八十七話:ユミルドの代表



 ゴルドと別れた俺たちは、目的地を目指して歩いていた。


「タスク様?手紙とスクロールを届けるだけ、だと仰っていましたわよね」

「そうだな」

「私、タスク様が随分念を押されていたと記憶しておりますの」

「そうだな」

「ですのに、御自分が破ってしまわれるのですわね?」

「そうだな」

「重罪ですの」

「そうだな」


 ヴィクトリアはヒクヒクと口元を緩ませながら言う。

 仕方がないだろう。

 せっかく優秀な人材が加入したいって言ってんだ。

 首の一つや二つはツッコむわ。

 というか、ゴルドに連れて行かれそうになったぺオニアを見て、先に口を出したのはお前だろうが。


「私のせいで、ごめんなさい」

「謝らなくていいぞ。ヴィクトリアのコレはいつもの事だ」

「え、えっと。そうなんですね?それと、改めてよろしくお願いします!私、がんばります!」

「ん。よろしく」


 あの後、考え込んだ挙句、ゴルドは首を縦に振り、ぺオニアは晴れて『侵犯の塔』に加入できることになった。

 ただし、条件付きだが。


 一つ、『侵犯の塔』を脱退した場合、商会を継ぐ事。

 二つ、定期的に現状報告として手紙を寄越す事。

 三つ、スクロール複製が出来るようになったら卸す事。

 四つ、年に一度は必ず帰ってくる事。

 五つ、危険な事は絶対にしない事。


 だそうだ。

 なんというか、過保護じゃないか?

 最初は厳しい父親なのかとも思ったが、娘の事を考えて商会を継がせようとしていたのかもしれん。

 だが、無理強いすんのは良くないと今でも思っている。

 娘がやりたいと思っている事を一度は応援してやるのも父親の役目だと思うが。

 親の心子知らず、というやつか。

 俺も息子や娘ができたら、わかる気持ちなのかね。


「それにしても、取引みたいな形でしか加入させてやれなくて、ごめんな」

「謝らないでください!形はどうであれ『侵犯の塔』に加入できるのは本当に嬉しい事なんです!ヴィクトリアさんにダンジョンの話を聞いたときなんて、ワクワクしてその日は眠れなかったくらいなんですよ?私、生まれて一度も国を出た事がないので」

「そうか。嫌でもダンジョンにはレベル上げをしに行くことにはなる。だが、ぺオニアはあくまで生産メインだから、あまり多くは連れて行ってあげられないぞ」

「時々連れて行ってもらえれば、大丈夫です!生産の方も一生懸命がんばりますね!」

「ん。ありがとな」

 


