三十二話:上位職昇格2

 


 『堕落だらくしたかくざと』に来てから四日が経った夜。


 俺たちはテントの前でBBQを楽しんでいた。


「お肉ッ! お肉ッ! お肉ーッ!」

「……ミャオ。……行儀が悪いよ。」


 取り皿を片手に小躍りするミャオの隣で、俺は黙々と肉や野菜やキノコなどを焼いていく。


 何故、こんな暢気にBBQをしているのかというと、四日間かけてようやく『堕落した隠れ里』に来た目的であったレアドロップの入手を達成したからだ。


 まあ、端的に言えば、頑張った二人へのご褒美である。


「おら、焼けたやつから食っていいぞ」

「いただきますッスー!」

「……いただきます。」


 ミャオは肉に飛び付き、リヴィは野菜に手を伸ばす。

 幸せそうに肉を頬張るミャオは、ゴクンと喉を鳴らして飲み込むと、俺の方を見ながら口を開いた。


「ところでタスクさんに一つ聞きたい事があるんッスけど」

「なんだ?」

「見間違いかもしんないッスけど、エルダーエルフとエルフを倒した時にがドロップしなかったッスか?」

「したぞ」


 そう、それこそが『堕落した隠れ里』に来た目的で――それは、<弓術>の<能力スキル>スクロール、そして<狩人ハンター>の<昇格プロモ>スクロールである。


 因みに、<弓術>はエルフからのレアドロップで、<狩人ハンター>はエルダーエルフからのレアドロップだ。


「やっぱりそうッスよね! 何のスクロールなんッスか?」

「まだ内緒」

「えー、教えてくれても良いじゃないッスか」

「ダメだ」

「ケチんぼッス」


 二人に教えないのには、くだらない理由がある。


 その理由とは、二人がレベル上限の50まで上がったので、屋敷に戻ったら昇格して貰おうと思っている。

 その時までのお楽しみにしたい。

 ただ、それだけ。


 その後も執拗くミャオが聞いてくる中、俺はBBQの片付けを終わらせ寝る準備をしていると、リヴィが近付いてくる。


「……タスクさん。」

「ん? どうした?」

「……中で寝ないんですか?」


 リヴィはテントを小さく指さしながら言う。


「ああ。テントはしか無いし、ミャオとリヴィで使ってくれ。俺は外で大丈夫だ」


 元々、男女別で俺はテントを二つ持ち運んでいたのだが、パーティを分けた際に俺とヘススでテントを一つずつ分け、俺たちの方はテントを買う予定だった。


 はい。

 買うのを忘れてました。


「……でも――」

「いつも言ってるが、遠慮すんな」


 俺はリヴィの言葉を遮りながら、頭を撫でる。

 目を瞑って下を向き、されるがままだったリヴィの頭から手を離すとテントの中へと入っていった。


 とはいえ……身体中が痛い。

 完全に自業自得なのだが、四日間地面はキツい。

 幸い、絨毯を持っていたのでそれは敷いている。


 帰ったら予備のテントを買おうと心に決め、俺は寝た。



 ――翌朝。


 俺が朝食を作っていると、テントの中からミャオとリヴィが伸びをしながら這い出て来た。


 二人と一緒に朝食を摂り、野営地を片付けた後、転移スクロールを使って屋敷に転移する。

 俺たちがダイニングに入ると、既にフェイたちは『夜照の密林』から帰ってきており、朝食を食べていた。


「おかえりなサイ」

「ただいま。どうだった?」

「ハイッ! たくさんレベルが上がりマシた! でも……」


 フェイは話している途中で『夜照の密林』の事を思い出したのか普段から青い顔がさらに真っ青になる。


 まあ、あそこの魔物は虫だからな。

 女の子的にはキツかったのだろう。

 虫が好きな女の子っているのかね?


