第190話☆ アジーレの怒り


 足元からティーターン超巨人が巨大なハンマーで叩き上げて来たような、凄まじい衝撃があった。

 次の瞬間、体が跳ね上がるように浮いた。

 そうしてまわりが暗くなった。

 明るい天井がみるみる小さくなり遠のいていく。

 

 天井と繋がっていた支柱は床を支え切れず、根元あるいは途中からバキバキと折れて石畳と共に崩れ落ちた。

 後には3分の1ほどに天井に残った石柱に、だらりとフラッグガーランドが垂れ下がる。


 数秒前まであんなに楽し気な声に満ちていたホールには、今や巨大な奈落が口を開けていた。

 悲鳴があまり聞こえなかったのも、本当にあっという間の出来事だったせいだろう。

 ほとんどの人が自分の身に何が起こったのかわからずに、その場から姿を消したのではないだろうか。

 おそらく何かを感じ取る前にいってしまったのだ。


 ビレルは落ちる瞬間、鉤爪付きの鎖を管理室の開いたドアに飛ばしていた。

 その爪がドアの縁にかかるや、鎖を引き寄せる。

 グンと、ビレルの体が管理室に向かって宙を舞った。


 これは彼の『土』使いとしての能力、鉄の操作だ。

 鎖はいつも両手に手甲のように巻き付けている、彼の得物の一つだった。


 ザザッと管理室の中に飛び込むと、1人の係が部屋の中で座り込んでいた。

 鎖をドアから外し、今度は部屋の一番重そうな机の足に巻きつけた。

 そのまま鎖を握りながら、ドアの外へ顔を出す。


 アジーレのエントランスホールが、黒く塗りつぶされたように抜けていた。

 それも全域に渡って。

 穴は一気にホールにいた人々を飲み込み、装飾された柱や露店、床にあった物をすっかり底にさらい込んでいた。


 ホールの飾られた壁伝いに、辛うじて残った床で腰を抜かしている者や、その壊れた縁にしがみ付いて必死に這い上がろうとしている者がいた。


 だが、ホールにいた者はほぼ全員、この巨大な穴に消えている。

 かなり深いのか、間をおいて底から土埃が上がってくるのが見えた。


 首を右に向けると穴はホールだけでなく、ずっとダンジョンの入り口へ伸び、1層に大きく広がっているのがわかった。

「…… 一体……なんでこんな…………」


 と、底に再び意識を向けた瞬間、ビレルはまたあの何かの気配を感じた。

 バンッとドアを閉めると同時に、係に向かって叫んだ。


「大扉を閉めろっ! 早くっ!!」

 腰を抜かしていた係が慌てて立ち上がり、あたふたと奥の壁の装置に行く。

 ビレルはドアの小窓を開けて、ホールを覗った。


 底の方から黒っぽい砂煙が上がって来る。

 その臭いは、強い辛味のような刺激臭を微かに含んでいる。


 その煙の中から勢いよく飛び出してくるモノがいた。

 

 ソイツは黒とこげ茶、赤茶色の斑な体と羽を持ち、頭にはヤギのような角、尖った嘴のような口をしていた。

 羽を付けた姿は大きなコウモリにも似ていたが、その5,6メートルにも及ぶであろう羽は肩から生え、人よりも長い腕が生えている。

 そして蜥蜴のような太い尾をたなびかせていた。


 大扉の中を、外から覗き込んでいた人々が悲鳴を上げた。

 その前で急旋回すると、ソイツは今度はホール内を壁に沿って飛翔し始めた。

 こちらでも悲鳴と絶叫が響き渡る。


 ソイツが壁際の床に残っていた人間を、払い落とし始めたのだ。

 その早い動きと僅かな足場に、すべもなく人々が深い穴へ落下していく。

 

 何であんなヤツがいるッ!?

 アレは恐らく中級にもいない、ましてや初級ダンジョンになんかいる筈がない魔物だっ!

