ると、アンがワゴンで朝食を運んでくる。


「タスク様、おはようございますっ!」

「おはよ」

「森苺のジャムで良かったですかっ?」

「ああ」


 俺の隣でアンが焼いたパンにジャムを塗る。

 その時、アンがチラチラと俺の顔を窺っている事に気付いた。


「どした?」

「あっ、その……今日のご予定はっ?」

「少しみんなと出かけるかな」

「そうですかっ……」


 何かあるのかと思いつつ首を傾げる俺の横から、キラがニュッと顔を出す。


「タスク様ぁ、おはようございますぅ」

「うおッ、おはよ」

「出かけるって聞こえましたけどぉ、お昼には帰ってくるんですかぁ?」

「帰ってくると思うぞ。で? 何だ? 何かあるのか?」

「はい。以前、タスク様が“御節おせち”って教えてくれたじゃないですかぁ」

「うん。……って、まさか」


 いや、でも、そんなはずはない。

 この世界に御節料理なんてものは無い。

 作れるはずが――。


 俺がアンの顔を見るとふんすと無い胸を張る。


「キラと一緒に作ってみましたっ!」


 マジかよ。

 御節、食えるのか。

 し、しかしだ。

 構成が気になる。

 もし“アレ”が入っていなかったら――。


 俺の思考を読んだかの如く、キラが顔を近付けボソッと耳打ちをした。


「もちろん、美味しい大王海老グランドシュリンプをご用意してますよぉ」


 ああ、最高かよ。


 大王海老グランドシュリンプ――それは前の世界で言えば、高級食材の伊勢海老だ。

 そしてこの世界に来てから一番ハマった食材でもある。

 何を隠そう、俺は海老が大好物なのだ。


 ……よし、さっさと用事を済ませて帰ってこよう。



 俺はそそくさと朝食を摂り、ダイニングに全員集めた。

 そして開口一番、いつもの。


「ダンジョンに行くぞ」


 その場に居た全員がカチンと固まる。

 中には「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの表情で俺を見てくる奴も居た。


 年始早々なのだ。

 当然の反応である。


「お前さん、ツッコミを待っとるのか?」

「あ? ボケた訳じゃねえよ」

「申し訳ないッスけどアタシ、この後リヴィと少し用事があるッス」

「ごめんなサイ。ワタシもカトルとポルを連れて行きたいところがありマス」


 ミャオに続き、フェイも申し訳なさそうな表情で言う。


 だから外で遊んでた時、フェイの返事がなかったのか。

 悪いことしたな……何も聞かずに窓閉めちゃったわ。

 

「そうか。それなら仕方ないな」

「あ、でも、すぐ終わりマスので少し待っててもらえるなら大丈夫デス」

「アタシらも少し待ってもらえるなら大丈夫ッスよ」

「ん? 別に用事のないメンバーで行くからいいぞ?」

「大丈夫デス! ただ街の外まで行ってすぐ帰ってくるだけデスから」

「同じくッス!」


 んんー? 街の外? それにすぐ終わる用事?


