第14話 魔王、助けた少女とその母親から感謝される

「こちら特戦。敵の野営基地を確認した。敵の基地の詳細を調べた後空爆を要請する」

『了解。戦闘機をそちらに飛ばす。しばらく監視を続けろ』

四千年前、かつて綺麗な緑色の葉が美しいと評判だった森に人間の連合軍の野営基地を確認したゼロは魔王軍後方支援部隊のオペレーターに連絡し、基地から来る戦闘機が空爆位置に着くまで待機した。

その野営基地を一人の女性と一緒に双眼鏡で調査する。

「零(れい)。見えるか?」

「うん。対空砲に……機関砲……自走砲……魔道レーダー……偵察部隊の情報通りだね」

彼女は魔王軍特殊作戦群隊長レイチェル=スカーレット。

黒髪のショートで、丸かった顔の持ち主の美女。

そして、ゼロの唯一の妹である。

偶然自分の肉親である零を召喚した時、ゼロは驚いて本当に零なのか確かめた。

それに対して零はとびきりの笑顔を見せた。

ゼロが昔見た零の笑顔と同じだと確信したゼロはその場で零を抱き締めて喜んだ。

前世は陸上自衛隊唯一の特殊部隊に所属していた零は、市街地及び野戦に特化した魔王軍の特殊部隊を創った。

それが魔王軍特殊作戦群だ。

その隊長の零は、ゼロと一緒に双眼鏡で敵の野営基地を調べていた。

陸上自衛隊の野戦服を身に纏い、ボディアーマーと通信用のインカムを付け、背中に最新のアサルトライフル20式小銃を背負っている。

小銃には4倍スコープ、フォアグリップ、マズルブレーキ、銃剣を付けている。

右腰のホルスターにはドイツ製の自動拳銃V

P9が収まっている。

「先日の偵察機が複数の熱源反応を見つけたから何かと思えば、人間の砲兵部隊か。これで奇襲攻撃して魔王軍の基地を攻撃する気か?」

「馬鹿だねー。こっちにはUAVの目があるのに、それに気づけないなんて」

「異世界には無人偵察機が無いからな。その代わりにドラゴンの目を使うけど」

人間の連合軍は魔王軍の無人偵察機に舌を巻いていた。

その無人偵察機によって奇襲攻撃が出来なかった。

だから無人偵察機に対抗する為、魔術師が遠視魔法で確認出来るドラゴンを使った。

「だけどデカくて目立つから対空砲で落とされる。この前も一体落とされてなかったか?」

「うん。おかげで連合軍は無人偵察機を堕とす兵器を作っているけど……」

「まだ当分先だな……っと」

ゼロが野営基地に他のどの物より目立つ兵器があった。

高さが二十メートル、縦の長さが同じぐらいある大型の野戦砲を確認した。

「120ミリ大型野戦砲だ。あんなものまで用意してたとは」

「敵も爪を隠していたわけね。あれが基地に落ちたら被害が大きくなるじゃん。F機はまだ?」

『こちらフォックスハウンド。空爆区域に着いた。野営基地のマークを』

F-35戦闘機がようやく空爆区域に着いた。

零がゼロに変わって空爆座標を伝える。

『フォックスハウンド。座標ウェスト方面のマジカルフォレスト。暗視レーザーでマークする』

ゼロがM4A1の暗視レーザー装置を使って野営基地にレーザーを向けた。

『座標確認。これより空爆を開始する。投下』

パイロットが戦闘機の下から爆弾を投下する。

『爆弾を投下した。着弾まで十秒』

二人は伏せて、着弾の衝撃に備える。

十秒後、絨毯爆撃用の数百発のクラスター爆弾が野営基地に着弾し、野営基地が連続して爆発した。

『命中。効果あり』

「空爆感謝する。離脱しろ」

『了解。フォックスハウンドは基地に帰投する』

上空から空爆した戦闘機の通り過ぎる音が聞こえた。

戦闘機が基地に戻ったのを確認した後、零は自分の部下に無線を入れる。

「皆、残敵処理を頼むねー」

『了解。これより空爆地点に移動する』

これでゼロと零の仕事は終わった。

後はもうすぐ来るブラックホークヘリに乗って、基地に戻るだけだ。

「んー!終わったー。ねえお兄ちゃん」

「何だ?」

「もし戦争が終わったらさ、恋愛に力を入れてよ。お兄ちゃん童貞だからさ」

「おいおい、童貞言うなよ。泣くぞ?」

実際ゼロはかなり心に大ダメージを受けている。

「女の子と付き合ったことないし」

「うぐっ」

「女性経験ゼロだし」

「がはっ!」

「エッチした事ないし」

「も、もう止めて。俺の鋼のメンタルがボロボロだ」

「豆腐メンタルじゃないの……」

零は呆れながら童貞の烙印を押されたゼロを見た。

心なしか落ち込んでいるようにも見えた。

「ま、とりあえず考えておいてよ。損はしないからさ」