 

 そこでビレルは思い付いた。

 この鼻腔の奥を刺すような臭いは、凶暴化したダンジョンの臭いなんだっ‼

 いつの間にか、アジーレは上級に化けていたんだ。


「もっと早く出来ないのかっ?!」

「無理ですっ! そんな早くは動きませんっ」

 

 大扉はゴトゴトと動き始めているが、如何せん、速度が遅い。

 ビレルは管理室の奥に走った。

 そこには『非常口』、外の番小屋に通じる通路があった。


 人1人がやっと通れるくらいの狭い出入り口に彼が飛び込んだのと同時に、ソイツは残った人々を払い落とし終わると再び大扉の方に飛んだ。

 2枚の重い扉は今や45度くらいの角度まで閉まり始めていた。

 

 が、運悪く、手前で折れた柱が斜めに転がり倒れ、その動きを止めさせた。

 その開きっぱなしとなった入り口から、怪物が飛び出していった。


 飛翔する怪物は驚き仰ぐ民衆の上に一気に飛んでくると、その長い腕を使って驚愕に固まる中年の男を掴み、再びホールの中に飛び戻ってきた。

 穴の上空で手を離す。

 哀れ、男の悲鳴が奈落にこだました。


 あちこちで悲鳴と叫び声が湧きあがり、辺りは騒然となった。

 ソイツが再び戻ってきたからだ。


 その口が黒い牙を見せながら大きく裂ける。

『グアァァァァーーーー!』

 人じゃないモノの咆哮が轟いた。


 ほんの数分前まで人々の楽し気な声に満ちた場所は、最悪の地獄へと変じてしまった。


「ガーゴイルッ!? なんでこんなとこにっ?」

 その声に番小屋から出たビレルは左に振り返った。

 すぐそばの露店の近くで、子供を抱えたドロレスが空を見上げて立ちすくんでいた。


「奥さんっ そこにいたら危ないっ! 中に入って」

 もちろんただの小屋。それほど頑丈な造りでもないが、外よりはマシだ。


「ビレルさんっ 何があったの? さっきの音は何っ?!」

「信じられないけど、ホールが落ちたんですっ! とにかく今は入ってっ」

 彼女と入れ替わりに、ビレルは外に走っていった。


 パニックになった人々の上を、クルクルと旋回したガーゴイルは、ベムのような大目玉をギョロつかせると、再び狙いをつけて急降下してきた。


 ボムッ! その黒っぽい顔に炎が撃ち込まれ、一瞬怪物が怯む素振りを見せた。

 だが、火は一瞬でかき消える。

 続いて、氷柱が背中や羽に食い込むように落ちたが、パキーンッと音を立てて砕け散った。


 自分への攻撃が屁でもないというように、怪物が大きな口でニーッと笑ったように見える。

 

「チィッ!」

 火と氷を放った警吏が舌打ちする。


 バチィン!! と、その黒焦げ茶の岩のような背中に、激しい落雷が落ちる。

 その電撃はほんの一瞬、、怪物を宙でグラつかせたが、とても落ちる程ではない。

「クソッ(手応えが)浅いっ! 野郎、耐魔性が強えぇぞっ」

 別の警吏が、逃げ惑う群衆を掻き分けながら唸った。


 バシュッ! と、少し離れたところから警吏が撃った鉄の矢が、羽の中央にぶっ刺さった。

『ガァアアァーーー』

 煩わし気にガーゴイルが、空中でそちらを振り向く。


「鉄だっ! 破魔矢じゃない、ただの鉄矢でも効くぞっ!」(ここでの破魔矢は魔法式の書いてある矢のこと)

 手応えを感じたアーチャー系の警吏が仲間に叫ぶ。

 が、すぐに身構えた。

 相手と目が合ったからだ。


 速度を上げて真っ直ぐに向かって来たヤツに、次の矢を連射する。

 バスッバスッと肩や胴に命中、だがヤツは怯まずに突っ込んできた。


 咄嗟に避けたが、長い手は彼ではなく、弓を引っ掴んでいった。

 そのまま上空に垂直に昇ると、バキバキと破壊して上空に散らばらせる。

「クッソォッ! 俺の弓がっ!」


「こっちだっ コウモリ野郎っ!」

 ドカドカ走り込んできた巨人族系の警吏が、地面から引き抜いた鉄製のポールを振り上げていた。

 それを剛腕で、空飛ぶ怪物に撃ち込むように投げつける。


『ガアッ!!』

 ランスのようなポールの根元がガーゴイルの右羽に突き刺さった。

 そのせいで宙でバランスを崩したところに突き抜けた鉄の棒の先が、ガキガキと4本の爪となって十時に広がり、巨大な銛の返しとなった。

 

