五十一話:ミャオの夢
アタシとヴィクトリアは森を駆けていた。
今にも血管が切れてしまいそうな程、額に青筋を浮かべたタスクはアタシたちを置いて、どこかに転移して行った。
どこかじゃない、あの『城』に行ったことはわかっている。
転移する少し前に、あの『城』をジッと睨みつけていたからだ。
何やってるッスか。
十等級なんッスよね。
一人で行ってどうにかなる訳ないじゃないッスか。
どうして何も言ってくれないんッスか。
「ミャオ様?大丈夫ですの?」
ヴィクトリアは走りながら、アタシの顔を覗きこんでくる。
よく澄ました顔をしていられるものだ。
これから行く場所は十等級のダンジョンだというのに。
「大丈夫ッス。心配ありがとッス」
そう、アタシたちはタスクを追い『城』へ向かっている。
リヴィとヘススには亀竜の魔石と素材を回収しながら、隕石の落ちた場所を見てきてもらうという事になった。
だが、隕石に関しては何もわからず、空振りに終わるだろう。
何故なら隕石が降り始めてからタスクが変わったからだ。
あの隕石はなんだったッスか?
アタシたちより大事な事だったッスか?
アタシたちが見えてなかったッスよね?
アタシたちの声が聞こえてなかったッスよね?
不安になる。
またダメになるんじゃないかって。
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
アタシは成人すると同時に冒険者になった。
職業は<盗賊>。
<
生まれ育った里の中でも圧倒的だったからだ。
この高い<
そう思っていた。
里近くの街の冒険者ギルドに行ったアタシはすぐに注目された。
原因のほとんどがこの容姿だった。
獣人種は基本的に人に獣の耳と尻尾が生えている姿。
だけどアタシの場合は、ほとんどが猫そのもの。
周りと同じなのは、人の言葉が喋れる事と二足歩行をしている事くらい。
異端視されるのには時間がかからなかった。
だけど、アタシはそんな事ではめげずに実力で勝負しようと思った。
里ではみんなと仲が良かったんだから大丈夫なはずだと。
「ミャオッス!よろしくお願いしますッス!」
数日後、初めてパーティを組んだ。
ギルドの討伐依頼をこなすための臨時のパーティ。
依頼内容は増えすぎた
農作物や家畜を襲って困っているから、という内容だったのを覚えている。
「「「よろしく~」」」
パーティはアタシ以外には三人の冒険者が居た。
全員が獣人の若い男。
翌朝に街を出発し、
道中は特に何もなく、一晩野営を挟む。
次の日、目的地へと到着した。
「それじゃ、ミャオちゃんだっけ?ゴブリンがどこにいるか探してきてくれない?」
「了解ッス!行ってくるッスね!」
アタシは初仕事という事もあり、張り切って偵察に出た。
結果は上々。
ゴブリンたちの巣穴を発見し町に戻ってくると、男たちは昼寝をしていた。
少しムッときたけど、アタシに出来ないことをこの人たちがしてくれるんだ。
そう思ったら収まった。
「ゴブリンの巣穴があったッスよ!案内するッス」
「はーい。じゃあ行こっかね~」
もたもたと準備する男たち。
欠伸をしながら酒の入った革水筒を呷る三人を巣穴まで案内した。
戦闘は圧倒的だった。
先ほどまでだらしなかった男たちは何処にもおらず、大きな剣やハンマーでゴブリンたちを殲滅していく。
一時間ほどでゴブリンは一匹も居なくなり、巣穴には臭い血の匂いと死体だけが残っていた。
こうして依頼が終わり、街に帰った時だった。
「はい。これミャオちゃんの分ね~」
渡されたお金は報酬の十分の一ほどもなかった。
「なんか少なくないッスか?」
「え?だってミャオちゃん
え?
アタシは偵察を完璧にこなした。
みんなほどじゃないけど
「なんか文句あんの?」
アタシが首を傾げていると他の男が凄んでくる。
「アタシは偵察したじゃないッスか!」
「そんな事、誰にでも出来るだろ。戦えない奴を連れて行ってやってるだけありがたいと思えよな」
後ろでお金を渡してきた男ともう一人の男が「そうそう」とか言いながら笑っていた。
アタシは間違っていない。
そう思い、いろいろなパーティを渡り歩いた。
そうして知った。
現実を。
討伐依頼はたくさん魔物を倒した人が優遇される。
護衛依頼は名声や実力を持った人しか受けられない。
アタシには<
魔物も倒すのに時間がかかるし、倒せない事だって多い。
名声や実力がある訳でもない。
アタシに残されたのは採取依頼くらいだった。
そうだ、この街がおかしいんだ!
そう思って別の街にも行ったが一緒だった。
そうだ、この国がおかしいんだ!
そう思って別の国に言ったが一緒だった。
そうだ、この大陸がおかしいんだ!
こうしてアタシはシャンドラに流れ着いた。
また一緒だろう。
軽く諦めていた。
そんな時だった。
一人だけが違った。
見つけた。
アタシを本気で必要としてくれる人。
最初は胡散臭い人だと、無茶を言う人だと思った。
それに、口だけは良く回る人だとも思ったっけ。
だけど、アタシを本気で説得してきた人。
その人の言う、最上位職の話を聞くうちに惹かれていった。
夢物語かもしれない、そんな話だった。
だけど、もし。
もしも、この人が言ってることが本当だったら?
本当にアタシの夢が叶うんじゃないか?
(冒険者になって、みんなに贅沢させるッスよ!)
昔、アタシが言った言葉が聞こえた気がした。
付いて来て正解だと思うのに時間はかからなかった。
いろいろなダンジョンに連れて行かれ、地獄のような光景を見たけど、今まで生きて経験してきた何よりも愉しい。
それに弱っちいアタシを戦えない奴、無能、くっつき虫、なんて呼ぶ人は一人もおらず優しかった。
そしてなにより、本当に強くなれた。
上位職に上がった時なんかは本当に嬉しかった。
もっと強くなれるんだ。
その実感が、感覚が、気持ちよすぎて忘れられない。
それは一緒に頑張ってきたリヴィも同じだったようでリヴィは泣いていた。
アタシもタスクさんが撫でてくれた時は泣きそうになった。
アタシを救い上げてくれた人、タスクさん。
アタシと似た悩みを持った、リヴィ。
二人には本当に感謝している。
勿論、他のみんなにも感謝している。
ほんとに付いて来てよかったッス。
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
『城』に着いたアタシとヴィクトリア。
門の外から建物を見ただけで気分が悪くなる。
大きく深呼吸をし、門を潜る。
アタシと並ぶようにヴィクトリアも歩き出す。
ヴィクトリアの額には少し汗が垂れており、ゴクリと小さく息をのんでいた。
ヴィクトリアもちゃんと怖い物があるんッスね。
安心したッス。
アタシもしっかりしないとッスね。
薄暗いアプローチを歩く二人。
数分歩き続けると地面に何か落ちているのが見えてくる。
『イーグルアイ』発動。
…………。
「ミャオ様?如何なさいましたの?」
ヴィクトリアは声が響かないように小声で話しかけてくる。
アタシは膝から崩れ落ち、その場に座りこんでいた。
地面に落ちていた
ピクリとも動かないタスクだった。
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