第7話 魔王、謎の大男と対決する
次の日の夜、昨日見つけた怪しい建物の近くでチャンスを窺っていた。
やはり最低二人は入り口を警備しているみたいだ。
手にはガリルARM。撃たれると厄介だ。
俺は戦闘服で身を包み、顔をフェイスマスクで隠している。
手にはサプレッサー付きP99拳銃を握っている。
今回は敵にも、周りの住民にも気づかれないように潜入する隠密作戦だ。
アサルトライフルやデザートイーグルでは目立つし取り回しが良くない。
だから予備用としてしまっていたP99拳銃を使うことにした。
だがこれはあくまで緊急時にしか使わない。
本来サプレッサーは発砲する人や人質の耳を守る為に開発された物だ。
無音じゃないから耳を澄ませばいずれバレる。
しかし、中々交代しないな。
ここに来てから一時間は経っているが、警備兵が中々交代しない。
こうなったら拳銃で始末するか、何かで注意を引いて警備兵を片付けないといけない。
そうなると必ず痕跡が残ってしまう。
始末するか迷っていると、入り口で動きがあった。
警備兵の二人が謎の黒い奴らに暗殺されていた。
首をナイフで切り裂かれ、警備兵は血が流れる首を押さえて壁にもたれ掛かって倒れた。
警備兵を殺したのは、黒い戦闘服の男達六人だった。
ボディアーマーも装備品の何もかも真っ黒だった。
顔は黒のスカルフェイスの仮面で隠している。
彼らが警備兵から鍵を奪って開けると、掛けていた銃を持った。
ドイツ製のPDW、MP7A1サブマシンガンだった。
4.6×30ミリ弾を使う同じP90サブマシンガンを意識して造られた銃だ。
銃口にはサプレッサーが付けられている。
折り畳んでいたグリップを出し、ドットサイトの状態を確かめた後に中へ入っていった。
俺の他にも潜入する奴らがいたとは。しかも警備兵を気づかれずに始末する腕を持っている。
熟練のプロだ。だがこれはこれで好都合だ。
中の私兵を奴らが勝手に始末してくれる。
俺は後ろから潜入して証拠となる物を入手して帰るだけだ。
拳銃のスライドを引いて、警戒しながら建物の中に入った。
中にはさっきの奴らに殺された私兵が転がっていた。
倉庫だったのか、棚が幾つもあった。
念の為、ドアを閉めておく。
拳銃を構えながらクリアリングすると、地下に続く階段を見つけた。
その階段を降りると、また死体と化した私兵が何人も転がっていた。
索敵魔法で奴らを探すと、この部屋のさらに奥にいた。
ここ以外に出れる部屋は無さそうだった。
ところで、奴らは何をしにここを襲ったんだ。
遠視魔法で奴らの動向を探る。
遠視魔法とはいわば千里眼のような魔法で、監視にも偵察にも使える。
ただし、一度見た人しかこの魔法は使えない。
遠視魔法で見ると、廊下にいたヘビスの私兵を容赦なく撃ち殺していた。
銃声はサプレッサーで抑制され、マズルフラッシュも無くしていた。
廊下の私兵を片付けると、部屋の中に突入して中の人間を殺していた。
私兵やここの作業員を問わず、容赦なく鉛玉をぶち込んでいる。
無駄な動きもなく、その部屋を制圧すると、一人の男が閃光魔法で目をくらませ、他の五人が中の人間を殺していた。
奴らの中に魔法が使える者がいた。
そして最後の部屋に入って中の人間を始末したら、部屋の棚やタンス、クローゼットを物色し始めた。
何かを探しているみたいだ。
無言で奴らは部屋の中を隅々まで探している。
すると、一人の男が一枚の紙を回収した。
確認すると、何かの報告書だった。
それを回収したら、すぐに部屋を出てこっちに来た。
やばっ。ここに来るじゃん。
俺はとっさに光学魔法で姿を消して、壁に背中を預けた。
数秒後に奴らが入ってきた。
早すぎだろ。もう来やがった。
だが、証拠となる報告書を持っているなら、逃がす訳にはいかない。
俺は近くにいた男の首を拘束して光学魔法を解いた。
「!」
残りの五人が一斉に銃を向ける。
人質も取った男に拳銃を向けて大人しくさせ、五人の男に取引を持ち掛ける。
「動くな」
俺は人質の男の側頭部に銃口を向けた。
「手短に言う。報告書を渡せ。そうすればこいつを解放する」
男達は銃を向けたまま動かない。
何も反応しない男達にムカついた俺は人質の男の膝を撃つ。
「ぅがあっ!」
男が悲鳴を上げる。撃たれた膝からダラリと血が流れる。
「早くしないとこいつが死ぬぞ?」
俺が挑発すると、報告書を持っている男が逃げた。
逃がすか。
拳銃を撃って男を転ばせる。
それを見た四人の男達がMP7を撃って、人質の男を殺した。
こいつら、味方を躊躇なく殺しやがった。仲間を切り捨てる度胸もある奴は判断が早い。
