四十一話:オレカル鉱石



 ハハハ、愉しい!!!


 俺はエルダードワーフの攻撃を受け止める。

 視界の端に映ったミャオは一時攻撃の手を止めステータスを覗いていた。

 何をしてるかと思えば短剣を仕舞い、一度は仕舞った弓を取り出した。

 

 そうだ。

 今のミャオのステータスなら短剣より弓の方が使える。

 ステータスを覗き終えたと思ったら、徐に弓を引き絞り放った。

 その矢は綺麗な一筋を空中に残し突き刺さった。


 鳥肌が立った。

 

 ミャオは今までアタッカーとしての自信がなく、後ろ向きだった。

 それに、自分のスキルをあまり熟知してない節があった。

 

 それがどうだ。

 自分で考え、導き出したスキルで攻撃をした。

 実際に目に見える形でエルダードワーフに傷をつけた。

 愉しいだろ?


 ミャオを見るとリヴィに小さくピースをしている。

 油断するな、と言いたいが今は良いか。

 エルダードワーフに範囲攻撃はない。

 俺が敵意ヘイトを持っていれば問題ないだろう。

 

 エルダードワーフの猛攻を凌ぎながら辺りを見る。

 ミャオは矢を放ち続けており、全て弾かれることなくエルダードワーフの体に突き刺さる。

 突き刺さった矢を目がけてヘススが<闇属性魔法>を放っている。

 

 <闇属性魔法>スキル『ディングリース』:傷口を広げる。

 

 だったか。

 PVPで見た事のあるスキルだが、あまり知識はない。

 だが一目見たらわかるくらい効果がある。

 矢が刺さっている部分から魔素の放出量が上がってる。

 ミャオが矢を突き刺した時からスキルを変えてた。

 やはりヘススはよく見てるなぁ。


 リヴィは本を開き、ずっと<強化魔法・無>でバフを掛けている。

 バフ系の効果時間は決まっているので、リキャスト空けにすぐ掛けなおさなくてもいい。

 効果時間さえ覚えてしまえば、後は攻撃に参加できる。

 リヴィは攻撃することは好きじゃないらしいので、無理に攻撃しろとは言わないが。

 最上位職になれば攻撃する暇なくやることがあるし。

 そのためにも効果時間を覚えさせるのは必須だな。


 問題はゼムだな。

 鍛冶職という事もあるんだろうが火力が足りていない。

 そこは良い鉱石で作った武器やボス級の魔核があればなんとかできる。

 だが、素のステータスとミスリルの武器だけで戦っている今は正直キツいだろう。

 エルダードワーフ相手ではあまりダメージを入れられていない。

 ミャオの木製弓の方が威力が出ている。

 そこもステータスの差分があるから仕方ないが。


 俺がみんなを見ている間にもエルダードワーフのダメージは蓄積していく。

 すると、エルダードワーフの顔が真っ赤に染まっていく。

 額には青筋が浮かび上がり、腕の血管も切れるんじゃないかというくらい浮き出てくる。

 まぁ、魔素の塊だから血管は無いんだが。


 この変化は残りHPが十分の一以下になった証拠だ。

 戦い始めて既に数十分。

 みんな肩で息をし始めている。

 もちろん、俺も。

 さすがに受け続ければ腕も痺れてくる。


 真っ赤になったエルダードワーフの攻撃モーションも変わる。 

 素直に振って来ていた両手の四角槌を片方、放り投げてくる。

 俺は飛んでくる四角槌を大盾で受け、隙間から前を覗く。

 片手の四角槌を放して身軽になったエルダードワーフは先程よりはるかに速い速度で走ってくる。


 ゴルフのスイングの要領で下から俺に向かって振り上げる。

 『シールドバッシュ』が合わせずらい上に、地面を擦るので石礫が一緒に飛来する。

 もし石礫相手に『シールドバッシュ』でパリィしてしまったら、俺は両腕で振るわれた四角槌に吹っ飛ばされるだろう。


 ……ふふっ。

 このスリルがたまらない。

 俺は『シールドバッシュ』を準備して…………今!!!


