α&β , luna&sol .

春嵐

01 α.

 月。見慣れていて、それでいてどこか、物足りない感じがした。少しだけ、欠けている。


 三年前も、こんな月だっただろうか。


 夜。


『ハードボイルド作品の主人公ってさ』


 車に備え付けられた無線の先。ベータが喋る。


『無職だよね』


 無線音が切れる。つまり、返答を待っている。


「違うだろ」


『え、そうなの?』


 ハードボイルドという括りは、狭いようで広い。この前読んだ歴史ものも、ハードボイルドだった。しかし、それを説明するのも、面倒。


『私が読んだハードボイルド作品、全部主人公無職だったけど』


「んな馬鹿な話があるか。何を読んだ」


 無線に乗って、漫画とドラマがいくつか挙げられる。


「同じ作者のものばかりじゃないか」


『え、だって帯にハードボイルドって書いてあるの、この作者だけだったし』


「こんど良い奴貸してやるから」


『え、やった』


「さあ、仕事だ」


 月の明かりに照らされて。ふたり。倉庫に入っていくのが見える。


『こちらからも確認した』


「ベータは裏口を。俺は、正面と上を」


『裏口了解』


 車を出る。




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