六十八話:レヴェリア聖国

 ~Side:ミャオ&リヴィ~



「「転移、レヴェリア聖国」」


 視界が切り替わり、転移した場所は崖の上の森。

 崖下を見れば、レヴェリア聖国を一望できる。

 目に映るのは巨大な真っ白な建造物。

 王都にある王城よりも大きな神殿が、小さな街の四分の一ほどを占めている。

 街の周りは崖に囲まれており壁や門はなく、道は一方向に渓谷が伸びているだけだった。


 レヴェリア聖国は目の前に見えている街以外に領土は持たず、暮らしているのは教徒のみ。

 教皇を始め、枢機卿が二人、大司教が二人の計五人から成り立つ国家だとタスクに聞いている。

 世界各国にある教会の司教クラスは必ずこの国で教義を受けているので、王都にやって来た司教と同じ教えならば、人種でない私たちが足を踏み入れる事を良しとしないだろう。


「……いい?ミャオ。……私は一緒に行けないけど無理はダメ。」

「わかってるッスよ。けど、リヴィは何で付いてきたッスか?」


 リヴィは顔を赤くし、プクッと頬を膨らませる。

 アタシは『メルトエア』で気配を消せるけど、自分以外には掛ける事が出来ない。


「……心配だからだよ。」

「心配しなくとも大丈夫ッスよ!危なくなったら逃げてくるッス!」


 アタシはそう言うと『メルトエア』を発動させ、岩肌剥き出しの崖へと駆け出す。

 崖から突き出た岩をぴょんぴょんと器用に飛び聖国内部に着地する。


 さて、行くならアレッスよね。

 

 視線の先にあるのは巨大な神殿。

 『メルトエア』を発動してはいるが、念には念をという事で物陰に隠れながら裏通りを進む。

 すると、数分程で違和感を覚えた。

 裏通りとはいえ、民家は建っているにもかかわらず人っ子一人いない。


 おかしいッス。

 とりあえず大きな通りも見てみるッスかね。


 崖の上から見た記憶を頼りに裏通りを進む。

 すると、一分もしないうちに大きな広場へと出る事ができた。

 同時に違和感が寒気に変わる。

 誰も居ない静かな広場。

 露店にすら人が立っていない。


 まだ昼間ッスよ?

 なんか嫌な予感がするッスね。


 そうは思いつつも、神殿へと歩を進める。

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



「……ミャオ、大丈夫かな?」


 崖上に残っていた私は崖下にある聖国を眺めていた。

 上からでは人など豆粒ほどにしか見えない距離だ。

 そんな所からただでさえ小さいミャオを見つけるなんて不可能である。


 どう見ても人が居ないような……。

 人が居ないんだったら私も行けたかな?

 ……ダメダメ。

 私が行くと足手まといになっちゃう。

 ここに居ても出来る事をしよう。


 私は少しだけ歩き、人が居ないかを探す。

 だが、歩けど歩けど見つからず、渓谷までやって来てしまった。


 あれ?

 なんだろ?


 渓谷の下に何かが見える。

 豆粒ほどの大きさで何かはわからないが確実に動いていた。

 私は辺りを見渡すが降りられそうな場所は無く、後ろには森が続いているだけだった。

 

 私もミャオみたいに飛び下りれたらな。

 遠視も出来ないし。

 渓谷を道なりに進んでいったら下りれるかな?

 ミャオはまだ戻ってこないだろうし。


 そう思い、私は渓谷を道なりに進んでみる事にした。

 右は渓谷、左は森の状態が続く道。

 何かあってもいいように、手には本と転移スクロールを握りしめている。

 

 しばらく景色の変わらない道を進んでいると左の森から物音が聞こえた。

 バッと勢いよく音のした方を向くが、深い森が続いているだけで何も見えない。

 

 『ガサガサ』


 木の根元に生えていた草むらが揺れる。

 同時に本を開き、距離をとる。 

 戦闘態勢をとり、一分ほど草むらをみつめていると、白い塊がポトリと転げ出てくる。


 ……毛玉?

 なんだろ

 何かの罠……かな?