 下から振り上げられた四角槌は俺の大盾に当たり、弾ける。

 弾かれたエルダードワーフは体勢を崩し、たように思うがそうじゃない。

 真っ赤な状態のエルダードワーフの変わる点は攻撃モーションだけじゃない。

 ノックバックや怯みの耐性がつく。

 しない訳ではないが、弾かれ少し怯むとすかさず動き出す。


 だから俺の前には既に四角槌を今度は上から振り下ろそうとしているエルダードワーフが居る訳だ。

 俺は大盾を準備して『オーバーガード』を発動させ受け止める。

 四角槌は大盾に衝突し轟音を鳴らす。

 衝撃と共に俺の足が地面にめり込む。

 

 俺が受け止めた四角槌を横に流しながらエルダードワーフを見ると、振り下ろした体勢のまま俺の方に倒れてくる。

 横にずれると、そのまま腹から地面に倒れ伏した。

 エルダードワーフの背中には数えるのが億劫なほど矢が刺さっており、霧散していく。


 そこには、土の魔石と拳ほどの大きさのくすんだ黄色の鉱石が落ちていた。

 空洞の奥にあった扉が開いており、下へと続く階段が伸びている。

 俺が魔石と鉱石を拾い上げ、周りを見渡しているとリヴィがミャオに抱き着いた。

 

「ミャオ、やったね。」

「ありが―――うぷっ!リヴィ、苦しいッスよ」


 成長ってのはいいもんだな。

 視線をずらし、ゼムに近付いて行き口を開く。


「気にすんなよ。ゼムの本業は鍛冶だ」

「馬鹿にしてんのかッ!?言われんでもわかっとるわい」

「ならいいんだが」

「タスク。ワシは職人じゃ。十等級ダンジョンの中でも、お前さんらの命を守る武器防具を作るという無理難題がワシの役目じゃ。今更、力が不足しとるくらいで凹んでられんわい!」


 ニカッと笑うゼム。

 今は無理難題と思うかもしれないが、その内みんなが実感する事になる。

 ゼムが作った武器防具以外じゃ攻略が出来ないということを。


「ところで、その石はなんじゃ?見た事もないが」

「だろうな。難易度六等級以上のダンジョンしかドロップしないからな。これはオレカル鉱石だ」

「オレカル鉱石?聞いた事もなければ加工の仕方もわからんぞ」

「オレカル鉱石はエルダードワーフが確定でドロップする。後、四匹も残ってるんだ。少しくらい鍛造失敗しても大丈夫だ」


 サブキャラで鍛冶職を経験していた俺も鍛冶は教えられない。

 IDOでは適当に鉱石を叩いていれば武器や防具が出来たが、この世界の鍛冶職の人たちは本気で鍛冶をしているからだ。

 だが、完成時の形や大きさだけは俺も手伝い、細かい所まで一緒に決める予定だ。


「それならいいんじゃが」


 ゼムはその名に腰を下ろし、革水筒の中身を呷る。

 全員を下層へと続く階段の前に集め、先ほど見ていた時のアドバイスをする。

 地下二階層から実際に試しつつ、ドワーフを屠っていく。


 二階層から五階層までのボスは一階層までのボスと同じエルダードワーフだ。

 同じことの繰り返しではあるが、繰り返していくうちに討伐時間は縮んでいき、五階層のエルダードワーフを討伐した時は一階層の四分の三ほどの時間で討伐できた。

 五階層に現れた魔方陣に乗り、『堀小人ほりこびとの坑道』の前に転移してくる。


 『堀小人ほりこびとの坑道』は結局二周だけして計十個のオレカル鉱石が手に入った。

 屋敷に帰った俺たちはフェイ、カトル、ポル、テアを加えた九人で夕食を摂った。

 食器を片した後、俺たちは明日のために早めに就寝する。


 

 テアのレベル上げ最終日だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る