二十一話:起点
オークションが終わり俺たちは屋敷に帰ってきていた。
因みに俺たちが出品した『五頭大蛇の体鱗』は五品目で、競り人が「本日の目玉商品はこちら!」と満面の笑みで言った時には不覚にも吹き出してしまった。
言っちゃ悪いがあんな
確かに『五頭大蛇の体鱗』の見た目は艶々と輝いていて宝石のように綺麗だが正直言って使い道が無い。
というのも武器や防具にしようにも柔すぎる上、魔力伝導率も悪いときている。
IDO時代も店で高く売れる換金アイテムだったくらいだ。
それはそうと俺は今、ダイニングの椅子に腰掛けているのだが両側からアンとキラに凄まれている。
理由は俺の前に座っているこの粘体少女だ。
ゼムには『五頭大蛇の体鱗』の売上を持って俺たちの所へ戻ってきた時に大まかな事情を説明したのだが、呆れたと言わんばかりにため息を吐いていた。
そして粘体少女を連れ帰った今、ミャオ・リヴィ・へスス・ゼムの四人は我関せずの顔して茶を啜ってている。
頼む。
誰か味方して。
「で、どういうことですかっ?」
「ゼムさんには珍しい素材を売りにオークション会場へ行くと聞いていたのですがぁ?」
なんで俺には行き先を伝えず、アンとキラには伝えてんだよ……オカシイよなあ? 俺にも言えよ。
泣くぞ。
「タスク様っ? ちゃんと話を聞いてますかっ!? 私はこの子の事を聞いてるんですっ! 使用人は私たちだけじゃダメだったんですかっ?」
「ダメなわけないだろ」
「では、何故ぇ? 確かに私たちは屋敷外には出られませんが、それでもちゃんとお掃除とか頑張ってましたよぉ」
どうやらこの子たちは使用人目的で粘体少女を買ってきたのだと勘違いしているようだ。
うん、まあ、奴隷だもんな。
勘違いしても仕方ない。
「うんうん。二人はよく頑張ってくれてるからすげえ感謝してるよ。もちろんバトラにも。だから使用人を増やそうとは思ってない。この子を買ったのには別の理由があるんだよ」
「「別の理由ですか?」」
ほっと安堵の表情を浮かべると同時にアンとキラは首を傾げる。
別の理由――それは首に付いたコレだ。
<鑑定>スキル、発動。
――――――――――――――――――――――――
・従属の輪
効果:束縛・自動サイズ調整
行使可能:付与(麻痺)・付与(毒)
――――――――――――――――――――――――
誰だこんな非人道的な物作った奴。
見つけたら一発ぶん殴ってやりたい。
いいや、待て?
冷静に考えてみれば、この世界の魔道具ってどうやって作られてんだ? こんな下位職ばかりのこの世界で。
IDO時代はプレイヤーが作れる魔道具は無く、店で売られている物がちらほらあったくらいだ。
それもコンロや冷蔵庫などのプレイヤーに不必要な生活必需品は店ですら置いてなかった。
この世界固有の文化か? ……考えてもわからん。
その内、暇になったら調べてみるか。
とにかく後回しだ。
俺は粘体少女の方を向き話しかける。
「名前は?」
「フェイデス」
「フェイデス?」
「フェイ。デス」
「オーケー。フェイな。んで、歳は?」
「九歳デス」
「奴隷になる前はどこに住んでたんだ?」
「ベルアナ魔帝都デス」
へえ。
ベルアナ魔帝都か。
魔人種の住む南大陸にある綺麗な海沿いの街だな。
IDO時代に何度も訪れた事がある。
もちろんダンジョンのためだが。
街中から見える海の中に存在している難易度七等級のダンジョン。
俺たちがいずれ行かないといけないであろう場所だ。
「それで? なんで奴隷になったんだ?」
「捕まったんデス」
「意味が分からん。捕まったら何で奴隷になるんだ?」
「魔人種は今、他種族と戦争してるんデスよ。今回は人種が攻めてきたので逃げてたら捕まって……普通はその場で殺されマスがワタシは珍しいから売るって言われマシた」
本当にこの世界では何が起こってんだ? IDO時代は種族間で戦争なんてなかった筈だし、控えめに言って、めちゃくちゃ仲が良かったぞ。
「なるほど。それでベルアナ魔帝都はどうなったんだ?」
「はっきり覚えてませんけど、被害は少なかったはずデス」
「そうか」
心底ほっとした。
亡んだなんて言われたら卒倒してた自信がある。
海の中の海底ダンジョン……アレすげえ綺麗なんだよな。
「で、だ。フェイ、帰りたいか?」
俺がそう聞くとフェイは下を向いて黙り込む。
黙っている理由は『従属の輪』だろうか? 即、外してやろうと思い奴隷商に駆け込んだのだが「魔人種を解除するのは罪になる」と断られた。
それをフェイは隣で聞いていた。
かといって強制的に解除しようとすればフェイが危ない。
まあ、理由はなんにせよ今は帰りたくなさそうだな。
『キーン、コーン』
静寂の中、玄関の呼び鈴が鳴る。
俺は玄関へ向かおうとしたアンとキラを制止しながら席を立ち、玄関へと向かった。
俺が玄関の扉を開けると騎士風の鎧を着た二人組の男が封蝋の付いた手紙を持って立っていた。
「どちらさま?」
「突然の訪問失礼致す。我々、シャンドラ王家近衛騎士団の者だ。タスク殿はご在宅か?」
王家近衛騎士団?
