第一章:《登場人物編》
第一話:はじまり
―― 《Infinite Dungeon Online 》――
略してIDO。
広大なマップ、豊富な職業、自由に選べる種族、そして何より名前の由来でもある無数のダンジョンが売りのフルダイブ型VRMMORPG。
ゲーム運営会社がしっかりと管理しており、季節毎のイベント開催はもちろん、バグの修正やメンテナンスなども素早く完了させ、プレイヤーが存分に楽しめるように配慮されていた。
肝心のゲームシステムはと言うと、ゲームによくあるHPという概念をプレイヤーから無くし出血量や致命傷などにより死亡するという珍しい仕様があったり、同じ見た目・同じ種族・同じ職業でキャラメイクをしてもステータス値に違いが出るという個性もあったりと、やりこみ要素が至る所に練り込まれている。
IDOのサービス開始から十年、十五歳だった俺も二十五歳になり、今ではログイン皆勤の廃人となっていた。
翌日、0:00をもってIDOのサービスが終了する。
俺は視界の端に表示されている時刻を確認した。
――23:59。
目を閉じて、回想に耽りながら俺は最期の時を待つ。
絶景を求めて駆けまわった広大なフィールド。
何度も死んでは挑んでを繰り返し、攻略したダンジョン。
鬼のようにダンジョンを周回して手に入れたレアアイテムの数々。
そして――その全てを共にした最高の“仲間”たち。
……ああ、楽しったなあ。
それも、もう終わりか。
嫌だなあ。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
あれ? もう一分以上は経っている。
そろそろサービス終了してもいいはずだが?
もしかして、強制ログアウトじゃないのか?
そう思った俺は、自主的にログアウトしようとメニューウィンドウを呼び出そうと、頭の中でイメージをする。
『メニュー』
出ない。
何度イメージしても出ない。
え? 嘘だろ?
その時、ふと違和感を覚える。
俺はすぐさまその違和感の正体に気が付いた。
先程、時間を確認した時まで視界の端にあったはずの時刻表示が消えているのだ。
それだけではなくMPゲージやレベル表示などの視界内アイコンもすべて消えていた。
何だ? 何が起こっている?
現状が把握できなくなった俺は、立ち上がろうとした……のだが、立ち上がれない。
着ている防具の中の生身は動くことから、一切力が入らないという訳ではない。
なのに、立ち上がる事が出来ない。
バグなら早く修正してくれ。
って……サービス終了したんだった。
修正されるのか? ……コレ。
ログアウト出来ないとか勘弁してくれ。
明日も仕事なんだよ。
仕方ない……今できることをして暇を潰すか。
『ステータス』
頭の中でイメージするとブゥンと音を立てて、俺の目の前に見慣れた半透明のステータスウィンドウが立ち上がる。
お、出た。
ステータスもこれで見収めだな。
――――――――――――――――――――――――
【ステータス】
<名前>タスク
<レベル>1/100
<種族>人間
<性別>男
<職業>守護者
<STR>C-:0
<VIT>B:0
<INT>D+:0
<RES>B:0
<MEN>B:0
<AGI>C-:0
<DEX>C:0
<CRI>D+:0
<TEC>D+:0
<LUK>D+:0
残りポイント:0
【スキル】
下位:<騎士><鑑定>
上位:<軽騎士><重騎士>
最上位:<聖騎士><魔法騎士><守護者><暗黒騎士>
――――――――――――――――――――――――
んんんんんんんんんん!?
レベル1!?
0が二つ消えた……。
それに、割り振っていたステータスポイントもリセットされて、全部0に戻ってやがる。
しかも、覚えてたスキルも殆ど消えて<
……嫌がらせかよ。
見たくなかった……俺の十年間が無に帰した瞬間なんて。
それにしても、なんかカビ臭いな。
今、俺が居る場所は『いにしえの皇城』というダンジョンの最上階である五階、玉座の間。
ダンジョンとは言っても俺たちが攻略する前の話で、今では俺が所属していた『流レ星』というクランのクランホームだ。
クランホームというのは、言ってしまえばクランに所属しているメンバーみんなの家。
しかし、ただの家という訳ではなく、色々な設定が出来るようになっていて、例えば俺たちのクランホームではクランメンバー以外が侵入した場合、迎撃用のトラップが作動するように設定している。
それだけでは終わらない。
というのも、自動で生成された魔物がクランホーム内を徘徊しており、侵入者を視認すると襲い掛かるという自慢のオマケつきなのだ。
さらには、一階毎の階段前にボスとして大型の魔物までいてくれる。
因みにだが、IDOのダンジョンには難易度が一等級から十等級までの十段階存在しており、ここ『いにしえの皇城』の攻略難易度は最高難易度である脅威の十等級。
難易度十等級がどのくらいかと言うと、レベル100のフルパーティが何度も死んでは挑みを繰り返し、敵の攻撃パターンなどを完璧に覚えてようやく突破できるほどの難易度だ。
という事もあって、クランホーム内に自動で生成される魔物も馬鹿みたいに強かったりする。
ハハハ。
我ながら完璧の防衛力だ。
アリ一匹入れまい。
それはそうと、立ち上がれない理由はハッキリしたんだった。
装備には適正レベルというものが存在しており、適正レベルを1でも下回っていればその装備はとてつもない程重たくなり、扱えない。
そう。
今、装備している鎧は適正レベルが95と高いため、動けなかったのだ。
とりあえず、これ脱ご。
暑いし、鉄臭いし、動けないし、何より重い。
『インベントリ』
ステータスウィンドウが消え、インベントリウィンドウが立ち上がる。
そこには白銀のフルプレートメイル姿と、所持しているアイテムの一覧が表情されていた。
現在装備している鎧を全てアイテム一覧の中へと移す。
すると、俺の目にふわりと髪がかかる。
だらしなく伸びた黒い髪。
やる気のなさそうな黒い瞳。
少しだけ筋肉の付いた細身の体躯。
鎧を外し終えたインベントリウィンドウに、少し若返った
は?
ゴシゴシと目を擦り、もう一度見てみる。
だが、映っている姿は変わらない。
ちょっと待て。
カビ臭い? 鉄臭い?
IDOに嗅覚は
俺はインベントリから適当な鎧の腕だけを装備して、それに顔を近付けて舐めてみた。
……不味い。
いや、まあ、そりゃそうだ。
だが、そこが問題なのではない。
無いはずの味覚もある。
あー……。
寝落ちしたかな俺。
思考回路が限界を迎えた俺は寝た。
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