「捕まえたっ」

 鉄を操る巨人族の警吏が、変形させた鉄をググッと引き寄せる。

 そこに駆けつけたビレルも鎖を放った。

 ガーゴイルの首や胴にグルグルと、生き物のようにチェーンが巻き付いていく。


「ひけっ 引けっ!」

「引きずり落とせっ!」

 ガーゴイルに刺さった銛と、絡まった鎖を一斉に数人が下に引っ張った。

「よしっ やっちまえっ」


 魔力耐性のある魔物には、こうして相手に直接ではなく、武器に魔力を使う方が有効だ。

 ワイバーンなど飛翔系相手に主に使われるやり方で、地面に引きずり降ろしてしまえばこちらのものになることが少なくない。


 ガーゴイルが地面に叩きつけられる轟音に混じって、別の警吏の叫ぶ声がする。

「誰か、手伝ってくれっ。扉が引っかかって閉まらないっ!」


 ドロレスが番小屋から顔を出すと、大扉が斜めになったまま止まっていた。

 間に大木のような石の柱がつっか棒になっている。

 入り口まわりまでの地盤沈下により、崩れた床の瓦礫が余計に柱を動かしづらくしていた。


「マルクス、いい子だからここから動かないでね!」

 彼女は子供を番小屋に残すと、ドアを閉めて横の大扉に走った。


「柱のせいで扉が動かなくなっちまったっ。

 あんた、『土』は使えるか?」

 1人で柱の残骸をどかそうとしていたベーシスの警吏が訊いてきた。

 彼女が頷くと、柱の下の岩盤を転がりやすいように均すように言われた。


 ホール内の柱は、対魔法の魔法式と耐性を持つ物質で作られている。

 もちろん万が一に魔物に壊されないようにだが、まさか床から破壊されるとは想定されていなかった。

 

 おかげで1トン近くの岩柱に魔法は使えず、物理的な力しか通用しなくなってしまっていた。

 最悪の状況だった。


 土を操る能力より、身体的力の方が強く発現している彼女にとって、対魔法物質に接触している地面に、魔法を使うのは容易な事ではなかった。


 わたしも柱を押した方がいいかしら。

 そう思った時に、奥の方から微かに『ボオォォーーー……』という音が聞こえてきた。


「地笛? まだ人がいるんじゃ――」

 彼女が顔を上げると、確かにもう一度ハッキリと聞こえてきた。

 それは遥か奈落の底から響いてくる。

「やっぱり誰かいるわよっ」


「それがどうしたっ!?」

 警吏の男が柱を押す力を休めずに答える。

「こっちが先だっ!

 早くしないと、また別の奴が出て来るかもしれないんだぞっ」


 それからドロレスにもう一度顔を向けると

「家族が近くの町にいるんだ。おれは家族を守りたい」

 

 彼女はそれを聞いてハッとした思いだった。

 ウチの人も確か今日、ダンジョンに行くと言っていた。

 それはどこ?


 怒ってばかりで、ちゃんと話を聞いてあげなかった。

 あの人もこんな危険なとこにいるんじゃないの?

 急に後悔が募ってきた。 


「閉まらないのかぁっ!?」

 ガーゴイルを仕留め終わったらしく、他の警吏たちが集まってきた。

「そうだ、手伝ってくれっ!」

 

 柱石がズリズリと音を立ててどかさると、扉が再び動き出した。

 ホールは外界と分断された。



  **************



 アジーレダンジョンの変動の余波は、こちらマターファにも時間差で伝わってきた。

 ホールにはさすがに影響がなかったようだが、ダンジョン内全体を揺るがす大きな縦揺れが起こった。


「お、大きいっ?!」

 俺は2層の岩山の上で四つん這いになった。

 グラグラではなく、下からズンッズンッと突き上げてくる。

 ヨエルも少し腰を屈めながら、まわりを窺った。

 

 ちょうど昼メシ用の、虫肉野菜炒めを作っていたところだった。

 オケラならぬ『グリロー』のモツと、ヨエルがさっき採取していた植物の球根と草を、刻んで混ぜたものをヤギのバターで炒めていた。


「これは肉に合う香草なんだ。ただ肉だけ喰うより旨いぞ」

 その肉無し野菜だけ炒めにしてもらえないだろうか?