 もしかして……。


「お前ら、街の外に出てすぐにある建物に行くのか?」

「ハイ」

「そうッス」

「やっぱりか。知ってるかもしれんがアレ、一応ダンジョンだからな? 行くなら変な事だけはすんなよ」


 俺がそう言うとミャオとフェイだけでなく、その建物の存在を知っていたのであろうヘスス・ゼム・ロマーナの三人まで驚いていた。

 どうやら誰もダンジョンだとは知らなかったようだ。


「あそこダンジョンだったんデスか!?」

「ああ。『禧の社』という正月にのみ、大きな街の隣に出現する難易度一等級ダンジョンだ」

「え、でも魔物居ないッスよ?」

「ん? 一匹だけ居るぞ?」

「「いるッスか(んデスか)!?」」

「ああ。クソ雑魚な上、無害だけどな」


 それを聞いたミャオたちはホッとした表情を浮かべる。


 今の安堵は恐らく街の住人を思っての事だろう。

 ミャオ・フェイ・ヘスス・ゼム・ロマーナが知ってるって事はIDO時代と同じで全ての大陸、それも大きな街の隣に毎年出現してるって事だろうしな。


「で? 行先がだったわけだが……別々に行くか?」

「どういう事ッスか?」

「俺が行こうとしていたダンジョンがそこだって意味だ」

「それなら一緒で良いッス」

「一緒に行きたいデス!」

「決まりだな。んじゃ、ぺオニア誘って全員で行くぞ」


 俺は屋敷から出て別宅へとぺオニアを誘いに行く。

 どうやらぺオニアも毎年行っていたらしく「行きます!」と即答していた。


 その後、使用人の三人を除く『侵犯の塔』全員で王都の外まで歩く。

 俺たちが王都から出ると、すぐそばに『禧の社』の入り口である赤く大きな鳥居が立っていた。


 予想していた通り、小さな子どもから腰の曲がったお婆ちゃんまで老若男女を問わず鳥居を潜り『禧の社』内へと入っていく。

 続くように俺たちも『禧の社』へと足を踏み入れた。



 鳥居を潜った先には数メートル続く参道があり、奥には拝殿が見える。

 参道は途中で左右に分岐しており、左には境内社があり、右には手水舎があった。


 俺は先ず手水舎に行き、最初に左手、次いで右手、最後に口の順で清める。

 そして柄杓を置いて後ろを振り返ると、全員がポカンとした様子で俺を見ていた。


「お前らはやんねえの?」


 俺がそう聞くと、ぺオニアが興味ありげな様子で近付いてくる。


「タスクさんは何をしてたんですか?」

「身を浄めてたんだ」

「身を浄めてた?」

「参拝者の礼儀みたいなもんだぞ。全員やっとけよ」

「わかりました! やった事ないので教えてください!」

「いいぞ」


 とはいったものの巨人族であるぺオニアに対し柄杓が人間族サイズだったので、俺が代わりに水を掬い、先ほどと同じ手順で掛けてあげる。

 それを後ろで見ていた他のメンバーも真似をするように一人、また一人と手水舎で手と口を浄めていた。


 全員が浄め終わった所で次は拝殿の前へ行く。

 俺は拝殿に置いてある賽銭箱にお金を投げ込み、二礼二拍手一礼をした後、カラカラと鈴を鳴らした。


 刹那、鈴がパリンと割れる。


 そしてである、“一枚の白紙”が上からヒラヒラと落ちてきた。


 そう、この鈴こそが『禧の社』に居る唯一の魔物『幸運の鈴ラックベル』である。


 幸運の鈴ラックベルのHPはたったの1。

 だが、特定の方法を用いなければ倒せない。

 その方法というのは至って簡単で……。


 1.手水舎で正しく身を浄める。


 2.賽銭箱にお金を投げ込む。


 3.二礼二拍手一礼。


 4.鈴を鳴らす(成功してればここで1ダメージ入る)。


 これをすれば赤子でも倒せる。

 しかし、スキルを用いて幸運の鈴ラックベルを攻撃しようもんなら難易度十等級ダンジョンのボスと同等の強さを持つ『伊邪那岐イザナギ』と『伊邪那美イザナミ』が降臨する。


 懐かしい。

 IDO時代はよく挑んでたな。

 まあ、勝率は二割も無かったけど。


 俺が懐古しているとミャオたちが近付いてくる。


「何が起こったんですか?」

「魔物を倒しただけだ」

「……魔物?」

「ああ。あの鈴はここに居る唯一の魔物なんだ」

「え? でも、去年来た時はカラカラ鳴るだけで倒せなかったッスよ?」

「倒し方があるんだよ。お前らにも教えるから倒してこの紙を入手して来い」


 俺は全員に幸運の鈴ラックベルの討伐方法、もとい正しい参拝方法を教えた。

 

 全員が参拝を終えた所で、最後に境内社の方へと近付いて行く。

 境内社に扉などはなく、あるものと言えば自動販売機の紙幣投入口のような所と、紙が貼られているだけだった。


「タスク様? ここにも何かあるんですの?」


 何かあるか……だと? 境内社こそ『禧の社』の醍醐味だと言っても過言ではない。


「もちろん」


 俺はそう言いながら張り紙を指さす。


――――――――――――――――――――――――

 ・大吉:1%

 ・吉:5%

 ・中吉:15%

 ・小吉:30%

 ・末吉:45%

 ・凶:4%

――――――――――――――――――――――――

 

 ハッハッハッ。

 こういったに見覚えがあるだろう?


