百二話:襲撃鎮圧後(下)
港の後処理が終わり、ヴノとコリントが帰還する。
そして魔皇帝の四人がベルアナ魔帝都中から避難してきた住民たちに襲撃を鎮圧させたことを伝えた。
安心した住民たちが帰宅していく中、俺たち『侵犯の塔』も無事合流できたので話し始める。
「全員ここに居るって事は、特に問題はなかったようだな」
そう思っていた。
普段から、もしもの時のために全員に転移スクロールを一巻持たせている。
何かあったなら、シャンドラの屋敷に戻っていたはずだ。
しかし。
「それがッスね――」
「タスク様――」
ミャオとヴィクトリアがほぼ同時に口を開く。
二人はお互いに顔を見合わせると、ヴィクトリアはミャオが先に話すように促した。
「じゃあ、アタシから。簡単に言うとッスね、アタシとリヴィがレヴェリア聖国に行った時に会った黒ローブが居たッス」
「それで?」
「人を殺してたから、つい……」
「勝ったのか?」
「勝ったッス!」
「ならいい。お前らの事だから殺してないんだろ?」
ミャオとリヴィが頷く。
二人の表情を見て少し安心した。
二人掛かりとは言え、以前負けた相手に勝ったというのはデカい。
これからの自信や成長に繋がっていく。
その黒ローブには悪いが、二人の踏み台になってくれてありがとう。
「んで?ヴィクトリアの方は?」
「私と同じ<拳闘士>の方とお手合わせ致しましたわ」
「……は?」
「一方的に殴り飛ばして差し上げましたわ」
「うん。そうじゃなくてな」
「ええ」
「どうしてそうなった?」
「走っておりました所、喧嘩を売られましたの」
ヤンキーかよ。
喧嘩売られたから買ったって。
しかし、まあ、元より戦闘センスは高いと思っていたけど同じ<拳闘士>相手によく無傷で勝ったな。
本来、近接職の二人が本気でぶつかれば大怪我どころじゃすまないぞ。
相手のレベルがまだ低かったのか、ヴィクトリアの見た目や性別で手加減したのか、はたまた……。
真意はわからんが、聞きたい事は一つ。
「殺してないよな?」
「ええ。気絶するまで殴っただけですわ」
「そ、そうか」
それにしても<
アザレアが装備させられていた『不死者の宝冠』の時点で分かっていた事だが、レヴェリア聖国の戦力……明らかに高くね?
シャンドラに住んでて上位職っぽい奴は『銀狼』のエドラルドくらいしか見たこと無いぞ。
それも恐らくでしかない。
これは、ちょっと放っておけんな。
事ある事に『塔』が呼び出されるのは御免だ。
この機会に各国の王たちに色々伝えておくか。
「それと、フェイ」
「ハイ……」
「よくやった!」
頭を撫でてやるとフェイは首を傾げる。
「カトルとポルに聞いたが、お前はベルアナ魔帝都の住民を助るために行ったんだろ?」
「ハイ」
「それなら胸を張れ。何も間違った事はしてないんだから」
「ハイっ!」
ていうか、俺が怒る事って少なくね?
確かにダンジョン内では自覚するほど口煩く言ってる。
それは一人一人の立ち回りに全員の命が掛かっているからだ。
それがあるからよく怒るイメージがついてるのかね。
どちらかと言えば、普段からアンやキラに怒られているのは俺だ!
