第10話 元アメリカ兵、領主を襲撃する
ヘビスは自分の町を誇らしげに見ていた。
何せ人生で初めて国の町の領主になり、本国の貴族から人気者になった。
国から忠誠心の強い私兵部隊を貰い、財政以外の仕事を任せる事が出来た。
しかも毎日のように平民からの税金が送られてくる。
金にも困らず、仕事にも困らなかったヘビスは私腹を肥やし、いつの間にか太ってしまった。
本国にいた頃はスリムな体型だったが、今は見る影もない。
ヘビスは自分の太った体を恨み、外の景色を見る。
すると、近くの私兵が驚いて横に銃を向けた。
車の前を見ると、見たことがないトラックが二台走ってきていた。
「何事だ!」
「襲撃です。伏せてください」
マカドがヘビスを守るように警戒し、側近の兵もガリルARMアサルトライフルを持つ。
やがてトラックが止まって、荷台から武装した男達が降りてヘビス達に攻撃した。
「ぐわっ!」
奇襲を受けた前の私兵が撃たれて倒れた。
襲撃されたと気づいた私兵はケイトが指揮する武装集団と交戦する。
魔法が使える私兵は護送車の近くに向かい、ヘビス達を外に出す為の準備をしていた。
武装した男達のほとんどはM16A1アサルトライフルを所持していた。
それぞれ違ったアタッチメントを付け、ヘビスの私兵に銃撃していた。
大通りには武装集団が銃撃した際、撃たれた民間人が負傷して動けないでいた。
中には死んでいる者もいた。
撃たれていない民間人は一目散に逃げていき、武装集団もヘビスの私兵もあまり民間人を気にせずに撃っていた。
すると武装集団の後ろから複数のジープがやって来て、大通りに点在するように止まった。
ジープから男達が降りて仲間達の射撃に加わった。
しかも武装集団は新たな遮蔽物を得て、隠れながら地道に私兵を片づけていた。
私兵とって運が悪かったのは、ジープのうち二台は銃座にM2重機関銃があったこと。
すぐにM2重機関銃の制圧射撃が始まり、三十人もいた私兵が勢いよく倒されていった。
「何なんだ!?あの機関銃は!?」
「まずい!重機関銃だ!すぐに車の外に出ろ!」
ヘビスとマカドと二人の側近は慌てて車の外に出る。
それに気づいた魔術師の私兵は障壁を展開して四人を重機関銃やケイトの仲間の銃撃から守った。
「An enemy magician. A bullet is being played.(敵の魔術師だ。銃弾が弾かれている)」
「Bravo team. Keep shooting as it is. The Charlie team goes around.(ブラボーチーム。そのまま射撃を続けろ。チャーリーチームが回り込む)」
ブラボーチームと呼ばれた分隊はそのままM16A1アサルトライフルや分隊支援火器のM60軽機関銃でヘビス達のいる車を撃ち続けた。
そしてチャーリーチームと呼ばれた分隊が気づかれないように側面から回り込む。
ケイトはチームで分かれ、アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーとそれぞれ呼称する。
各チーム六人から八人のチームで、連携してヘビスを追い詰めていた。
アルファチームはブラボーチームの射撃に加わり、デルタチームはチャーリーの反対側の側面から回り込んでいた。
「マカド!どうすればいい!?」
「落ち着いて下さい領主様。必ず守り抜いて見せます。おい、警備隊はまだか?」
マカドは冷静さを失ってパニック状態に陥っているヘビスを落ち着かせ、無線機で近くの仲間に状況を聞いた。
『もうすぐ到着します。完全武装で今向かっていると連絡が』
「了解。警備隊が来たら後退して警備隊の車で領主様を逃がす。それまで時間を稼げ」
『了解です』
マカドも無線を終えた後、持っていたガリルARMでケイトの兵を攻撃した。
ショートバーストで正確にケイトの兵を撃ち抜いていく。
そしてすぐに憲兵隊が到着した。
車から降りて、MP5Kサブマシンガンで回り込んでいたチャーリーチームとデルタチームを攻撃した。
「今だ!走れ!」
マカドの号令で車にいたヘビス達は憲兵隊のいる十字路まで後退する。
チャーリーチームとデルタチームは追撃したかったが、憲兵隊の射撃で身動きが取れなかった。
「Command team. This is the Bravo team. The Charlie and Delta teams are stuck due to the gendarmerie blockage,over.(司令チーム。こちらブラボーチーム。チャーリーチームとデルタチームが憲兵隊の妨害により身動きが取れず、オーバー)」
司令チームとは攻撃しているチームの後方からチームの状況を見ていたケイト達のチームだった。
すぐにケイトの指示が出た。