 そう! ガチャだ!!!

 

 IDO時代からあった一回のみ無料の新年ガチャ! 毎年ラインナップは変わり、中身がわからない! そして二回目以降は課金が必要というザ・闇ガチャ! しかし、この世界には課金というシステムがないので一発勝負になる!


 今日はそれを全員でガチャりに来たのだ!


 手水舎の礼儀? 正しい参拝方法? 幸運の鈴ラックベル? 伊邪那岐イザナギ? 伊邪那美イザナミ


 知らんなァ!! そんなもんどうでも良い。

 全てはガチャだ! フハハハハ。


 俺が心の中で高笑いしているとロマーナが眉を顰めて聞いてくる。


「タスク。これは何の確立だ?」

「説明しづらいんだが、この境内社が抽選機になってて、さっき鈴を倒して手に入れた紙をソコに入れたらアイテムを入手できるんだ」


 俺は自動販売機の紙幣投入口のようなものを指さしながら説明する。

 

「なるほどな。という事は、この確率はそのアイテムの排出率という訳か」

「理解が早くて助かる」


 その時、俺たちの話を後ろで聞いていたフェイ・ポル・カトルの会話が耳に入る。


「ふっふーん! 私すごいの当てちゃうよー!」

「ポルは<LUK幸運>がB+だからな」

「羨ましいデス。ワタシD-なので一番悪そうデス」

「俺もDだからあんまり変わんないよ!」


 ふっふっふ。

 甘い。

 実に甘いッ! <LUK幸運>? そんな物はガチャには関係ないのだ! 必要なものは、リアルラックだ!!


「ねーねー、タスク兄。もう入れていー?」

「ん? ああ。いいぞ」

「わーい! いっけー!」


 ポルが紙幣投入口のような場所に紙を突っ込む。


 すると、どこかから『テッテレッテ~ン』と軽快な音が聞こえてきた。

 それと同時に紙幣投入口の真下にあった、台座の上に一枚の紙と魔牛の置物が現れる。


 ポルは紙と置物を拾い上げると首を傾げた。


「あれー?」


 俺はポルの隣へ行き、紙に書かれている文字を見る。


「お、中吉。良かったな」

「えー、でも番目だよー?」

「不満か?」

「うーん。もっと良いのが出ると思ったのになー」

「そんなもんだ」


 俺はポルの頭をワシワシと撫でながら、魔牛の置物を<鑑定>する。


――――――――――――――――――――――――

 ・干支の置物:魔牛(残り365日)

 効果:範囲内の疲労回復速度上昇。

 設置可能:ホームのみ

――――――――――――――――――――――――


 今年の中吉は『干支の置物』か。

 効果もかなり良い。

 これはアタリの部類だ。


 因みに、残り365日となっているのは効果の期限だ。

 よって0日になっても効果が消えるだけで置物は無くならない。


「次はフェイがいきなよ」

「わかりマシた! 行きマス!」


 カトルに促されフェイは境内社に近付き、突っ込む。

 すると先程と同じ軽快な音の後に『チーン!』という音が聞こえ、鏡餅の置物と一枚の紙が現れた。


「吉……だそうデス」

「おお! おめでと! フェイ!」

「えー! ずるーい! でも、おめでとー!」


 カトルとポルがフェイに駆け寄る中、俺はフェイの持つ鏡餅を<鑑定>する。


――――――――――――――――――――――――

 ・鏡餅の置物(残り365日)

 効果:範囲内の疲労回復速度上昇。

    範囲内の傷の治癒速度上昇。

    範囲内の<MEN異常耐性>一段階上昇。

 設置可能:ホームのみ

――――――――――――――――――――――――


 は? 強ッ。

 馬鹿じゃね? おい、この世界の運営! やりすぎだ。


「じゃあ、次は俺が行くね!」


 カトルは勢いよく投入口に突っ込む。

 すると重く腹に響く音で『デデーン』と音が鳴り、一枚の紙と綺麗に束ねられた一束の草が現れた。


「え……」

「「カトル?」」


 ポカンとしたカトルの持つ紙をフェイとポルが覗き込む。

 俺もどうしたのかと気になったので覗き込もうとすると、三人がバッと勢いよく振り返った。


「タスク兄、凶って4%だったよね?」

「そうだが……まさか……」

「うん! 凶だった!」

「凄くないデスか!?」

「タスク兄、二番目だよー!!」


 ニコニコとした顔で言う三人。

 そこで俺はポルの言葉に違和感を感じた。


 (えー、番目だよー?)


