三十三話:痛感する二人
ドドドドドドドドド――。
俺は今、青々とした草原を無我夢中で走っている。
Q.何故か。
A.リヴィの新スキルを試すためだ。
<強化魔法・無>スキル『スピード・バフ』:<
ミャオも『スピード・バフ』を掛けてもらい、俺と一緒になって走り回っているのだが……アホみたいに速い。
全力で追いかけても、グングンと突き放される。
「タスクさん、遅いッスよー!」
「お前が、早すぎ、んだよ、ドアホ」
そんな俺たちを見ながら、リヴィ・ゼム・ヘススの三人は草原の上に大きな布を広げ、その上に座り茶を啜っていた。
草原にピクニックに来たのか? 否である。
もちろん、ダンジョンがあるから来たのだ。
そこは『蒼穹の大草原』という難易度三等級のフィールド型ダンジョンで、雑魚敵は一匹もおらず、遮蔽物がない。
そのため、常に『蒼穹の大草原』のボスが丸見え状態という一風変わったダンジョンである。
だが、歴としたダンジョンでボスを倒せば、草原中央に魔方陣が出るし、一度ダンジョンを出れば、またボスは湧く。
「さーて、準備運動も終わったことだし行こうか」
「お前さん、大丈夫か? 肩で息をしとるが」
「大丈夫だ。問題ない」
そうは言うが、リヴィが革水筒を手渡してきてくれたので俺はそれ受け取り、中に入った水をごくごくと飲む。
その後、息を整え、準備を終わらせた俺たちは、先程から見えていた額に一本の角が生えた馬の方へと歩を進めた。
角は螺旋状になっており、先端が細く長い。
体は白く、立派な鬣が風に揺れている。
こいつが『蒼穹の大草原』のボス、『
先頭を歩く俺が『蒼穹の大草原』の範囲内に入った瞬間、
それと同時に俺は
「まずはリヴィ。さっき教えたやつをやってみてくれ」
こちらへ突進してくる
<強化魔法・無>スキル『パワー・バフ』:<
――発動。
対象は俺・ゼム・ミャオ。
<強化魔法・無>スキル『ガード・バフ』:<
――発動。
対象は俺のみ。
<強化魔法・無>スキル『マジック・バフ』:<
――発動。
対象は俺とへスス。
そして最後に『スピード・バフ』を全員に掛けた。
俺は突っ込んできた
……が、俺はビクともしない。
完全に
「次、ミャオ。さっき教えたやつをやってみてくれ」
「了解ッス!」
<狩人>スキル『オートエイム』:照準を自動調整する。
――発動。
加えて『イーグルアイ』を発動させて攻撃準備を整える。
そして……。
<暗殺者>スキル『メルトエア』:気配遮断。
――発動。
遮蔽物のない草原でミャオが居なくなったように感じる。
『メルトエア』との相互性は言うまでもないだろう。
今回、ミャオは弓を装備してきていた。
まだレベル1なので、ただの木の弓だが……。
<弓術>スキル『パワーショット』:威力重視の射撃。
――発動。
ミャオが放ったのは、鏃だけが鉄でできた普通の矢。
それが
その一撃の後、追撃するようにゼムは大槌を振り上げると、
<槌術>スキル『パワーストンプ』:威力重視の打撃。
――約三分後。
地面に落ちた風の大魔石を眺めるミャオはポカンと口を開け、リヴィは自分の手に持つ
「ここって……難易度三等級ッスよね?」
「そうだぞ」
「実は難易度一等級でしたー……とかじゃないんッスか?」
「どんだけ疑り深いんだお前。ちゃんと難易度三等級だよ」
刹那、ミャオの口元がだらしなく緩む。
恐らく実感したのだろう
昇格後の違いは一番アタッカーがわかりやすい。
リヴィのバフの恩恵もあるだろうが、今までアタッカーとして自信がなかったミャオなら、猶更違いを感じるだろう。
どうだ? 火力が出せるってのは気持ちいいだろ?