俺は男の死体を捨て、物理障壁で銃弾を防ぎながら足を撃たれても階段を這う男に接近する。
近づかれた男はMP7をフルオートで撃つが、俺の物理障壁で防がれた。
弾切れになったら男の額を撃ち、報告書を奪って異空間収納にしまった。
後ろを見ると、弾切れになって二人はサプレッサー付きのガバメントを構え、二人はリロードしていた。
このまま逃げようとした時、男達が後ろに下がり始めた。
何で後ろに下がったのか疑問に思っていると、後ろから物凄い殺気を感じた。
振り向くと、黒いトレンチコートを着た鉄仮面の大男が立っていた。
黒のハットをかぶり、顔を銀色の鉄仮面で隠している。
よく見ると顔の皮膚が青白い。
「何だ、こい、」
後ろの別の侵入者に驚いていると、大男が殴って俺を後ろの壁までぶっ飛ばした。
物理障壁でガードしていたが、大男のパンチは俺の物理障壁を破壊して俺の腹を殴った。
「痛え……」
久しぶりに殴られたとはいえ、大男のパンチは強すぎた。
黒ずくめの男達は持っている銃を撃つが、トレンチコートや鉄仮面に当たっても弾を弾いていた。
それ見てあのトレンチコートは防弾だと悟った。
男が拳銃を撃っていた二人を手刀で首の骨を折って倒し、その後ろの男を掴んで横の壁に投げた。
壁に激突した男は骨の折れる鈍い音が鳴った後、動かなくなった。
一人となった男は必死にサブマシンガンを撃つが、すぐに弾切れになって、大男によって首の骨を折られた。
クソ。全滅か。
あわよくばあの男達が大男を始末してくれればと思ったが、現実はそんなに甘くなかった。
俺は立ち上がって拳銃を連射する。
何発か鉄仮面に当たっているが、全て弾かれていた。
鉄仮面も防弾だった。
拳銃が弾切れになったらリロードせずに拳銃を男に投げつけた。
大男は腕で拳銃を弾き落とした。
その隙に大男に青い火の弾を食らわせる。
弾が大男に直撃して大男が少し後ろに下がった。
煙が晴れると、男のトレンチコートは焦げていたが、奴には効いていなかった。
あのトレンチコート、魔法対策までしてやがる。何者だ?あいつ。
鉄仮面の大男が距離を詰めて、殴りかかってきた。
俺は横に避けて今度は顔に青い火の弾を食らわせた。
今度は効いただろ!
「…………」
普通に立っていた。効いた様子もなかった。
あっれぇ?ってうが!
そして殴られてやり返された。
後ろに飛んで距離を取る。
俺のフェイスマスクやヘルメット、ボディアーマーは耐衝撃性もあるが、それでも俺の体にダメージを与えていた。
俺は二つの選択肢を考えた。
一つはこいつから逃げて撤退する事。
これはさほど難しくない。閃光魔法で目をくらませるか、煙幕を張って逃げればいい。
しかし、こいつが何処までしつこく追ってくるか分からない。
外に出たら、町の人に危害を加えるかもしれない。
もう一つはこのまま戦って、奴を倒す。
しかし、どうやったら倒せるかまだ分からない。
しかもこいつは防御力の高い服に鉄仮面、さらにタフさを持っている。
こいつを倒すには少し強めの攻撃をしなければならない。
「さあ……どうする……?」
倒すのも逃げるのも難しいこいつをどうすればいい?
落ちている銃を拾って皮膚に当てるべきか?
それとも強めの魔法をぶち込むか。
「…………」
どうやら奴は俺が何をするのか観察しているみたいだ。
なら、ちょうど試したい魔法があったからそれをやってやるか。
技をイメージして、それを魔法で具現化させる。
そして火の槍と風のカッターが出来上がった。
「食らいな!」
風のカッターを奴にぶつけた後に、火の槍を腹に刺した。
その後、奴に火が回り、火を消そうとのたうち回っていた。
さすがのトレンチコートも火傷は防げても熱さはどうにもならんか。
そしてトドメ用の岩を奴の上に用意する。
そしてそれを勢いよく下に降ろし、奴をペシャンコにした。
その瞬間血が噴き出て、そのまま動かなくなった。
「…………」
どっと疲れて腰を下ろした。
だが、しばらくしたらここから離れないといけない。
三十秒だけ休んで立ち上がる。
そして鉄仮面の大男の千切れた腕に何かの紋様が見えた。
腕を持って確かめると、そこには俺の腕にもあったあの紋様が大男の腕にもあった。
一体……どういう事だ……?
俺は大男の腕を異空間収納にしまって、建物から離れた。
「やっぱり人型生物兵器では倒せないか。まあそれで報告するか……」
ゼロが建物から逃げるのを見たフードの女は立ち上がって、そのまま現場から逃げようとしていた。
そして逃げる前に忍者の真似をした。
「忌々しい魔族め……」
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