 ポルは何故、上からじゃなく下から数えた?


 四番目と言ったのはからという訳ではなく……確率順? もしそうだとしたら、この三人は確率の低さで良し悪しを決めている。

 それならば、この笑顔にも納得がいく。


 ッ!? もしかして……。


 更に嫌な予感がした俺は全員の方を向くと、俺の思った通り全員が確率順だと思っていたようで、カトルを「凄い凄い」と褒めている。

 しかし――ゼム・ぺオニア・ロマーナだけは違った。


 ゼムとぺオニアは顔面蒼白になっており、ロマーナの表情は無そのもの。


 三人の表情を見て俺は全てを察した。

 恐らくしまったのだろうと。


 <鑑定>でカトルの持つあのを。


――――――――――――――――――――――――

 ・ミイム草

 効果:なし

――――――――――――――――――――――――


 どうしよう、この空気。

 ただの草ですー、なんて口が裂けても言えん。


 ……よし。

 何もなかった。

 この世には知らない方が幸せな事もあるんだ。


「じゃあ、次は虎て――」

「ねえ! タスク兄ッ! この草にはどんな効果があるのッ!?」


 あっ。


 俺の言葉を遮り、カトルたちがキラッキラした瞳で問いかけてくる。


 誰か助けてくれ。

 