 フライパンの中でジュウジュウと湯気をたてながら、青白かった肉が熱を帯びてピンク色に変っていく。

 横に鉄串に刺して炙っていた脚なども、カニのように朱色に変色し始めていた。

 

 クソッ、いっちょまえにイイ匂いさせやがって。

 ニンニクに似た香草のせいか、はたまたヨエルが使った、何にでも合う万能調味料『マジックスパイス』のせいか、香ばしく肉の焼ける旨そうな臭いが漂ってくる。 

 

 もう少しで出来上がるというところで、急に下から揺れがやって来たのだった。


「な、な、んとか、しろっ、よ」

 俺は自分だけ揺れないでいる奴に怒鳴った。絶対に自分のまわりだけ押さえ込んでやがる。

「蒼也、こういう時に喋ると舌を噛むぞ」

 雑に胡坐を組みながら、のんびりしてるとこがまたムカつく。

「しなくてもすぐ収まる」


 確かに始めの5秒くらいが大きかったが、その後徐々に小さくなり、ものの15秒ほどで揺れは収まっていった。


「かなり広範囲だったな。ほぼこの辺り一帯が揺れたみたいだ」

 そういう師匠は俺ではなく、手にしたフライパンの中身がこぼれないよう気をつけていた。

 もう俺よりも食料なんですね、師匠。


「んー、ちょっと塩味が足りないな」

 奴がカニの足のようなモノを、甲殻ごとバキバキいわせながら軽くぼやく。

 当たり前かもしれないが、奴はまったく今の揺れに興味を持っていない。


「ここらの魔物たちは、この大蠕動を予感してたのかもしれないなあ」

 師匠も過ぎてしまえばあまり気にしないらしく、普通に奴に塩の缶を渡していた。


 こっちの人って、こういうのにビビらないのか?

 地震国に住んでいる俺でも、今のはちょっと怖かったんだけど。

 実はこれぐらいの大きさの蠕動はたまにあるらしく、ダンジョンにある程度慣れた者にはそれほど珍しい事ではなかったらしい。

 逆に言うと、ダンジョンでは地震がよく起こるという事だ。


「うん、こっちもイイ感じだと思う。どう?」

 と、味見をした師匠が、俺の方にフライパンを向けて意見を求めてきた。


「……塩加減もいいと思います」

 俺は肉を避けて草だけを摘まんでみた。

 ちょっとパクチーに似たクセがあるが、普通に油脂で熱を通した野菜炒めの味がした。

 細かいのはもうしょうがないから、なるべく青緑の草と茶色い球根の刻みを自分の皿に取り分ける。


「そっか、良かった。ならちゃんと食べれるな」

 そう言って俺の皿にあらためて肉をたっぷり載せてきた。

 だからぁ~~っ 味の問題じゃないんだよぉ。


 当時の俺たちは、まだ何が起こっているのかなど考えてもいなかった。

 もちろんアジーレダンジョンで、そんな大災難が起こっているなど知る由もなかったし、慎重で危険には敏感なヨエルでさえ、まだこの異変には気がついていなかった。


 おそらく始めの予知とは別のダンジョン(場所)にいるために緊張がほぐれた事と、自由人になった解放感が彼の危機意識を少し弛緩させていたのかもしれない。


 そうでなくてもこれから起こる災厄は、色々な要素が集まり、細かく執拗に絡み合って起こったものだった。

 情報が足りなければ、プロでも予測は不可能だろう。


 そう、これは自然のせいではなく、それを招いた決定的な要因は ―― 『人災』と言うべく災禍だったのだから。

 


