百三話:反撃開始
真祖を潰す。
その言葉で辺りは静寂に包まれた。
各国の王やその護衛、『塔』のメンバーたちは、驚いていたり、目を輝かせていたり、訝しんでいたり、表情を変えなかったり、と様々な表情を見せる。
そんな中、コリントが口を開いた。
「オホホ。わらわ達ですら殺せなかった真祖をどうにか出来る、と?」
「はい」
正直言えば、わからない。
なんせ相手は見た事も聞いた事もない“真祖”と言う未知の生物だ。
わかっている事といえば分類上は魔人種であり、魔物の固有スキルである<魅了>を使えるという事だけ。
しかし、わからないからと言って放っておいて良い訳がない。
真祖は俺の大事なモノを傷付けた。
出来る出来ないは関係ない。
潰すと言ったら潰すだけだ。
「オホホ。即答するのね。わらわも行くわ」
「元はと言えば我が輩らのせいだからな。我が輩も行くぞ」
は?
何を考えてんだ?
いくら自分たちに原因の一端があったとしても、一国の王が自ら敵地に赴くって……。
うん、ダメだなこれは。
既に行く気でいらっしゃる。
断るのは無理そうだ。
コリントが少し気がかりだが、ヴノが居るなら大丈夫だろう。
それに敵が真祖だけとも限らないし、取り巻きが居たらそっちを頼むとしよう。
居なかったら完全な無駄足だが。
俺が二人に許可を出すと、同時に六人が立ち上がる。
「それなら僕も行っていいかな?」
「私も連れて行ってください!」
「蛇女と魔物が行くならオレたちも行くぞ!!いいよな!?」
「我も力を貸そうぞ」
「僕も連れて行ってくれないかな?」
「朕も行く!」
アザレア、グレミー、クラフト、ガンディ、ランパート、ヘンリーだ。
アザレアとグレミーは先代の魔皇帝が真祖に関係していたからという事もあっての事だろう。
しかし――。
「アザレア様とグレミー皇帝は、許可できません」
「なんでっ!?」
「どうして?」
「二人には残ってやってもらいたいことがありますので。それに連れて行って、死なれでもしたら困ります。後ろに居る人たちの気持ちも汲んであげてください」
俺がそう言うと、アザレアとグレミーが後ろを向く。
二人の護衛は一度ビクッとした後、頭を下げた。
「へっ、陛下、申し訳ありませんがタスクの意見に賛成です。危険です!」
「私も同意見です。グレミー様」
二人から視線を移し、西大陸の二人が座っている方に目を向ける。
「クラフト族王とガンディ獣王様、理由を聞いても良いですか?」
「あん!?そいつがウチに偽造封書を送ったんだったよな!?それなら、しっかりケジメはつけて貰わなくちゃいけねえだろう!?なあ!?」
「我は単に、何の利益も生まない、厄介としか思えん戦争を始めた愚か者どもを殴ってやりたくなっただけの事よ」
なるほど。
こちらさんもヤル気満々だなあ。
どうしようか。
コリントとヴノに許可を出した以上、拒否しづらい。
あ、そうだ。
「それならお二人はレヴェリア聖国に行って教皇を捕らえて来て貰っても良いですか?」
「あん!?なんでだ!?」
「そちらにも話を聞かないといけないので」
「チィッ!わかったよ!!」
「相分かった」
よし。
最後に東大陸の二人だが――。
「お二人には元より来てもらうつもりです」
ヘンリーは真祖が居る場所までの道案内役として、ランパートは吸血鬼の女……もといヴィクトリアの母親に用があるだろうからというのが理由だ。
「ありがとう」
「感謝する」
話が纏まった所で、俺は口を開いた。
「では出発する前に、この場を離れる六名にはお願いがあります」
全員の視線が集まった事を確認して続ける。
「それは、この場に残る事になっているグロース王、ラシュム、アザレア様、グレミー皇帝の四人に大陸の代表を一任する事です」
「オホホ。それはどういうことかしら?」
