夢の少女の箱庭で

@mas10

独白 1

「ねえ、スゥ。知ってる? 世界は私を始点に廻っているのよ」


 彼女は愛おしげに私の長い髪をすきながら微笑む。豪奢な椅子に座った私は、微動だにせず彼女に身を任せた。


「この世界は、私を始点としているわ。だからこそ、世界はこんなに醜悪で、利己的で、排他的で。そしてなにより、だからこそ、こんなにも冷たいのよ」


彼女の陶器のような手のひらが私の冷たい肌の上を滑る。するする、するする。堅い躯の上を滑り落ちる衣。甘い、甘い匂い。どこからか漂う、エデンの蜜。


「けれど、ねえ、スゥ。貴女が世界の中心だったなら。ああ、それはどんなに素敵なんでしょう」


 熱を帯びた声。夢見がちな乙女が見も知らぬ王子を語る時のような。夢と現の区別がつかない幼子さながらに、彼女はあどけなく微笑む。


「可愛い可愛い私のお人形。ねぇ、スゥ。世界の枢軸。何の意味も、意義も、意志も、意見もない綺麗な奇麗な貴女が世界の軸なら、きっと世界はもっと優しくて、もっと友好的で、なによりもっと美しくなるでしょうに」


 陶酔したような甘い甘い声音。熱に浮かされたような。夢にたゆたうような。そんな、狂気を宿した声で謳う彼女に、私はそっと目を閉じた。

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