百三十五話:純白女
俺の大盾とヴィクトリアの右拳が衝突する。
大盾は拳を後方に弾き、ヴィクトリアは体勢を崩した。
そこへ俺の『パワーランページ』がクリーンヒットし吹っ飛ぶ。
「ヴィクトリア! どうした!? もう終わりか!?」
「ナメないで頂きたいですわ!」
吹っ飛んだヴィクトリアは着地時に受け身をとり、黒いドレスを翻しながら駆け出す。
同時に『マグナム・メドゥラ』を発動させ、俺の頭部を目掛けて左拳を振り抜いてきた。
それを『インパクト』でヴィクトリアごと吹っ飛ばし、開いた距離を『スピードランページ』を発動させて一気に埋める。
咄嗟に腕をクロスさせてガードしようとしたヴィクトリアに当たる寸での所で『スピードランページ』キャンセル。
併せて『ライトフォース』・『グランドプロテクトシールド』を発動。
そしてリキャスト空けの『パワーランページ』を発動させて突っ込んだ。
この攻撃方法を虎鐵とのPVP時に一度見ているヴィクトリアは、ガードしても無駄だと思ったのか『イラ・メドゥラ』を発動させた右拳を突進に合わせて振ってくる。
……が、詰めが甘いぞヴィクトリア。
強化された大盾での『パワーランページ』は虎鐵の肋骨を粉砕した技だ。
いくら<拳闘士>のパッシブスキルで強化されたとしても、ヴィクトリアの<
その拳――貰った。
大盾と拳が衝突すると、ミシィという骨の軋む音が響く。
それと同時にヴィクトリアの顔が歪んだ。
「終わりだ」
「私の負け……ですわね」
微笑みながら右拳を左手で包むヴィクトリアに向けて『ホーリー』を放とうとした――その時、俺の横腹に一本の矢が突き刺さった。
「次はアタシッスよ!」
「不意打ちとは、さすが暗殺者だな。汚い」
「何とでも言えば良いッス! 今日こそはアタシが勝つんッスから!」
「上等だ。行くぞオラァ!」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
タスクに向かってミャオが本気で矢を放つ中、ヴィクトリアが右拳を摩りながらわたしとリヴィが居る方へと歩いてくる。
「お疲れ。惜しかったな」
「悔しいですわ。今日こそはあのニヤケ面に一撃叩き込めると思いましたのに」
「まあ、アイツは生産職のわたしから見ても分かるほど異常に戦い慣れている。オマケに硬い。人体を改造しているんじゃないかと思って一度、寝ている時に解剖してみようと思ったんだが刃が通らなかった」
「……タスクさんが知ったらキレるよ? ……多分。」
「バレなければキレようがないから大丈夫だ」
そうこう話していると、わたしとリヴィの背後に浮いていた白いワンピースがフヨフヨと泳ぐように宙を舞いながらヴィクトリアに近付いていく。
すると、みるみるうちにヴィクトリアの傷が癒えた。
この中身の無い白いワンピースのみという衣服の魔物は、難易度五等級ダンジョン『快方する神殿』のボス『
タスク曰く、
では、どうやって倒すのかと問うたところ「
最初は意味が分からなかったが、なるほど。
タスクの言うPVPとやらでわざと自分たちが傷付き、それをダメージとして
それに『快方する神殿』に来る前、タスクが二人に「面白いのが居る場所に連れて行ってやる」と言っていた意味も分かった。
二人はここまでの『蠢く岩漿』・『渦巻く洞』・『怪鳥の縄張』・『不動山』ではどこか物足りなそうにしていたからな。
よくタスクに挑んでいるミャオや戦闘が好きなヴィクトリアにとっては打って付けの場所という訳だ。
「ふっ飛べえッ!!」
「ンなッ! あああああ!」
ミャオがタスクの突進を食らい宙を舞う。
もう見慣れた光景すぎてリヴィやヴィクトリアは一切反応を示さない。
もちろん、わたしもだが。
「うーん。やはりわたしもやるか」
「……え? ……ロマーナさんもタスクさんと戦うの?」
「リヴィ。キミはもう少し賢いと思っていたんだが? わたしがあんなのに挑むわけないだろう?」
わたしは鎖でぐるぐる巻きにされたミャオを振り回すタスクを指さす。
リヴィは「ギエエー」と悲鳴を上げるミャオを見て苦笑いを浮かべながら小さく呟いた。
「……そうだよね。……じゃあ、何をするの?」
「このままPVPとやらだけでダメージを与えていては時間が掛かるだろう? わたしは早く屋敷に戻って研究がしたい。だからわたしもわたしでダメージを与える」
だが、ただ自傷するだけではつまらない。
……うーむ、何かないか。
そうだ。
では、毒などの状態異常はどうなのだろうか?
わたしは好奇心から魔法鞄に手を突っ込み、一本の針と小瓶を取り出した。
小瓶にはケパケロの町近郊で自生していたキノコから抽出した猛毒を入れている。
わたしは小瓶の蓋を開け、毒を針に塗り、それを自らの腕に刺した。
すると
徐々に傷が癒える中、毒素も抜けていく感覚があった。
ふむ。
……ん?
わたしが視線を
先ほどまで白一色だった
刹那――タスクが声を上げる。
「ソイツから離れろ!」
近くに居たわたしとリヴィとヴィクトリアは咄嗟に距離をとる。
タスクは今まで一度も使わなかった『フォース・オブ・オーバーデス』を発動させた。
「タスク、何だあれは?」
「
「何だそれは?」
「
「何が原因だ?」
「わからん!」
「は?」
「本当にわからねえんだよ。稀にだが傷を吸わせてると病むんだ」
そこで
その姿に先程までの白はなく、全身が赤く染まっていた。
するとタスクは微妙な顔をして、わたしに言う。
「ロマーナ、頑張れよ」
「何をだ?」
「ヤンデレモードは
「という事は、わたしに全て攻撃が向くってことだな?」
「そういう事だな」
「わたし死ぬんじゃないか?」
「大丈夫だ。傷は
「で? その間、キミたちは何をするんだ?」
「観戦だな。
「……嘘だろ?」
「ほんと」
「冗談じゃないぞ! わたしは生産職――うおッ」
そして素早く伸びてきた触手に足を取られたわたしは、
その時、咄嗟にタスクの方へと手を伸ばす。
が、タスクはヒラヒラと手を振ってわたしを見送った。
そして
痛くはない。
だが、だいぶ腹が立った。
もちろん
あそこでのうのうと茶を啜っているあの男にだ。
元はと言えばわたしの好奇心が原因なのだが……これは報復が必要だな。
などと思っていると
「お、やっぱ出たな。ヤンデレモードは確定ドロップだから助かるわ」
ぴちゃ、ぴちゃ。
「ん? 何で針を毒に浸してんの?」
スッ。
「で、何で針を俺に向けてんの?」
ブンッ。
「危ねッ!」
「ちっ」
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