「お前さんが思っとるような意味じゃないと思うぞ」

「ん? 虫を気持ち悪がってんじゃないの?」

「違うわい。夜照の密林に入るなり、ヘススがワシらの後ろであの笛を吹きおったんじゃ。渡したなら言っとけ」


 ハハハ。

 何も言わずにいきなり魔呼笛を吹いたのか。

 フェイが青ざめる訳だわ。

 面白い。


「で、そっちはどうだったんじゃ?」

「バッチリだ。ミャオもリヴィもレベル上限まで上がった」

「そりゃあ、良かった」


 俺とゼムの会話を隣で聞いていたフェイはミャオとリヴィの方に走っていき、アンとキラと一緒に祝辞を送っていた。


 笑顔の女の子が集まる光景は絵になるな。

 ……一人、猫が混じってるけど。


 全員が集まっているので丁度いいなと思った俺は、インベントリから数巻のスクロールを取り出す。

 そしてソワソワとしているリヴィに一巻のスクロールを、そしてミャオにはのスクロールをそれぞれ手渡した。


「こんなにッスか!?」

「ああ。先ず最初にこれ読んで、次にこれで、最後にこれの順な。唱える順番間違えたらキレるからな」

「も、もう一回教えてくださいッス! 念のため!」


 再度、ミャオに唱える順番を教える。

 そして二人はそれぞれスクロールを開き、文言を唱えた。


「終わったようだな。ステータスを確認させてくれ」

「了解ッス!」

「……はい。」


 先ずはミャオのステータスウィンドウを確認する。


――――――――――――――――――――――――

【ステータス】

<名前>ミャオ

<レベル>1/75

<種族>猫人

<性別>女

<職業>暗殺者


<STR>C-:0

<VIT>D-:0

<INT>D-:0

<RES>D-:0

<MEN>D:0

<AGI>B:0

<DEX>B-:0

<CRI>C:0

<TEC>D-:0

<LUK>D:0

残りポイント:10


【スキル】

下位:<盗賊><短剣術><弓術>

上位:<暗殺者><狩人><冒険術☆>

――――――――――――――――――――――――


 ミャオの昇格先は<暗殺者アサシン>だ。


 ハハハ。

 <AGI素早さ>と<DEX器用さ>の値おかしいだろ。


 因みに、『堕落だらくしたかくざと』で手に入れた<狩人ハンター>の昇格スクロールはスキルを取得するためだ。

 それに加えて、高い<DEX素早さ>を生かして戦えるであろう<弓術>のスキルも覚えさせた。


 ふっふっふ。

 これであのコンボが使えるな。



 お次はリヴィのステータスウィンドウを覗く。


――――――――――――――――――――――――

【ステータス】

<名前>リヴィ

<レベル>1/75

<種族>ダークエルフ

<性別>女

<職業>強化魔術師


<STR>D-:0

<VIT>D-:0

<INT>B:0

<RES>C+:0

<MEN>C:0

<AGI>D+:0

<DEX>D+:0

<CRI>D:0

<TEC>D:0

<LUK>D+:0

残りポイント:10


【スキル】

下位:<火属性魔法><水属性魔法><風属性魔法>

<土属性魔法><無属性魔法>

上位:<強化魔法・火><強化魔法・水><強化魔法・風>

<強化魔法・土><強化魔法・無>

――――――――――――――――――――――――


 リヴィの昇格先は<強化魔術師フォース・マジシャン>だ。


 本来の強化魔術師フォース・マジシャンは、自分の魔法やパーティメンバーの魔法をメインに強化する職だが、リヴィの場合は違う。


 ここで何ら使えなかった、<無属性魔法>が開花する。

 <強化魔法・無>とは言ってしまえばの魔法だ。


 わかりやすく言えばステータス値を上昇させる魔法。

 それも上限のS表示だろうが、内部数値がまだ上がる。

 加えてテンションも上がる。



 パーティには暗殺者アサシン強化魔術師フォース・マジシャン僧侶モンク

 生産職には鍛冶職人マスター・スミス


「え、タスクさんの顔、怖ッ!! どうしたッスか!? アタシ、唱える順番間違ってないッスよね!?」

「……もしかして、私……ですか? ……ごめんなさい。」

「お前さん、またなんか考えとるな?」


 俺の顔を見てミャオは慌てふためき、リヴィが怯える。

 その隣では、ゼムとヘススが訝しげに俺を見ていた。


「あ? なんでだよ?」

「タスク様っ。お顔に出てますよっ」


 そりゃ、笑いも止まらんだろ。

 上位職が四人だぞ!? 四人! 下位職ばかりの世界で。


 ……絶対、お前たちに難易度十等級を踏破させてやる。

 そのためには――。


「うし。お前ら、ダンジョン行くぞ!」

「行くッス!!」

「……行きたいです!」

「付き合うのである」

「わかったわい」


 アンとキラが膨れっ面になるが今は許せ、今度撫でる。

 フェイが寂しそうだが今は許せ、今度修行に付き合う。

 バトラ……は大丈夫そうだな。



 俺たちは昼飯を食べた後、早速ダンジョンへと向かった。


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