四十二話:明月の館
早朝、ダイニングに入ると挨拶をされる。
「おはようございます!タスク様ッ!」
「ん。おはよ。今日も元気だな」
「はい!最終日ですから!気合を入れないとッ!」
既に整えられた長い金色の髪を揺らし近付いてくるテア。
挨拶を返すと元気そうに笑い、両手を胸の前まで上げ拳を握る。
テアはここ一週間で本当に強くなった。
<雷属性魔法>という星付きだけでも強いのに動きが洗練されていった。
元々才能があったのだろう。
朝食を食べている時、フェイが俺に訊ねてくる。
「今日は何処に行くんデスか?」
「明月の館だ」
『
館の中からは一日中、常に綺麗な満月がすごく近くに見えており、とても神秘的なダンジョンだ。
「いいなー」
「俺たちも行きたいです!!」
向かいの席に座っていたカトルとポルが話に入ってくる。
最近はギルドでパーティメンバーを募集しているようだが、人が来ないらしい。
実績も無い上、見た目が見た目だ。
二人の実力は確かなんだけどな。
俺は一度、カトルとポルを連れてダンジョンに行き、スキルの確認や実戦などをした。
結論を言うと滅茶苦茶優秀だった。
様々な虫を従え、能力を遣うポルはオールラウンダー。
従えられる虫の数は五匹までと上限はあるが、何でもこなせる。
その上、<糸操術>でこの子自身も戦えるときたもんだ。
次いでパーティ全員の指揮を執ることで、能力を向上させるカトルはバッファー。
カトルが指揮を執ってる間は能力向上の制限時間がなく掛けなおしたりする必要がない。
因みに、ポルの従えている虫にまで能力向上の効果を受けていた。
足りないと思う職がわからなかった。
二人で形が完成してしまっているのだ。
タンクを虫がやり、アタッカーも虫がやり、ヒーラーも虫がやる。
なんてことが出来てしまうのだ。
本当にこの子達、天才では?
「連れてってー」
「お願いします!!」
カトルとポルは俺の隣に歩いてくると、両側から強請ってくる。
カトルは顔を輝かせ、新しい玩具を買って貰った少年のような目をしている。
ポルはいつもの無機質な瞳を俺に向け、少し頬を膨らませ言ってくる。
俺はヘススに視線を向ける。
「拙僧は構わない」
「やった」
「ありがとうございます!!」
甘やかしすぎでは?
まぁ、ヘススがいいならいいか。
俺は朝食を食べているゼムに視線を向ける。
「ゼムはどうすんの?」
「ワシは留守番じゃ。オレカル鉱石を叩いてみたいんじゃ」
「了解。楽しみにしてるよ」
昨日、坑道内を歩いている時にパーティメンバー全員分の武器防具を出来る限り、オレカル鉱石で作ってくれないかと頼んでおいたのだ。
日にちは指定していなかったが、今日から早速取り掛かってくれるようだ。
初めて加工する鉱石なので全員分は多分無理だと言われたので、優先順位を言っておいた。
まずは勿論、ゼムの分だ。
次いでミャオ、ヘスス、リヴィの順で最後が俺だ。
俺は最前線に立つんだから優先順位は上じゃないのかと聞かれたが、俺はまだまだ余裕がある。
それにIDO時代の装備が何着もある。
まぁ、レベルが足りなくて着れないが。
任せとけと言いながら朝食を食べるゼムはどこか活き活きしていた。
元々あんな人も来ないような地下で鍛造してたんだ。
頼られることや、鍛造することが好きなのだろう。
俺はアンとキラと一緒に食器を片付け準備に取り掛かる。
準備も終わった所でゼム以外が玄関ホールに集まっていた。
「皆様、お気をつけてっ!」
「無事に帰って来てくださいねぇ」
「皆様のお帰りをお待ちしております」
アンとキラとバトラに見送られながら、俺たちは転移スクロールを使用する。
視界に広がったのは深い森。
その中に建てられた、三階建ての館。
館の前の朽ち錆びた鉄柵門は迎え入れるかのように開け放たれている。
俺たち八人は門を潜り、館の敷地内へと入っていく。
お、珍しい。
敷地内に入った瞬間、辺りは暗くなり空には望遠鏡を覗いたような巨大な月が煌々と輝いている。
俺たちは雑草の茂る庭を横目に、玄関の扉まで一直線に伸びたアプローチを進む。
玄関の扉に着き、フェイがドアノブに手をかけ開ける。
俺は咄嗟に館内に入ろうとしているフェイの肩を掴む。
違和感。
「タスクサン?」
開いた扉の奥は確かに『
「どうしマシた?」
だが違う。
「ヘスス、敷地内から一旦出るぞ」
「承知した」
ヘススは双子を連れ、歩いて敷地外へと歩いていく。
その後ろを俺たちのパーティが続く。
門を出た所で七人が俺を見てくる。
「ヘスス、もう一度行くぞ」
「承知した」
ヘスス以外の六人は首を傾げる。
俺たち八人はまた敷地内へと入る。
門を潜った先に俺たち八人が立っていた。
あぁ、
本来、ダンジョンというのは中に入った瞬間に別の空間に繋がっている。
別々の二つのパーティが同時にダンジョン内に入ったとしても、別の空間に飛ばされ姿が消える。
カトルとポルと会った時の様に、たまたま同じ空間に飛ばされる事もある。
だが、IDO時代ならともかくダンジョンに潜る人の少ないこの世界で同じ空間に飛ばされることは本当に稀だ。
二つの『
その内の一つの例外とはダンジョンに主が居る事。
ボスではなく、主がだ。
俺たちはかつて『いにしえの皇城』を購入し、主になった。
この『
行くべきか?
この世界の人間?
いや、もしも他のプレイヤーだったら?
それも知っているプレイヤーだったら?
いろんな考えが巡る。
よし、行くか。
みんなが頭の上に『?』浮かべ俺を見ている。
「すまん。何でもない。行こうか」
俺は少し悩んだが、全員に何も話さずに行くことにした。
誰かが購入し、主が居るとわかれば行かないかもしれない。
だが知っているプレイヤーが居た場合、それは困る。
悪いと思っているが付き合ってもらおう。
俺たち八人は玄関まで戻ってくると館内へと入る。
『
若干だが内部構造を変えている。
「来るッスよ!」
ミャオが声を上げた先を見ると、大群が地面を四足走行で近付いてくる。
狼の顔を持ち、体は人型だが全身はフサフサの毛で覆われている。
口からは鋭い牙が覗き、手足には尖った黒い鉤爪がついている。
このダンジョンに出現する、『人狼』だ。
大群とはいえ、こちらは八人。
ダンジョン内ではあり得ない人数で対応できる。
今は少しでも早くこのダンジョンの主と会いたいので本気でいかせてもらう。
俺とフェイが前に出る。
十分ほどで大群は全て、魔石と素材へと姿を変えた。
その後は順調に『
主が設置したのか本来の『
その分、テアたちの経験値も美味しかったので文句は言えないが面倒くさかった。
数十分後、俺たちは三階のボス部屋の前までやってきていた。
俺はボス部屋の扉に手を当て、力を籠める。
扉の先は広いダンスホールがあり、その中央に人影があった。
月光に照らされた黒いドレスがひらひらと踊っているように舞う。
身長160センチ前後の女性は、肌が透き通るように白く美しく、長く伸びた色の髪がふわりと揺れている。
俺たちに気が付き振り向くその瞳の深紫と白銀がこちらを見た。
「お?居るじゃねえか、お前話せるか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます