四十八話:『塔』始動



 『千年孔せんねんこう』は難易度七等級の洞窟型のダンジョン。

 出現する魔物は竜種、亀竜タートルドラゴンのみ。

 ダンジョン内部は洞窟だが今回は氾濫なので関係ない。


 難易度七等級というだけでも最悪なのに選りに選って亀竜かよ。


 亀竜は呼び名のまんまを体現していて、亀の甲羅の中に竜が入ってるような見た目だ。

 そして何より硬い。

 鱗も甲羅も何もかもが硬い。

 ただ、足が遅いので氾濫の被害が広がるのが遅いだろう。


「やっぱり、無理―――タスクさん!?」


 驚いたような表情でフランカが俺を見てくる。


「ん?どうしたの?」

「なに笑ってるんですかッ!こんな時にッ!」


 おっと。

 笑ってしまっていたようだ。

 不謹慎だが、ちょうどいい。

 『侵犯の塔』のデビュー戦には不足ない相手だ。


「すまん。何とかするよ。フランカ、クラン申請書くれない?」

「待ってくださいね!はい!どうぞ!…………じゃなくて!!そんなことしてる場合じゃ…………クラン設立するんですかッ!!?」


 この子、面白いな。

 コロコロ表情変えながら忙しい子だな。

 声が大きく、ギルドのロビーに響いていたようで冒険者たちや他の受付嬢たちがフランカを見ていた。

 それが恥ずかしかったのか耳まで真っ赤にしている。

 少し俯き、上目遣いでフランカが聞いてくる。


「それで……、クランの受付はどうされるんですか?」

「使用人にやってもらうつもりだよ」

「そうなんですねッ!」


 頬をプクっとふくらましジト目で見てくるフランカを放置し、クラン申請書を書いていく。

 書き終わった書類をフランカに渡し、ギルドを後にする。

 後日、クランホームである屋敷にギルド本部の人が訪れ、ギルドにある物と同じ水晶板を受け取ることが出来るらしい。


 屋敷に戻った俺は全員をダイニングに集めるとクランを設立したことを話す。

 ミャオとリヴィはお互いの両手を合わせ微笑みあっていた。

 アンとキラはやる気で目がぎらぎらとしていた。

 ヘススとバトラとヴィクトリアは無反応という感じ。

 フェイ、カトル、ポルは何かを話し合っていた。

 ゼムは俺に近付き声をかけてくる。


「お前さんと会った日が懐かしいわい。たった二人じゃったワシらがこんなに大人数になるとはの」

「あと四人来れば準備が整う。もちろん、妥協はしないつもりだ。これからもよろしく頼むよゼム」

「任せとけ。最高作を準備してやるわい」


 ニカッと笑うゼムからは熱気を感じた。

 やる気十分で助かる。


「早速で悪いが俺たち『塔』に仕事だ」


 俺の言葉に視線が集まる。

 みんなのやる気十分のようだ。

 叩き落としてやろう。

 余談だが俺たちは『塔』と略称することにした。

 

「スタンピートの対処だ。場所は『千年孔』。俺とミャオ、リヴィ、ヘスス、ヴィクトリアの五人で行く」


 当然だがフェイ、カトル、ポルにはまだ早い。

 俺はチラリとゼムの方を見ると笑いながら口を開く。


「だから気にするなと言っとるじゃろ。ワシは鍛冶専門じゃ。レベル上げには付き合ってもらうが主戦力にはならんわい。それと……持ってけ」


 ゼムは魔法鞄から一張の弓を取り出しミャオに渡す。

 魔物の素材とオレカル鉱石を使った綺麗な山吹色の弓。


 <鑑定>。

――――――――――――――――――――――――

【エルダートレントの弓】

《オレカル加工》

・製作者:ゼム

・レベル:30~

・<AGI>C+

・<DEX>B-

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 さすが良い弓だ。

 これなら少しは楽になるかな。

 ミャオは子供を触るようにやさしく弓を受け取る。

 ちゃんと体のサイズに合わせて作られており、弓を握った瞬間ミャオの顔がくしゃっと顰む。


「ありがとうッス……。大事に使うッス……」

「おう!そうしてくれ!」


 ミャオは頭を下げ、ゼムは頬を掻きながら笑う。

 これは意地でも活躍させてやりてぇな。

 