「まあ、考えておくよ」

二人が軽く雑談していると、上から迎えのブラックホークヘリが到着した。

ヘリが二人の近くまで接近し、ヘリのドアが中にいた兵士によって開かれた。

二人はヘリの中に飛び乗って、搭乗員席に座った。

兵士がドアを閉めて席に座るとヘリが飛び立ち、基地へと向かっていった。


「ふぃ~。皆お疲れ」

アメリカ兵と戦った事件から二週間後、とある男性からの魔物の討伐依頼を終え、報酬を貰って家に帰ってきた。

参加したクレア、ミーナ、錬子、優子は椅子やソファーに座ってリラックスした。

「コーヒーを入れるが、砂糖とミルクの分量を言ってくれ」

「砂糖一杯、ミルク少なめ」

「私はミルク多めで」

「ブラックでいいわ」

「砂糖を多めでお願いします」

女性陣から砂糖とミルクの分量を聞いて、市販の挽いたコーヒーをそれぞれ一杯ずつそれぞれのマグカップに入れ、砂糖とミルクを注文通りに入れた。

女性陣はよく俺に何か作ってもらう事が多くなった。

コーヒーだけじゃなくて、パンケーキ、クッキー、挙げ句の果てにアイスまで頼まれた。

まあ頼まれるのは嫌いじゃないから頼まれた通りの物を作って彼女達にあげていた。

「ほいよ」

そして女性陣にそれぞれ注文したコーヒーを渡した。

四人とも礼を言ってコーヒーを味わって飲んだ。

「それにしてもミーナ。また魔法を上達させたな。中々攻撃魔法が上手くなっている」

今日の討伐依頼でミーナは事件から特訓した魔法を使って、俺達四人の負担を軽くしていた。

特にもはや砲撃に近い攻撃魔法で帰りに来た魔物を倒すのが楽だった。

「あ、ありがとうございます……!」

ん?何で顔を赤くする?まあいいや。

「だがまだ威力やスピードがまだまだだ。このまま練習して上げてみせろ」

「はい!もっと頑張ります!」

「優子、たまにはミーナの特訓に付き合ってくれ。あいつの成長はかなり早い。お前並になるかもしれないぞ」

「分かりました。期待の新人に強さを教えられるよう頑張ります」

「優子がニヤけてる……」

「何だか嫌な予感がするわ」

優子を昔から知っている錬子は優子のしごきを思い出してミーナを哀れに思い、それを知らないクレアは何とも言えない嫌な予感に襲われた。

俺も優子の練習相手にはなりたくないな。

早いし疲れる。

それに優子の方がガンマンとしての腕が立つ。

俺のは近接戦闘で使うから後から優子に教わったけど。

そんなこんなで事件から二週間経ったが、変わらずに傭兵の仕事を続け、それなりに稼いでいた。

でも、あの事件以来少し面倒な事になってしまった。

コンコンコン!

玄関のドアがノックされた。

「誰か来たみたい」

「新聞社の連中だったら無視しろ。これで五回目だぞ」

世間では俺が町を救った英雄として、連日俺達の家に俺を見ようと家に来るようになった。

この町には新聞社があるのだが、この記者のしつこさはかなり質が悪かった。

家の前で待ち伏せする迷惑な記者もいた。

だが俺に従ってくれた傭兵が迷惑な記者を追い払ってくれた。

彼らは俺が魔王だと信じないが、あの時の指揮で見直してくれたらしい。

俺としては助かるが、俺は少なくない数の傭兵を死なせてしまった。

そんな俺が英雄だって?俺を持ち上げすぎだ。

錬子が玄関に向かって、ドアを開けた。

「あら。いらっしゃい。どうしたの?」

どうやら新聞記者じゃないらしい。

「あの、私を助けたお兄ちゃんはいますか?」

ん?この声……どこかで聞いたような。

「ええ。いるわよ」

「あの……その……」

「こら、エラ。勝手にどっか行かないでよ」

「あ、お母さん」

「ゼロ。あなたが心配してたあの子とその母親が来たわよ」

「!中に入れろ」

俺はあの時撃たれて負傷していた少女を思い出し、あの子とその母親を家に入れさせた。

リビングにあの子と母親が来て安心した。

子供らしい元気いっぱいの笑顔のあの子が母親と一緒にいた。

「あ!ほらお母さん!あの時、私を助けたお兄ちゃんだよ!」

「本当!?」

すると母親が急ぎ足で俺に近づいてきた。

「この度は……娘を助けてくださり、誠にありがとうございます!」

「頭を上げて下さい。娘さんが無事で良かった。それだけで充分です」

「いえ!あの時、買い物に出掛けていたらこの子が迷子になりました。私が探していたら大通りで銃声が聞こえました。大通りに行こうとしたら憲兵隊の規制で行けず、何度も娘を探していました」