  **************



 コンコンと軽くドアがノックされて、中年男が入ってきた。


「ん、なんか連絡でもあったかい?」

 治療師が盤から顔を上げた。

「うんや、そんなんじゃなくてさ、あっち、管理室を追い出されたもんでさ」

 係の男が薄くなった頭を掻いた。


「え、追い出された?」

 治療師に向かい合って座っていたギュンターも訊き返した。


 ここはマターファダンジョンのホールにある治療室。

 手持ち無沙汰のギュンターは、治療師とチェスに似たボードゲームをしているところだった。

 そこにやってきた男は、隣の管理室に待機していた係だった。


「今さ、ファクシミリーに伝書が来たんだよ。

 そしたら隊長さんが読んだ途端に青い顔してさ。

 急に『作戦会議するから出てけ』って言われて」

 ドアがしっかり閉まった事を確認してから係が話しだした。

 これでホールに声は漏れないはずだ。


 ホールにはいま兵士しかいない。

 この男を除いた係の者は、みんな各層に手配され、店をまわしていた従業員たちも他の客同様、ダンジョンに追いやられていた。

 そうして何人かの兵士が、管理室に集まっていた。


「相変わらず横暴な奴らだな」

 ギュンターが空いている椅子をすすめる。

「だけどお前さんは、連絡が来た時のために待機してもらわんといかんのに。

 こちら(管理)や警吏さんへの連絡が来た時に、ちゃんと教えてくれるんだろなあ?

 ファクシミリーはあっちにしかないんだぞ」

 初老の治療師が眉をひそめた。


「うん、だと思うよ。

 ただ、悪いけど追い出されて良かったよ。

 あんなピリピリしてる奴らの中ぁ、一緒にいたくねぇからさ」

 兵士たちから解放されて、係の男は出された茶をのんびりすすった。


 だが本当は、送られてきたその伝書は兵士たち宛てのモノではなかった。


 一番上に『緊急』と大きく書かれた伝書がファクシミリーから出てきた時、近くにいた兵士が係より先に取り上げていた。

 その文字に自分たち宛てでなくとも、まず上官に見せるべきと感じたからだ。


 連絡文書を読んだ兵士長ブルーノ・ヘルマンは、しばし顔を硬直させた。

 それは以下のような内容だった。


『 12時近く 『アジーレ・ダンジョン』にて変事あり。

  大蠕動ならぬ超蠕動ともいえる未曾有の波動にて、内部1層のみならずホール全体が落盤する。

  また奥よりガーゴイルらしき魔物出現するなり。

  この稀に見るエネルギーにて、同じ株たるそちら『マターファ』にも影響及ぶ恐れあり。

  注意されたし。

 

  以上 火急にて連絡。 詳細は後ほど。

             ダンジョン管理組合  』


「何という事だ……」

 兵士長のヘルマンは歯噛みした。

 

 こんな時によりによって近くのダンジョンでこんな大災害が起こるとは。

 ガーゴイルのような魔物が出たのであれば、まず軍が動かされるのは間違いないだろう。

 今頃ギルドは元より王の軍隊も出動しているはずだ。

 何しろそこは王都より30キロ程しか離れていないダンジョンなのだから。

 

 王都直属でなくとも、軍役としてこちらに使役しに来ているのだから、当然ヘルマン達もそちらに出張らなくてはならない。 

『サーシャ一味捕縛』という大事な任務が、この災禍の前に消し飛んでしまう。

 当たり前だが、王都の危機と捕縛では、天秤にかけようがない。


 だが、やっと奴らを捕らえられるこのチャンスを逃したら、もう次はないかもしれないと、託言は告げていなかったか?

 ここで奴らを逃がしたら、それこそ主に顔向けが出来なくなる。


 しかしさすがに王には逆らえない。

 遅かれ早かれ、こちらに向かっているはずの援軍も、そちらの緊急配備にまわされるだろう。


 この事態を知ってしまった以上、行かなければならない。

 知っているならば――


「おい、これはさっきの男には見せてないな?」

 ヘルマンは自分のそばで畏まり、次の指示を待つ兵士に声をかけた。

「はっ、奴が見る前に取りましたので」

「よし、それでいい!」


 手にしていた伝書が、ボウッと燃え上がると僅かな炭が床に落ちた。

 それをヘルマンは靴底ですり潰した。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 良くも悪くも警吏は『個人主義』

 軍は『主従主義』というところでしょうか。

 ここの軍は親衛隊ですので、特に主従関係を重んじます。


 これからマターファの方に、この余波のせいで波乱が生じてきます。

 

 やっぱり年内にダンジョン編終わらなかった……(;´Д`A ```

 でも、ここまで来れたのも皆さま方のおかげ様です。

 どうも有難うございました。

 出来れば来年も宜しくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る