 白い毛玉から視線を外し、森の中を見るが何も見えない。

 すると、その毛玉が視界の端でもぞもぞと動く。

 咄嗟に視線を戻し、自分にバフを掛ける。


「……ゴホッ……ウゥ……」


 毛玉が喋った!?

 

 少しずつ警戒しながら近付いてみると、白い毛玉の所々が赤黒く染まっており、一部からポタポタと液体が落ちている事がわかった。

 手を伸ばせば触れる距離まで来たところで毛玉はバッと飛び上がり、二足で立ち上がる。

 ミャオの半分もない身長で見た目は完全にウサギ。

 手にはとても小さな短剣を持っており、口からポタポタと血を落としている。


「ニンゲン!……エルフ?」


 ウサギが喋った!?!?

 ……あ、ミャオも猫か。


「オマエ、ナニ?」

「……私はリヴィ。……あなたは?」

「ナイ」

「……ナイくん?……ナイちゃん?」


 二人して頭の上に「?」を浮かべ首を傾げる。

 

「リビ、テキ?」

「……敵?じゃないと思う。……でも襲ってくるなら戦うよ。」


 本を構えると、ウサギは慌てて小さな短剣を落としながら叫ぶ。


「シヌ、イヤ!」


 私はホッとして本を閉じる。

 すると、戦意がない事が伝わって安心したのか、ウサギは前のめりにパタリと倒れる。

 

 え、どうしよう?

 私はキョロキョロと辺りを見渡すが誰も居ない。

 そうだ、今は私しかいないんだった。

 悪い子じゃなさそうだったし―――よし!

 

 私は魔法鞄からタスクに渡されていたポーションを取り出し、栓を抜く。

 そして、倒れているウサギに駆け寄り膝を付くと口にポーションを流し込む。

 序でに、二本目の栓を抜いて傷口にもかけておいた。


 目を覚ましてくれるといいんだけど……。


「……ミャオ、大丈夫かな?」



 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



 ……なんなんッスかコレ。

 あり得ないッスよ。


 神殿の敷地内に忍び込んだアタシは壁を上り、聖堂内を天窓の外から覗いていた。

 太陽光を入れる為か、屋根に取り付けられた窓からは『イーグルアイ』で聖堂内を見渡すことができた。

 そこで見た光景は、吐き気のするほど悍ましい物だった。


 聖堂の一番奥には男神像が祀られており、数百人の人が両膝を付き手を合わせている。

 それだけなら教会でも見た事がある光景だが、明らかに異常と呼べるものが男神像の前に置かれていた。


 大量の死体。

 白毛のウサギにも見える。

 

 悪趣味にもほどがあるッスよ。

 さっさと帰ってタスクさんに知らせた方がいいッスかね。


 そう思い、立ち上がろうとした時―――


「おやおやあ~。ネズミが入り込んでんなあ~?」


 ―――真横から男の声がした。

 振り向くと黒いフードを深く被ったローブ姿の人物が隣に立っていた。

 アタシは咄嗟にバックステップで距離をとり、腰に付けていた短剣を抜く。

 

 今、気付いた。

 アタシは今『メルトエア』を使っている。

 何故、気付かれた?

 それに、この男からは気配を感じなかった。

 ……ヤバい。

 

「アはははハはははハはははハ!久々の獲物だあ~!愉しませてくれやあ~!」

 

 男はローブの下から短剣を抜くと、駆け出し距離を詰めてくる。 

 互いの短剣が金属音を鳴らし交わる。

 

 速い。

 それに、<STR>もある。

 ミャオは押し負け、弾かれ後ろに下がるが、追い打ちが来る。

 

「おお~!いいねいいねいいねえ~!俺っチとまともに打ち合えるとか燃えるわあ~!」


 喋りながらも手数が多くなってくる。


 ……強いッス。

 転移スクロール用意しとけば良かったッスかね。

 

「う~ん。勿体ないけどお~、時間もないしい~、死のっかあ~!?」


 男がスキルを使う。


 嘘……。

 見間違えるはずがない。



 <暗殺者アサシン>スキル……?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る