「それは……辛かっただろう……」

「ですが偶然、娘を抱えたそこのお嬢さんに会いました。娘は足を撃たれて応急処置をしたものの、病院でちゃんと手当てしないと傷が開いてしまうと言われ、お嬢さんから娘を受け取った後すぐに病院に行きました」

あの時、ミーナと会ったのか。

それでミーナはあの子を母親に渡して戻って来た訳か。

それで来るのが思ったより早かったのか。

「病院で傷の手当てを受け、娘は何とか元気になりました。その後はお礼を言いたかったのですが、家の周りには記者の方々がいて中々行けませんでした」

あいつら、めっちゃ迷惑かけているじゃねえか。

おかげで母親がお礼に行けなくなったんだぞ。

「そして今日、娘と散歩していたら急に走り出して、どこに行ったかと思えば娘を助けたあなたの家にいて、まさか本当に出会えるとは思いませんでした」

「奥さん、すまなかった。中々記者がしつこかったのと傭兵の仕事で中々お見舞いに行けなかった」

「いいんです!今日は何という日でしょう!娘の命の恩人に会えるなんて……!」

母親が涙を浮かべながら俺に会えた事に感謝している。

良い母親だ。ちゃんと娘の事を思っている。

……少しだけ、羨ましい。

「ねえお兄ちゃん」

「ん?」

母親と話しているとあの子が俺に話し掛けた。

「私、エラ!今十歳!」

「そうかエラ。足は大丈夫か?」

「うん。お兄ちゃんの魔法の包帯のおかげで傷が残らなかったよ」

「良かった。エラは元気にしてたか?」

「うん!お兄ちゃんにお礼を言いたくて外に出た時、一度来たここに来たの!」

「あまりお母さんを困らすなよ。お母さんはお前の事が心配だからな」

「分かった!」

元気いっぱいな女の子だ。とびきりの笑顔を俺に見せてくれる。

「本当に娘を助けてありがとうございます……!このお礼は必ずします!」

「礼はいらない。エラが無事ならそれで充分だ。それに、エラを助けたのは俺の意志だ。依頼じゃないから、礼はいい」

「何ていい人なの……?こんな人柄の良い人が娘を助けてくれたなんて……」

俺はいい人じゃない。数え切れない程人を殺した魔王だ。

だが、母親に感謝されて嬉しい自分がいる。

あの時の行動が正しかったと言われているみたいだ。

「ミーナさん……ですよね?娘をあそこまで運んでくださり、ありがとうございます」

「いいえ!エラちゃんが元気で良かったです」

「あなた方は娘の命の恩人です。このお礼は必ずします。そうしなければ気がすみませんので」

「……分かった。俺達は基本ここにいる。困った事があればここに来い。もし依頼すれば、まあ無料とはいかないが、格安で引き受けるよ。エラも暇ならここに来てもいいぞ」

「うん!毎日来るよ!」

「エラ、流石に迷惑よ。私達の都合が合えばまたここにいらっしゃいます。今日は主人とディナーですのでここで失礼します」

母親とエラが家族でディナーに行くため、玄関に向かった。

エラはまだ俺達と一緒にいたかったのか、母親の手を拒んでいた。

俺は仕方なくエラにある物を渡す。

「お兄ちゃん、コレは……?」

「このワッペンを持っていろ。それがある限り俺達の仲間だ」

「うん!大切にする!」

「お父さん、お母さんを大事にしろよ」

「はーい!」

「あなた方の恩を忘れません。では失礼します」

二人が外に出ていった。

俺は母親とエラを見て自分の母親の事を思い出したがすぐに忘れた。

あんな奴……母親じゃねえ。俺が母親だと認めているのは一人だけだ。

「ゼロ。エラに会えて良かったね」

クレアに話し掛けられてすぐに自分の母親の事を綺麗さっぱり忘れた。

「ああ……それにつけても、家族……か」

「何よ突然」

「もう戦争は終わったんだ。誰かと恋するのも悪くないかもな」

「ここここ、恋!?」

ミーナが何故か声を大きく上げる。

「どうしたミーナ?」

「い、いえ……それよりも、何で恋をしよって言ったのですか?」

「四千年前、零に戦争が終わったら恋に力を入れろって言われた。エラの可愛らしい笑顔を見て決心したんだ」

「……フフフ。そうですか」

何だその気持ち悪い笑い声は。

そして何故ガッツポーズをとるんだ?

「私にも運が回ってきた……やったぞ私!」

「おーい?ミーナ?」

さっきから一人で何言っているんだ?

「気づけよ魔王……」

「ねえ。あいつって鈍感なの……?」

「まあ……一度も恋をした事がない童貞ですから……」

おい優子!童貞言うな!四千年前から気にしているんだぞ!

……またここでも童貞って言われるかもな。

俺はそう予想してガックリと肩を落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る