『Roger that. Alpha team, Bravo team. Allows the use of rocket launchers and grenade launchers. Help the two teams and destroy the enemy.(了解。アルファチーム、ブラボーチーム。ロケットランチャーとグレネードランチャーの使用を許可する。二チームの支援及び敵の殲滅をしろ)』
指示が出たアルファ、ブラボーチームはジープの重機関銃の射撃で敵の注意が逸れている間に前進する。
ヘビス達が乗っていた高級車に到着すると、M60軽機関銃を持っていた兵は横に広がって伏せる。
軽機関銃の二脚のバイポットを開いて、伏せ撃ちを始めた。
やがて重機関銃のジープも前進して、ヘビス達に圧力をかける。
その隙にある物を持っていた兵はそれを準備して、憲兵隊の車を狙った。
彼らが車両破壊用に持ってきていたのは、M67ロケットランチャーとチャイナレイクポンプ式グレネードランチャーだった。
どちらも車を破壊するのに適した武器だった。
一方マカド達私兵部隊と憲兵隊はヘビスを逃がそうと一番後ろに止まっている憲兵隊の車に乗せようとする。
「Fire」
それを見た兵はすぐにロケットランチャーとグレネードランチャーを撃った。
手前の車を吹き飛ばし、私兵部隊と憲兵隊のほとんどを倒した。
「ひいいい!」
「後退しろ!」
まだ生き残っていたヘビスとマカド、数人だけの私兵部隊の兵士と憲兵隊はヘビスを守りながらケイトの兵に制圧射撃する。
撃った兵はロケットランチャーを捨てて隠れたり、チャイナレイク持ちの兵はポンプを引いて空の弾道を落とした。
このままだと逃げられると予想した兵はチャイナレイクに魔法を付与した。
チャイナレイクを構えて、少し上の所に向けて射撃した。
物理障壁で守っていた兵に当たり、障壁を破って木っ端微塵にした。
「止まるな!車まで走れ!」
生き残っているのはもうヘビスとマカドだけだった。
私兵部隊も憲兵隊も銃弾や榴弾で全滅していた。
そしてようやく車に辿り着き、マカドは先にヘビスを後部座席に乗せる。
そして運転手に避難場所を指示したその時、運転手が狙撃された。
マカドは振り向いて近づいていたケイトのチームをガリルARMで撃った。
一人がやられ、ケイトの魔術使いの兵士が障壁を張って銃撃を防ぐ。
そして一人の兵のM16A1の射撃でマカドは蜂の巣にされた。
それでも生きていたマカドは拳銃を抜いて反撃しようとしたが、それに気づいた兵がライフルを撃ってトドメを刺した。
その後すぐに後部座席に蹲っていたヘビスを強引に外に出して、銃を向けて大人しくさせた。
「Command team, this is Alpha team. Secured the target.(司令チーム、こちらアルファチーム。対象を確保した)」
『Roger that. We will also head there immediately.(了解。我々もすぐにそちらに向かう)』
数分後にケイトの司令チームが到着し、ケイトはビクビクしているヘビスと話した。
「ようやく捕まえた、ヘビス。お前はここで終わりだ」
「お前は何者だ!こんなことをして、本国が黙っちゃいないぞ!」
「本国はここでの出来事を知らないよ。何せあなたを呼び出したのは本国ではなく私」
ヘビスは絶句して声が出なかった。
やがてケイトに騙された事に気づいた。
「ようやく気づいた?そう。本国からの呼び出しは嘘。あなたを誘き寄せる為に私がやったの。思ったより早く憲兵隊が来たのは想定外だったけど、それを見越して重火器を持ってきて良かったわ」
「き、貴様……!」
ヘビスは今すぐに憎たらしいケイトを殴りたかったが、周りの兵の銃口でそれは出来なかった。
「さて、さっさと任務を終わらせましょ。早く帰りたいし」
ケイトは右腰のホルスターからM1911ガバメントを抜いて、拳銃のスライドを引いて銃口をヘビスの額に向けた。
「じゃ、さっさと死んでね」
ヘビスは項垂れ、顔を地面に向けた。
そして何故か泣いてしまった。涙が止まらなかった。
「フフフッ。泣いてる」
ヘビスは悔しくて泣いていた。
自分を守ってくれた私兵部隊は全滅し、何とか抵抗しようとしたが怖くて出来なかった。
そんな自分が悔しくて憎くて泣いているのだ。
あの頃に戻りたい。
まだゼシール王国で楽しく貴族をやっていた過去に戻りたいとさえ思った。
だがもう過去には戻れない。あるのはこれからの未来だ。
だがそれも無くなってしまう。
「Goodbye」
ケイトが引き金を引こうと指に力を入れる。
その時、近くにいた仲間が頭を撃たれて倒れた。
すぐにヘビスを殺すのを止めて、車に隠れた。
ケイトの兵も近くの車や建物の柱に隠れる。
ケイトが顔を上げて仲間を撃った人物を見た。
黒いボディアーマーを着て、M4A1アサルトライフルを構えていた黒髪の少年だった。
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