それは今、どうでもいいか。
「そういやフェイにもう一つ用事があったんだ」
「なんデスか?」
「グレミー皇帝がお前に会いたいって言ってたぞ」
「皇帝サマがデスか?」
「ああ」
「わかりマシた」
一度フェイ以外の全員と別れ、ベルアナ魔帝都の住民たちを見送っていたグレミーの元へと連れて行く。
俺たちに気が付いたグレミーは、隣にいるフェイの顔を見るなり瞳を潤ませてこちらへと勢いよく走ってきた。
「フェイちゃん!」
「お、お久しぶりデス」
「よかったあー」
グレミーは頭を投げ捨て、フェイに抱き着く。
おいコラ。
そんなんだから頭を無くすんだぞ。
学習しろ。
「苦しいデス」
「あ、ごめんね。それと……リィンデラ伯爵、お父様の事も本当にごめんなさい!私がもっと……もっとしっかりしていれば、お父様は亡くなったりしなかったかもしれない。私のせいで本当にごめんなさい」
グレミーはフェイに向かって深く頭を下げる。
その行動に驚いたフェイは、両手と顔を凄い勢いで横に振りながら口を開いた。
「い、イエ!グレミーサマのせいじゃないデス。それに……おとうサマは最期までワタシを守ってくれマシた。それがあったからワタシは頑張ろうと思えマシた。ワタシも誰かを守りたいと思えマシた。そしてなにより、タスクサンたちに出会えマシた。おとうサマが殺された事は悲しかったデスけど……今、ワタシは毎日が楽しくて幸せデスよ。だから、顔を上げてくだサイ」
「フェイちゃん……ありがとう」
ニコリと笑うフェイ。
“誰かを守りたい”か。
いいね。
フェイは根っからタンク向きだ。
俺以上かもしれない。
この子には俺の持てる知識を全部叩き込んでやろう。
そして、いずれ――。
「オホホ。強い子なのねえ」
「カカカ。我が輩に向かって来るくらいだからな。先の港でも勇敢だったぞ」
「へえ、凄いね。フェイちゃんだっけ?ギュレーンに――」
「引き抜きは勘弁してください」
「けちー」
「それより、見送りは終わったんですか?」
「うん。会議の続だけど、昼食を挟んでから再開しようか」
「そうですね。昼食というには少し遅いですけどね」
その後、城の料理人たちが作った昼食という名の夕食を食べ終わり、各国の王とその護衛たち、そして『塔』のメンバーが円卓の周りに集まる。
「じゃあ、再開するねー。タスク君よろしくっ!」
アザレアが俺に進行をぶん投げたと同時に、ラシュムが手を挙げた。
「その前に、そこに居る方々を紹介しては頂けないでしょうか?悪人ではない、という事は色を見ればわかりますが、私は目が見えませんのでお願いします」
「あ、そうですね。では――」
俺が午前中に居なかった『塔』のメンバー全員を手短かに紹介していく。
時間を設けてくれたラシュムには感謝しないとな。
これで『侵犯の塔』というクラン名だけじゃなく、メンバー全員の名前も認知された事になる。
あとは、実力を示して北の大陸へ渡るための『推薦状』を貰うだけだ。
ハハハ。
順調だなあ。
そんなことを思っていると、ラシュムは俺の方を見てニヤリと笑う。
もしかして手を貸してくれた?
……ほんと、最高かよ。
「――以上が今居る『侵犯の塔』のメンバーです。まだ他にも六名所属していますが本日は来ていません」
「で!?タスクよ!?そいつらをここに連れてきた理由があるんだろ!?」
「はい。今回の襲撃はタイミングが良すぎました。なので、どこかに監視の目があるのではないかと俺は考えてます」
「オホホ。それがここに居る誰かだと?」
「いえ、それはないと思っています」
「だったら、いったい誰だというのだ?」
「わかりません。ですが監視の目が“誰か”なんて事は正直どうでもいいんです。監視の目が“ある”という事の方が問題なんですよ」
「また襲撃が来るかもしれないって事かな?」
アザレアの質問に俺は首を横に振る。
確かに再び襲撃があるかもしれないが、そのためには海を渡る必要があるため今日来るという事はほぼほぼあり得ない。
「事の元凶が逃げる可能性があります」
「それで?タスク君はどうするつもりなのかな?」
そりゃあ、もちろん。
その為にクランメンバーを……ここに来る事を嫌がっていたヴィクトリアをわざわざ呼んだのだ。
「『侵犯の塔』で真祖を潰してきます」
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