「……あの……タスク、さん。」
「ん? どうした?」
「……ありが、とう……ござい、ます。」
ミャオと話していた俺にリヴィがふらふらと近付いて来たかと思うと、目の前でいきなり頭を下げた。
武器である本を持つ手と声が震えている。
リヴィもリヴィで何かを感じたのだろう。
<強化魔法・無>の身体強化バフは高難易度ダンジョンを攻略するにあたって必須と言っても過言ではない。
最上位職になれば、もっともっと実感出来るはずだ。
自分がこのパーティを支えているのだ、と。
俺は少し屈み、両手でミャオとリヴィの頭を撫でる。
「これでわかったろ? 俺はお前たちをもっともっと強くしてやれる。だから俺と一緒に来い。後悔はさせねえから」
二人はコクコクと勢い良く何度も頷く。
その後ろでゼムはニカッと歯を見せて笑いながら顎をぼりぼりと掻き、ヘススは若干だが微笑んでいるように見えた。
お前らも他人事じゃねえからな?
その後、その他スキルの確認や立ち回りの調整も含めて『蒼穹の大草原』を時間も忘れるほど周回した。
そして……屋敷に帰ったのは次の日の夜だった。
玄関の扉を開けると、アンとキラの二人が仁王立ちで待ち構えており、何故か俺だけが正座をさせられて怒られた。
その間、他の四人はというと何事も無かったように風呂に入ったかと思うと、早々と自室に戻って寝ていた。
これは許されねえよなあ……? 覚えとけよ。
――翌日。
俺は朝っぱらからフェイに修行をつけていた。
『夜照の密林』で実戦を経験し、その上レベルも上がっているので以前よりも格段に動きが良くなっている。
「うし、今日はこの辺にしとくか」
「ハイッ! ありがとうございマシたッ!」
フェイと別れた俺はアン・キラと朝食を一緒に作った。
昨日のこともあり、最初は不機嫌だったが一緒に料理をしているうちに機嫌がよくなったので良し。
朝食を終えた俺は一人寂しく冒険者ギルドへと向かう。
他のメンバーを誘おうかとも思ったのだが、ミャオとリヴィは一緒に買い物に出掛けており不在、ヘススも教会に一人で行ったらしく不在、ゼムは鍛冶場に籠って鉱石を叩いており拒否、フェイは修行の続きをしていたので遠慮した。
冒険者ギルドに入ると、赤いポニーテールの受付嬢は俺を見るなり、カウンターを飛び出して駆け寄ってきた。
「タスクさーん! おはようございます!! 最近来てなかったから、心配してたんですよ!? ただでさえ、危険なダンジョンに潜ってるのを知っているので、もしかしたら……って思ってしまって。でも、ご無事そうで安心しました!」
「心配してくれて、ありがと」
「いえいえ! あ、そういえば聞いて下さいよ! 最近、商人ギルドの連中がうるさいんです! 商人ギルドにタスクさんたちが持ってきてくれた魔石とか素材を卸していたんですけど、まだか? って催促してくるんです!」
相変わらずマシンガントークだな、この子。
よく噛まずにそんなに喋れるな。
「なるほどね。なら、また今度、売りに持ってくるよ」
「はい! 是非、よろしくお願いします! ……って、私ばっかり喋っちゃって、ごめんなさい! 何か用があって来たんですよね? 今日はどうされたんですか?」
「ああ、メンバー募集用紙貰えるかな?」
「え……。 誰か抜けちゃったんですか?」
「抜けてないよ。欲しい人材が居るだけ」
「良かったあ……。では、こちらにどうぞ!」
赤髪ポニーテールの受付嬢は軽く指先を揃えて、カウンターの方を片手で指し示す。
俺がカウンターの方へと歩いていくと、他の受付嬢がこちらを見ながら何かヒソヒソと話していた。
なんぞ? と首を傾げる俺に赤髪ポニーテールの受付嬢は「はい、どうぞッ!」と元気よく募集用紙を渡してくる。
俺は募集用紙を受け取り、カウンターを離れて、テーブル横の椅子に腰を下ろす。
さーて、欲しい人材はもちろん……。
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