 話しながら、しばらく歩いていると大理石かと思うほど白く、綺麗な花崗岩で建てられたマヤ遺跡のような形をした建造物が見えてきた。

 ここが俺たちの目的地である、ユミルド国際会議場だ。

 入口に近付くと二人の巨人に止められる。


「む?人種が何か用か?」

「ジュラルダラン獣王国からの手紙を持ってきたんだが。クラフト族王とステイブ族王は居るか?」


 手紙を取り出し、二人に見せると急いで姿勢を正した。


「し、失礼いたしました!」

「どうぞこちらへ!ご案内させていただきます!」


 俺たちは一人の巨人に連れられて、長い階段を上っていく。

 その先には、天井や壁の無い開放感のある空間が広がっていた。

 中央部には巨人用であろう巨大なテーブルと巨大な椅子が二脚あり、その一席に一人の巨人が座っているのが見えている。


 ステイブ・ド・グランディア。

 巨人族の王だ。

 その身長は八メートルを軽く超えており、圧倒的の一言に尽きる。


「クラフト様、ステイブ様、会談中に失礼致します!ジュラルダラン獣王国の使者を連れて参りました!」

「ご苦労様。下がって良いよ」

「ハッ!」


 俺たちを案内してくれた巨人は足早に階段を降っていく。

 すると、椅子に座っていた巨人はテーブルの上に手を伸ばして立ち上がり、何かを手に乗せたまま俺たちに近付いてくる。


「ゴラァ!!ステイブ!!あまり揺らすなと、いつも言ってんだろうが!!」

「ごめんね。だけど、仕方ないでしょ?」


 ステイブの手に乗り、文句を言っていたのは一人のドワーフ。

 クラフト・ド・ノームリア。

 ドワーフ族の王である。

 なんかIDO時代とは二人共イメージが違うなあ。


 クラフトはステイブの手から降りると、俺たちの前に立ち口を開く。


「そこの黒いのは確かヴィクトリアって言ったか!?前にガンディのとこの息子と一緒に来てた奴だな!?」

「仰る通りですわ。クラフト様、ステイブ様、お久しぶりです」

「そんで?オマエがガンディのとこの使者だあ!?モロ人間じゃねえかよ!!」

「人間ですが、何か問題がありますか?」


 ピクリとクラフトの眉が上がる。

 沸点低くない?


「威勢がいいなあ!?オイ!!」

「まぁまぁ、クラフト。元気なのは良いことじゃないか。僕はステイブ・ド・グランディア。こっちの小さいのはクラフト・ド・ノームリア。口調は荒いけどいい人だよ」

「誰が小さいの、じゃゴラァ!!」


 ステイブから見れば、誰でも小さいだろ。

 それに、クラフトはドワーフの中では大きい方だと思うぞ。

 ヴィクトリアと同じくらいの身長だし。


「俺は『侵犯の塔』のタスクです」

「『侵犯の塔』!?報告を聞いた事があるぞ!!ゼムの奴が入ってるクランだったよな!?」

「はい」

「ゼムの奴は元気にやっとるのか!?」

「ええ、まあ」

「そりゃあ、何よりだ!!一緒に旅してた奴らが急に発生したダンジョンで死んだって聞いた時には帰ってくるかとも思ったが、一切帰って来やしねえ!!」

「急に発生したダンジョン?」

「あん!?確かオマエ、クランマスターだったよなあ!?なのに知らねえのか!?ヴァレン帝国がダンジョン化した時だ!!ゼムはその場に居合わせたんだとよ!!」

「そうなんですね」


 初耳だな。

 だが、聞かなかった事にしよう。

 以前、「困った事があるやつは遠慮せず言え」と言った時、ゼムは明らかに表情を曇らせた。

 それでも言って来てないって事は、まだ俺たちに言うべきではないと考えているんだろう。

 

「ヴィクトリア、ぺオニア。今聞いた話は心に仕舞っとけ」

「畏まりましたわ」

「わかりました」


 しかし、だ。

 覚えてはおこう。

 難易度八等級ダンジョン『ヴァレン帝国』。

 行く気はなかったが、そのうち潰すか。


「それで?ぺオニアちゃんがなんで、タスクくんたちと一緒にいるの?」

「実は、私『侵犯の塔』に加入させていただいたんです」

「そうだったんだ。よく、あの父親が許してくれたね」

「タスクさんが説得してくれたんですよ」

「それは凄い。僕じゃ出来そうにないや。でも、良かった。ぺオニアちゃんは昔から色んな場所を見てみたいって言ってたもんね」

「はいっ」

「楽しんでおいでね」

「目一杯、楽しんできます」


 ステイブとぺオニアって仲良かったのか。

 まあ、同じ巨人族だし、二人共どこかオットリしてるし、通ずるところでもあるんだろう。

 知らんけど。


「そういえばタスクよ、本題がまだだったな!!」

「これをどうぞ」


 俺はクラフトに手紙と転移スクロールを二巻渡す。

 ギョッとした表情をした後すぐに、瞳の色が変わった。


「はあ!?転移スクロールだと!?何に使うんだ、こんなもん!!」

「詳しいことは手紙に書いてあると思います」


 クラフトはビリビリと豪快に封を破り、中を確認する。


「円卓会議とやらの話は聞いておったが明後日だと!?」

「はい」

「通りで転移スクロールか!?」

「はい」

「転移スクロールはタスクの持ち物だと書いてあるが!?」

「はい」

「よし、タスク!!連合国に来い!!悪いようにはせん!!」

「シャンドラで待ってる家族が居るんで」

「そうか!!だが、気が変わったらいつでも来い!!歓迎するぞ!!」

「ありがとうございます」


 その後も二人の代表と少しだけ話をした後、ユミルド国際会議場を後にした。


 

 次はイシュトゥラルト精霊国か。


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