二十二話:国王の依頼
フェイを連れ帰った翌朝。
俺はヘススと共に王城の前まで来ていた。
屋敷を出る時、何故かみんなが見送りに来ていたのだが……まだ俺が何かしたとでも思ってんの? 今生の別れでもないんだから見送りなんていらんだろ。
などと思いつつ俺は王城前に居た門番に手紙を渡す。
門番は俺から手紙を受け取り、文面を確認した瞬間、ダッシュで城内へと駆けて行った。
数分ほど待っていると、先程の門番と一緒にメイド姿の綺麗な女性がやって来て城内へと通される。
メイドに案内されて綺麗に磨かれた大理石の通路を進んでいくと、メイドはとある扉の前で立ち止まった。
扉を開けた先の部屋は広く、中央に長テーブルが置かれており、両側に椅子が五つずつ並べられている。
そして誕生日席には宝石の埋め込まれたいかにも豪華そうな椅子が一脚あり異彩を放っていた。
地面は黒と白のチェック柄の大理石でテーブルと椅子の下に豪奢な絨毯が敷かれている。
飾られている物は花一つであっても一切手を抜いていない印象を受けた。
メイドは二脚の椅子を引き俺とヘススがそこ座ると、部屋の隅で紅茶を淹れて目の前に置く。
何か……むず痒い。
アンとキラには今のままフランクな感じのままで居てもらいたいものだ。
紅茶を飲みながら十数分待っていると別のメイドが部屋の外から扉を開け、一人の人物が入ってくる。
その人物は無精髭を生やした四十代ほどの男性で深紅のマントを纏い頭には王冠を載せていた。
やっぱ本物は威厳があるな。
でも個人的にはあまり好きじゃない。
この男はIDO時代にメインストーリーで嫌がらせかと思うくらい何度もお遣いクエストを押し付けてきた国王、グロース・フォン・シュロスだ。
俺たちが立ち上がろうとするとグロースがそれを制止するように片手を挙げる。
「よい。我が呼び立てたのだ。楽にしてくれ」
俺たちが席に座り直したのを見て、グロースは誕生日席にあった豪華な椅子に腰掛けた。
「我はグロース・フォン・シュロス。この国王なのだ。今日は訳あって呼ばせて貰った」
「俺はタスクです」
「拙僧はヘススである」
「耳にしておる。パーティを組み一週間程で四等級ダンジョンである蟒蛇の塔を踏破し、ボスである五頭大蛇の素材を持ち帰った……とな」
耳が早えことだな。
昨日の今日だぞ?
「そこでお主らに頼みたいことがあるのだ」
うん……まあ、知ってた。
IDO時代同様、
「話を聞く前に聞いときたいんですが、断る事とかは出来るんですか?」
「周知されていない事柄ゆえ、聞いた以上断ることは出来ないのだ」
あー、今すぐ断りてえ。
だけど……。
「わかりました。聞きましょう」
ヘススがチラリと俺を一瞥する。
恐らく俺が断るとでも思っていたのだろう。
ああ、間違っちゃいない。
普段の俺なら即断ってる。
「頼っておいて何なのだが……良いのか? 我は断られると思っておったぞ? 噂とはアテにならないものなのだ」
いや、当たってるよグロース。
だが、これは聞くが吉だ。
理由は、まあ、色々とある。
「それで? 話っていうのは何ですか?」
「結論から言うと欲しいものがある。とある薬草なのだがそれをお主らに摘んで来てほしいのだ」
薬草採取くらい誰でも行けるだろ……と言いたいところだが、先ほど『蟒蛇の塔』の名前を出したあたり十中八九危険な場所だろうな。
一応、聞くだけ聞いてみるか。
「近衛とか騎士団とかには頼めないんですか?」
「無理なのだ。我は前に一度、私兵を出した。しかし全滅してしまったのだ。それ以来、兵たちはそこへ行くことを恐れておる。事情が事情ゆえ他国を頼ることもできん」
「そうですか。では、その送った私兵の構成とレベルをわかる範囲で教えてください」
グロースが視線をメイドに送るとそそくさと出ていき、数分で戻ってきた。
その手には紙束が握られており、それを俺の前に置く。
俺は紙束に手を伸ばし一枚ずつ捲っていくと、そこには送られたであろう私兵たちのステータスからスキルまでの全てが記載されていた。
冗談だろ? これ全員死んだの? 50枚ほどあるけど。
ざっと確認し終わった俺は口を開く。
「場所はどこですか? それと何て薬草を詰んできたらいいんですか?」
「ルング湖に自生しておるルング草だ。どんな病でも治すと云われる薬の素材なのだ」
健康そうに見えるけど、どこか悪いのか。
というかルング湖? 俺の知らない名前が出てきたな。
「難易度は何等級なんですか?」
「ルング湖はダンジョンではない。シャンドラから早馬で二日ほどの大きな湖なのだ」
ダンジョンじゃなく、フィールドだと? じゃあ何か?さっきの50人くらいで行って、全滅した場所に行けと?