 俺は一縷の望みをかけ、<鑑定>のスキルを持つ生産職の三人に視線を送った。

 しかし無情にもゼムとぺオニアはスッと目を逸らし、ロマーナは無の表情で俺を見る。


 ……スゥーッ……終わった。


 俺は目を瞑り、唇を噛みしめ、何とか声を捻り出す。


「……の……だ」

「え? なに?」

「ただの草だ」


 ポカンとした表情を浮かべるカトルたち。

 聞き間違いだと思ったのかカトルは「えへへっ」と笑い、生産職の三人の方を向く。


「ねえ、なんかタスク兄が意地悪なこと言うんだけど? ゼム爺たちも鑑定が使えるんだよね? これ本当はどんな効果なの? 本当の事を教えて?」


 カトルに問われたゼムとぺオニアは「えーっと」と言いながら目を泳がせる。

 そんな中、ロマーナは無の表情のまま言い放った。


「ただの草だ」

「嘘……だよね?」

「ただの草だ」

「4%……だよ?」

「ただの草だ」

「……」


 カトルが草をくしゃりと握りしめ、膝を落とし頭を垂れ、完全に『orz』状態になる。


 その姿がいたたまれなくなったのか先ほどまで「凄い、凄い」と褒めていた面々は静かになった。

 すると、そんなどんよりとした空気をぶち壊すかのように『テッテレッテ~ン』と軽快な音が鳴る。


「む? 中吉か」


 境内社には中吉と書かれた紙と干支の置物を持った虎鐵が立っていた。


 虎鐵はカトルの方へと近付いて行き、目の前に座る。

 そして持っていた干支の置物をカトルの前に置いた。


「カトル。コレを受け取ってくれ」

「……え? いいの?」

「無論。カトルはパーティの司令塔だ。カトルがダンジョン内で傷付くなど言語道断。それなら某が代わりにその傷を請け負おう」


 虎鐵はカトルの持つ草を奪い取ると、口に放り込みムシャムシャと食べた。


「虎鐵兄ッ!?」

「うむ。なかなかいけるな。これで跡形も無くなったぞ」

「……ありがと」


 虎鐵はフッと笑うと、カトルの方へと右手を伸ばし立ち上がらせる。

 ただの草を食った意味は分からんが、解決したようでなによりだ。



 その後、生産職の三人がガチャるも末吉。

 入手したアイテムは難易度一等級の魔石が一つのみ。

 ゼムが火、ぺオニアが風、ロマーナが土だった。


 そして最後に――俺たちのパーティが引く。


「まずは拙僧が行くのである」

「おう」


 ヘススが境内社に紙を突っ込むと『テッテロテロテン』と軽快な音が鳴る。

 そして小吉と書かれた紙と干支の置物が現れた。


「干支の置物か?」

「いや、どうやらポルやカトルの持つ物より少し小さいであるな」

「どれ」


 <鑑定>発動。


――――――――――――――――――――――――

 ・干支の置物:魔牛

 効果:なし

 設置可能:ホームのみ

――――――――――――――――――――――――


 名前は同じ『干支の置物』か。

 でも小吉の方は効果が付いてない。

 まあ、凶と末吉に続くハズレ枠だな。

 しかし、まあ、これでほぼ全て出揃った。


 大吉は多分“アレ”だろう。

 吉が効果有の限定家具。

 中吉が効果有の置物。

 小吉が効果無の置物。

 末吉が魔石。

 凶がゴミ。


 狙うは……大吉。

 

 いいや、否!!! 断じて、否!!!

 

 大吉なぞいらん。

 吉か中吉が俺の中では大当たりだ。


 などと思っていると『ジャンジャジャジャ~ン』と豪華な音が『禧の社』内全体に鳴り響く。

 もしやと思い振り返ると、ミャオが大吉と書かれた紙と薄い木箱を持って立っていた。


「だ、大吉が出たんッスけど」

「……ミャオすごい。」

「と、と、とりあえず、開けてみるッスね」

 

 ミャオはカパッと木箱を開ける。

 中には観世水の柄が入った赤い晴れ着が入っていた。


――――――――――――――――――――――――

【正月衣装:晴れ着】

・製作者:なし

・レベル:1~

・<VIT>D-

・<RES>D-

・<MEN>D-

・<LUK>A

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 やっぱり大吉は限定衣装だったか。


「綺麗ッスけど……アタシには似合わないッスね……」

「そんな事ないッ!」

「そんなことないですッ!」


 珍しくリヴィとぺオニアが声を荒げる。

 ミャオはビクッと飛び上がり、目を真ん丸として二人の方を見た。


「……帰ったら着てね?」

「えッ? いやッスよ! いくらリヴィの頼みでも聞けないッス」

「……だめ。……着せる。」

「そうです! 着るんです! えへへへへっ」

「リヴィ! ぺオニア! 目が、目が怖いッス!」

 

 リヴィとぺオニアから逃げ回るミャオを横目にヴィクトリアが紙を突っ込む。

 結果は末吉で、水の魔石がコロリと現れた。


「ハズレですわ。リヴィ様、いつまでも遊んでないでお次をどうぞ」

「……あ、はい。」


 続いてリヴィが突っ込むが、ヘススと同じ小吉。

 効果の無い干支の置物が現れるだけだった。


 そして――ついにやって来た。

 俺の番……トリだ。


 物欲センサー? 知らない子だな。

 一発でツモるのが俺だ。

 IDO時代も何度となく一発ツモをカマしてきた。

 俺は知っている。

 ガチャの心理を。

 そして、必勝法を。

 コツは心を無にする事! これである。


 俺は深呼吸をしたあとスンッと心を無にする。

 つられて表情もスンッと無になる。



 そして――躊躇わずに紙を突っ込んだ。



 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。



「おかえりなさいっ! お昼ご飯の用意できてますよっ」

「ああ、ありがとな」


 屋敷に戻ってきた俺は、玄関ホールに居たアンとキラの横を通りダイニングに向かう。

 その時、背後から二人と話すゼムの声が聞こえてきた。

 

「出先で何かあったんですかっ?」

「タスク様、元気ないですぅ」

「あー……なんじゃ。今はそっとしといてやってくれ」

「「はい……。でも何でタスク様はを握りしめてるんですか?」」

「……それも聞かんでやってくれ」

「「わ、わかりました」」


 

 ああ、この大王海老グランドシュリンプ……塩が効いてて美味いな。


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