「んじゃ、全員準備」


 ミャオ、リヴィ、ヘスス、ヴィクトリアの四人はダイニングを出ていく。

 するとカトルとポルが近付いてくる。


「タスク兄!!俺も連れてってください!!」

「私もいくー」

「ダメだ。相手は七等級だ。死ぬぞ」


 ムスッっとする双子の後ろでフェイがあわあわとしている。

 アンとキラは少し離れた位置から心配そうな顔をする。

 いつもは甘やかすが今回だけはダメだ。

 心を鬼にする。

 今回連れて行けば間違いなく死ぬ。

 


 玄関ホールに全員集まると四人に転移スクロールを渡す。

 『千年孔』に転移すると氾濫に巻き込まれるので、近くの街か近くのダンジョンに転移する必要がある。

 近くの街は『サントリナ』という街があり、近くのダンジョンは何の因果か『いにしえの皇城』が建っている。


 転移先は勿論、サントリナにした。

 一瞬で景色が変わり、石壁で囲まれた大きな街が目の前に広がる。

 ギルドカードを見せ、街の中に入った俺たちは石畳の道を歩き宿に向かう。

 

 街の中は小奇麗な中世の街並みという印象。

 サントリナの街はIDO時代に何度か訪れた事があり、宿の場所も知っている。

 宿に着いた俺たちは二人部屋を一つと三人部屋を一つ取り、その日は自由行動にした。


「スタンピートだけあって、街中も宿も全然ひとがいねぇな」

「そうであるな」


 俺とヘススは街中を歩いていた。

 ギルドに行って氾濫の情報を集めようとヘススを誘ったのだ。

 俺たちはウエスタンの扉を押しながら入る。

 昼間という事もあってかギルドのロビーには誰もおらず、眼鏡をかけたインテリっぽい女性の受付嬢がぽつりと立っていた。


「サントリナ冒険者ギルドへようこそ!今日はどういったご用件で?」

「スタンピートについて聞きたいんだが」

「あー、やめておいた方がいいですよ。みんな別の街に逃げちゃいましたし」


 冗談だろ?

 仮にも自分たちが暮らしてきた街じゃないのか?

 

「お前は逃げないのか?」

「ギルドをあける訳にいきませんし、私以外に誰もいないんで」

「ギルドマスターは?」

「あ、私です」


 なるほど。

 そりゃ逃げられないわな。

 それならある意味、好都合かな。


「俺たちは王都シャンドラから来た、『侵犯の塔』のタスクだ」

「シャンドラ!?昨日くらいに早馬が着いたはずですよ!?サントリナがホームとかですか?」

「シャンドラがホームだ。そこは気にしなくていい。情報をくれ」


 ギルドマスター曰く『千年孔』から溢れた亀竜の群れは真っ直ぐサントリナに向かってきているらしい。

 亀竜の足なら速くて四日ほどだろう。

 それに途中には『いにしえの皇城』がある。

 氾濫した魔物が他のダンジョン内に入ることはないだろうが、入ってくれれば楽だ。

 だが、そうなれば俺たちの功績にならない。

 話をしてくれたギルドマスターにお礼を言って、俺たちはギルドを後にする。

 

「初めての難易度七等級の魔物だが大丈夫か?」


 宿に戻った俺たちは一つの部屋に集まり話をしていた。


「アタシは大丈夫ッスよ!ゼムさんに貰った弓があるッス!」

「……私も頑張る。」

「問題ない」

「問題ありません。覚悟は既に出来ておりますわ」


 嘘はないみたいだな。

 

「じゃあ、明日の朝に出発するから各自準備しといてくれ」


 全員が頷き、女子たちは部屋を出ていく。

 ヴィクトリアを含めての戦闘は今回が初めてだが、スキルや立ち回りはあらかた頭に入れているので問題はないだろう。

 

 

 さァ『侵犯の塔』の初戦だ。


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