四十七話:侵犯の塔



 全員がポカンと口を開ける。


 理由はわかる。

 俺がいきなりクランを設立しようと言ったからだ。

 沈黙を破ったのはバトラだった。


「クラン……でございますか」

「そうだ。因みに、お前たち使用人にも仕事をしてもらうつもりだ」


 その言葉にアンとキラは反応し、目を輝かせる。

 どんだけ君たち仕事熱心なの?

 一つの病気なんじゃないかと思ってしまうぞ。


「ダンジョンメインなのにクラン設立する必要あるんですか?」

「私も思った」


 カトルとポルが質問を投げる。

 他のメンバーも同じことを思っているようで全員が俺の顔を見る。

 なので全員に一つずつ説明することにした。

 

「一つ目、ギルドの依頼を仲介無しで受けられるので報酬が増えるという事。この先お前らが依頼を受けないとも限らないし、俺は受けたいと思っている依頼があるからな」


 以前、フランカに『基本的に』依頼を受ける気はない、と言った。

 だがギルドの依頼の中にはお金じゃない報酬もあるのだ。

 俺は欲しいものがある。

 正確に言えばゼム達、生産職に渡したいものがあるのだ。

 

「二つ目、『レイドボス』と呼ばれる強力なボスが居るダンジョンが存在する。そのダンジョンにはクラン内の複数パーティで挑むことが出来る。1パーティで行ってもいいが相当辛い戦いになる」


 いずれ戦おうと思っていたレイドボスが居る。

 ソイツからドロップする物も欲しい。

 双子やフェイが手を貸してくれれば突破が楽になる。


「三つ目、同じダンジョン内に侵入できる事」


 以前、『明月の館』で二つの例外があると言ったがもう片方がクラン侵入だ。

 あくまで同じ空間のダンジョン内に侵入出来るだけで、魔物を倒して取得できる経験値は自分の所属しているパーティのみだ。

 だが、この先高難易度のダンジョンに入れば何が起こるかわからないのだ。

 もしもの時の事故が減る、というメリットがでかすぎる。

 まぁ、クランには人数上限があるので数の暴力攻略は出来ないが。


「最後に、名前が欲しい。俺たちのパーティではなく。集団の名前だ。実績と名声はいろいろと……例えば未開拓地に渡るの時とかに使える」


 クラン名というのは云わば一つのブランドだ。

 そのクラン名を聞けば安心して依頼を任せられる、という風にしたい。

 いずれ行こうと思っている、北大陸の未開拓地。

 未開拓地には転移スクロールで転移できる場所が設定されてないので船で渡るしかない。

 

 未開拓地に船で渡るにはそこそこの名声、実力がいる。

 なぜなら、未開拓地を徘徊する魔物は『怠惰と勤勉』で会った次元蠕虫レベルの化け物が闊歩しているからだ。

 未開拓地に行きたい理由は、高難易度ダンジョンと闊歩する魔物の素材だ。


 ダンジョンがあるのに転移できないクソ仕様にした運営を殴りたいね、うん。


「以上だ、質問があるなら聞くが?」


 全員が沈黙しており、ジーッと俺の顔を見ている。

 俺が頬をポリポリと掻くと、それぞれが色々な反応を見せる。

 ちゃんと話聞いてた?

 頭に入ってる?

 一瞬ハッとしたそこの猫。


「クラン名はどうするのでございますか?」


 バトラの言葉に全員、ピクリと体が動く。

 アレがいい、コレがいいなど一様に声を上げ、ワーワーと騒ぎだす。

 普段、無口なヘススまでもが話に参加していた。

 俺は両手を叩き、黙らせる。


「既に決めてる。異論はまぁ、許す。クラン名は『侵犯の塔』だ」


 全員の頭の上に「?」が浮かぶ。

 何というか、俺にネームセンスは無い!