そんなお偉い様の遣いが何の用だ?
「タスクは俺だけど」
「では、これを」
近衛の男は俺に封蝋の付いた手紙を差し出す。
俺がそれを受け取るとそそくさと帰っていった。
しかし、まあ、王族の遣いだけあって立派な馬車だな。
ご近所さんに変な目で見られそうだから歩いて来いよ。
俺は手紙を持ちダイニングに戻る。
そしてテーブルに手紙をポイっと投げ、話を再開した。
「それで? どうす――」
「「ええええええええええッ!!」」
刹那、手紙を持ち上げたアンとそれを覗いていたキラが俺の真横で叫びグイグイと顔を近付けてくる。
「タスク様っ! 何かしたんですかっ!?」
「そうですよぉ。国王様から直々の手紙なんてぇ……」
「国王様じゃと!? お前さん一体何をしたんじゃ!?」
「ッ!? タスクさんが国王様に何かしたんッスか!? ダンジョンで死ぬならまだ付き合うッスけど、死刑とかならアタシは付き合えないッスよ!」
「……私も……嫌です。」
「拙僧は付き合うのである」
キレそう。
なんで俺が何かした前提なんだよ。
ん、いや、待て、ヘスス……本気か?
「お前ら一旦落ち着け。冷静に考えてみろ? 俺らずっと一緒に居ただろうが。俺は何もしてねぇよ」
それもそうだ、とみんなが納得している中、封蝋を外したバトラが手紙の中身を手渡してくれる。
内容を確認してみるとそこに書かれていたのはたったの一文のみだった。
『明日王城にて待つ』
果たし状かッ! と思わずツッコんでしまいたくなる文面だな。
手紙を手にした俺の隣ではヘススとフェイ以外のメンツが内容を覗き見て青ざめている。
なので、あえて言ってやろう。
「はあ? 面倒くさ。お前が来いよ」
「もしかしてお前さん……行かんつもりか?」
「……さすがに冗談ッスよね?」
ハハハ。
更に真っ青になってやがる。
俺を疑うからだ。
ざまあみろ。
「まあ、行くけどね。みんなも一緒に来る?」
「冗談じゃないわ!! ワシは行かんからな!!」
「行かないッスよ!! 絶対無理ッス!!」
「……私も嫌です。」
うーん。
俺も一人じゃ行きたくないなあ。
頼りになるバトラは出られないし、アンとキラも同じだ。
フェイは完全に部外者だし。
残るは……。
「拙僧で良ければ付き合うのである」
だよなあ。
仕方ない。
一人で行くかあ。
え? マジ?
「いいのか?」
無表情のまま頷くヘスス。
よぉし。
これで万が一があっても大丈夫だな。
とは言っても俺の知っている国王なら問題ないだろう。
どうせ
「手紙の件も纏まったことだし、話を戻すか。どうするよ? フェイが帰りたくないなら、帰りたくなるまでここに居てもらっても構わんが」
「良いんデスか?」
「いいぞ」
「では、しばらくお世話になりマス」
「了解だ。よろしくな。フェイ」
「ハイ。ご迷惑をお掛けしマス」
その後、俺は二階の空いている部屋にフェイを案内する。
客間にしようかとも思ったのだが、家具の配置を変えるのが面倒だったので元家主のベッドを置いていた二階の部屋に居てもらうことにした。
部屋の案内を終えた俺は一階に降り、アンと一緒に夕食を作ることにする。
そして食事と風呂の後、俺は部屋に戻りベッドの上で寝転がり今日話したことを思い出し、考えこんでいた。
まずは魔道具について。
魔道具はこの世界での生活必需品であるため、絶対に製造元があるハズだ。
しかし詳しく見てみたところ魔道具に製造元などは刻まれていなかったため製造元はわからなかった。
……のだが、わかったこともある。
それは魔道具が魔石やスキルを使って作られているわけではなく、何か読めない文字のような物が刻まれおり、それが燃料である魔石に反応して稼動しているようだという事だ。
非人道的な魔道具を作った奴は許せないが、この文字を覚えたら俺でも魔道具を作れるようになるかもしれない。
次に戦争について。
夕食時、フェイに少し話を聞いてみたのだが、最初に魔人種側が宣戦布告を行い、魔人種とそれ以外の種族が大規模では無い小競り合いの戦争をしているという事がわかった。
何を考えて宣戦布告したのかはフェイにもわからないと言っていた。
正直、俺には関係ないのでどうでもいいのだが、少し関係があるとすれば、魔人種の住む南大陸にも行きたいダンジョンがあるという事だけ。
まあ、降りかかる火の粉だけ払えばいいか。
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