04 β.
月を眺めた。
あの日も。組織がなくなった日も、こんな月だった気がする。満月ではない、少しだけ欠けた月。
組織が急襲されたという連絡を受けて、私は組織を裏切った。管理されていた人質と、何も知らない下請けを逃がした。
逃がした人のリストと逃がした先は、私しか知らない。そして、おそらく彼は。アルファは。私を殺すために、私の前に現れる。
組織自体は国の後ろ楯を得ているだけの成り上がりで、そこらへんの野良犬とあまり変わりはなかった。そんなものに捕まって、なんとなく殺される人たちが不憫だというのもある。
それに、彼の腕に抱かれるとき、綺麗な自分でいたかった。彼の首筋にキスをして、胸に顔を埋めるとき。そのときに、自分がはずかしい人間でないように。それだけを、心掛けた。
私にとっては、それだけが、全てだった。正義も悪も、関係がない。ただ、彼が私を抱いたときに充足感を得る、そのためだけに、誰かを助ける。わるい人を殺す。
組織の人間は大半が悪だったので、壊滅してもいい。ただ、通信や雑務担当とか、殺してはならない人間もいた。
そういう人間は、全て、組織を壊した相手に知られない形で逃がしている。最後のひとりは、時間がなかったので死亡を偽装したりもした。通信担当だっけか。
もともと、たいした才能は持っていない。
組織に入ったのも、満足する働き口が見つからなかったから。自分の能力と評価が合致するところなんて、そんなもの、どこにもない。
でも、彼の腕の中では違う。
彼は、私をやさしく抱きながら、何も言わずに、問いかける。おまえは、俺に見合う女なのか。おまえの腕は、綺麗なままなのか。
私も、彼の背中に腕を回しながら、応える。あなたに見合う女になるために、私は。わるい奴を殺しました。いい人を助けました。私の身体は、綺麗です。
月に照らされる。影。
ふたり。
このふたりは、わるい奴だった。水を奪おうとしている。システムに潜り込み、大雨の日にダムが決壊するシステムを仕込んでいた。発動すれば、町が地図から消える。
銃を構えた。
月の光。
目を閉じて、そして、開いた。
銃から、硝煙の匂い。
私を殺す彼に。抱かれるときに。応えるんだ。今日も、ふたり、殺しました。わるい奴でした。私の身体は、腕は、綺麗です。そう応えるために。
殺した。
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