「言葉通りの意味です。残る四人に講和条約を結んで貰って終戦させようと思っています。もとよりこの円卓会議は今起こっている戦争を終戦させるために始めたものですので」
「なるほど。我が輩はそれで良い」
「相分かった。ラシュム、任せたぞ」
「僕もそれで大丈夫。グロース王、よろしくお願いします」
「朕も問題ない。ご迷惑をおかけします」
それぞれが大陸の代表を任せている中、不服そうな二人が同時に声を上げる。
「条約によってはわらわはこの野蛮人を潰せなくなるじゃない」
「条件によってはオレはこの蛇女を叩き潰せなくなるだろ!!」
コリントとクラフトは睨み合う。
完全に一致。
ふざけんな。
お前ら本当は無茶苦茶仲いいだろ。
「それなら二人は留守番という事で良いですか?」
「わかったわ。任せるわよ」
「チィッ!わかったよ!任せたぞ、ラシュム!!」
これでヘススの悩みはどうにかなりそうだな。
グロース、ラシュム、アザレア、グレミーの四人なら問題なく終戦させてくれるはずだし。
あとは、この場を離れる俺たちが真祖と教皇を抑えてそれで終わりだ。
俺は後ろを振り返り、カトルとポルとフェイに話しかける。
「ちょっと行ってくる。俺が居ない間、三人にはグロース王の護衛を頼みたいんだが、いいか?」
「任せて!」
「いいよー」
「ハイ!」
「ありがと。任せたぞ」
三人の頭を順番にポンポンと軽く叩く。
すると、ミャオがこそっと耳打ちをしてきた。
「一つだけ聞かせて欲しいッス」
「なんだ?」
「昨日の反応を見るに、真祖ってヴィクトリアの殺したい相手ッスよね?」
「そうだ」
「前にタスクさん、言ったッスよね。事情を聴いて間違ってると思ったなら止めてやればいいって」
「ああ」
「昨日、改めて聞いてみたッスけど……結局、教えてくれなかったんッスよ」
言わなかったのか。
だが、ミャオには知る意味が、理由が、権利があると俺は思う。
「まあ、簡単に言えば真祖がヴィクトリアの母親を操って父親を殺したってとこだ」
「そうだったッスか……」
それだけ言うとリヴィの隣へと歩いて行った。
「それじゃあ、行こうか」
俺は全員に行き帰り用で二巻の転移スクロールを手渡していく。
すると、そこである事に気付いた。
三桁あった転移スクロールの在庫が二桁になっている。
ヤバい。
使いすぎた。
これは死活問題だ。
「……タスクさん?」
リヴィが心配そうな目で俺の顔を覗きこんでくる。
「い、いや、大丈夫だ。なんでもない」
「まさか怖気づいた、なんて事は仰いませんわよね?タ・ス・ク・さ・ま?」
「あ?ヴィクトリア、それは寝言か?」
クスクスと笑うヴィクトリア。
だが、その目は笑っていなかった。
……我慢させて悪かったな。
思う存分、暴れろ。
俺が真祖の前まで道を作ってやる。
「転移、帝都クラートラム」
視界が切り替わり、高い塀に囲まれた帝都が目に入ってくる。
大きな門の前には数十では済まない兵士たちが並んでおり、俺たちを視認すると武器を構えた。
やっぱり。
これで監視の目があった事は確定だな。
しかし、まあ、電話や携帯がないこの世界でどうやって通信したのかね。
魔道具みたいな“物体”なら俺も欲しいもんだ。
そんなことを考えながら俺がインベントリ内から大盾を取り出そうとしたその時――。
「オホホホホ。わらわに武器を向けるなんて蛮行、誰が許したのかしら?」
言葉と同時にコリントの体を“どす黒い紫のオーラ”が包み込んだ。
おいおい。
嘘だろ?
お前も弱体化してないのか?
それとも自力でなったのか?
どちらにせよ間違いない。
「リヴィ」
「……ん?」
「良く見ておけ。アレがバッファーの極致の一つだ」
<
「オーッホッホッホッホッホ。邪魔よぉ!!!!!」
コリントが手に持った扇子を翳す。
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