常識的に考えて無理だろ。
万が一があるとすれば敵が単体だった時くらいか。
「どんな魔物にやられたかとかわかりますか?」
「魔物ではない」
「は?」
「魔物にやられたわけではない……と思うのだ。ルング草が自生しているのはルング湖の底。それを摘みに入っていった兵たちは上がってこなかったらしいのだ」
え? それって魔物に食われてるって事じゃねえの?
俺が首を傾げていると、グロースは続けて説明をする。
「ルング湖は何故か人が浮く。ゆえに重い鎧を着て入らねば潜れぬ。だからといって重い鎧を着ていては上がってこれぬので、ロープを体に括り付けたそうなのだ。しかしその全てを何かに食い千切られていたらしい」
やっぱ居るじゃん、魔物。
「では、何故、魔物の仕業ではないと思うんですか? ロープが食い千切られていたのなら、尚更、魔物の仕業だと思うはずでしょう?」
「そうなのだが……明くる日、確認に向かわせたら兵たちは全員浮いておったらしいのだ。鎧も何も着ていない状態でな。だが死体には
なるほど、わかった。
気が変わった。
無理かと思ったけど、そうでもなさそうだ。
「情報ありがとうございます。その依頼受けます」
「本当か? では早速――」
「ただし、お願いしたいことが幾つかあります」
俺はグロースが言い終わる前に言葉を遮る。
不快に思ったのかグロースは片眉を上げ口を開いた。
「なんだのだ? お願いしたい事、とは?」
「可能な限りで構いませんが――」
………………。
…………。
……。
俺が幾つかのお願い……もとい報酬を強請ると、グロースはその全てを快く了承してくれた。
その後、グロースと別れた俺たちは城を後にする。
「本当に良かったのであるか?」
「いいんだよ。どうせ俺らに拒否権は無かっただろうしな」
「なら、いいのである。拙僧は主に着いて行く」
「ありがとな」
それ以降は口を開くことなく屋敷へと辿り着く。
俺が玄関を開けると二階へと上がる階段にミャオとリヴィが座って待っていた。
「お帰りなさいッスー! 無事でよかったッスー!」
「……おかえりなさい。」
「ただいま」
二人と話していると玄関ホール奥の通路からドタドタと足音が近づいてくる。
足音のした方を見るとゼムとアンとキラが立っていた。
「「おかえりなさいっ!」」
「ただいま」
「今帰ったのか? 大丈夫じゃったか?」
「だから俺は何もしてねえから。というか話がある。ダイニングで話そう」
俺は全員をダイニングに集め、国王と話した内容を
「――というわけだ」
「なるほどの。湖の底……か。まさか、そのまま潜るとか言うんじゃないじゃろうな?」
「素潜りじゃ、さすがに俺でも溺死する」
「じゃあ、どうするんじゃ?」
「簡単だ。水の中で呼吸すればいいだけだ」
俺の言葉を聞いた面々は「何言ってんだこいつ」と言いたげな目を向けてくる。
その気持ちはわかる。
だが、俺たちのパーティなら可能だ。
「その為にも――ダンジョンに潜るぞ」
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