 だから安直に行くことにする。


「『侵犯の塔』ってどういう意味なんッスか?」

「『侵犯』は他の領土、つまりはダンジョンを侵すって意味から、『塔』は十六を意味する。言ってしまえばダンジョンを侵す十六人ってとこか」


 全員の頭の上の「?」が増える。

 うん、そんな顔しなくてもわかってる。

 

「十六人ってのは二つのパーティで計十人、生産職が三人、使用人が三人。合わせて十六人が俺たちクランの最大メンバーだ。それ以上にも以下にもする気はない」


 その場に居たみんなが黙り込む。

 再度バトラが沈黙を破る。


「アンとキラ、そして私までもがメンバーに入っているのでございますね」

「当たり前だ。ダンジョンやフィールドで戦うだけがクラン活動じゃない。それを支えるお前たち使用人や生産職が居てのクラン活動だ」


 毎日保存食ばかりでクラン活動は御免だ。

 クランホーム内で活動するものが居てこそ、俺たちパーティが伸び伸び活動できるのだ。

 という訳で、もう一つだけ言っておかなければならない事を言う。


「フェイ、カトル、ポル。お前たちにはパーティを組んでもらいたい」

「俺たちがですか?」


 三人は交互に互いの顔を見る。

 

「そうだ。フェイはタンクとして。ポルは強い虫を本格的にテイムしてアタッカーとして。カトルはバッファーとしてだ」


 三人は同い年というのもあってか仲がいい。

 庭で修練しているフェイと居るのをよく見るし、食事の時もよく話している。

 それに、双子はパーティメンバーを探しているので丁度良くもある。


「ワタシでいいんデスか?」

「フェイが良いんだったらお願いしたいくらいだぜ?」

「タンクはフェイがいー」

「決まりだな。後二人のアタッカーとヒーラーはお前たち三人で集めろ。レベル上げとか昇格スクロールを取りに行くときは手伝う」


 三人は元気よく返事をし、頷く。

 俺はダイニングを見渡し口を開く。


「質問はもうないか?『侵犯の塔』で問題ないか?」


 全員が首を縦に振る。

 よし、問題無さそうだな。

 俺たちのクラン『侵犯の塔』の設立が決定した。


 

 翌日、俺は冒険者ギルドに来ていた。

 入口から受付まで歩いていくと、ゲッソリとしたフランカが立っていた。

 フランカは俺を見るなり、カッと目を見開きカウンターを飛び越えると俺に縋り付いてくる。


「おはよ。どうした?」

「おはよう!ございます!昨日の夕方!早馬が来たんです!スタンピートです!助けてください!お願いします!」


 この世界でも来たか、例外中の例外。

 前に『ましらの穴倉』でミャオに野営地の場所がダンジョンに近くないかと言われたことがある。

 その時に俺は基本的にダンジョン内の魔物は基本的に出てこないから大丈夫だと言ったが、あくまで『氾濫スタンピート』は別だ。

 

 『氾濫スタンピート』とはダンジョンが長年放置され、ダンジョン内の空気中の魔素が徐々に濃くなっていきダンジョン外に放出される事。

 粒子である魔素が放出され空気中を漂うだけなら何ら問題はないが、ダンジョン内の魔素というのがダメだ。

 長年放置されたダンジョン内の魔素の塊、云わば魔物が一斉に放出される。

 最悪、国が亡ぶことすらある。


 氾濫スタンピートはダンジョンを放置すれば起こる現象なので、この世界なら間違いなく来ると思っていたが思ったより早かったな。

 氾濫スタンピートが起きたダンジョンによっては本当にヤバい。

 死ぬかもしれん。

 難易度十等級の氾濫スタンピートなんて地獄以外の何でもない。


「フランカ、落ち着け。場所は?」


 俺は縋り付くフランカの頭を撫でながら聞く。

 少し落ち着いたのか頬を真っ赤にして離れると口を開く。


「すみません!『千年孔』です!」



 最悪だ。


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