転生賢者の大陸英雄譚

ヤス

エピローグ

第0話 エピローグ


アストラ暦848年

アストラ大陸の魔王城にて。


「人の子よ…何故勝てぬと知り

 それでも我らに抗う?」


3メートルはあるだろう、黒い岩のような身体を持つ怪物は退屈そうに詰問してくる。


「魔王ゴルドバ…貴様は…私が殺すッ!!」


槍と杖を合わせたような武器を手にする青年は、

魔王ゴルドバを睨みつける。

武器を握る手は力のあまり血が流れていた。


「待てっ!ルタ!」


そう言ってもう一人の青年がルタと呼ばれる青年を静止する。


「タカヒロ…止めないでくれッ!」


「ルタッ!!!」


「ゴルドバァァアア!!」


ルタは瞬時にゴルドバのもとへと駆け槍を構え、杖部分に手を翳す。


「無と帰せー雷鳴葬ッ!!!」


ルタの放った一撃は空を切った。

それは一瞬だった、ルタの上空に鈍く光る刃が迫っていた。

次の瞬間、衝撃音と共にルタの目の前に影ができる。


「気持ちはわかる、だが早まってくれるな。」


そう言って大盾を構える筋骨節々の男がルタを諭すように言う。


「ほう…?

 我が一撃を受け止めるとはやるではないか。」


「…闇祓う炎の厄災をー業火の厄災ファイアディザスター!!」


後方の女性が魔王に目掛けて魔法を放っていた。

その炎は全てを焼き尽くすが如く眩い光を放ち魔王へと一直線に向かう。


「小賢しい…フンッ!」


魔王は業火を手で受け止める、徐々に黒く大きな掌へと光が収束して行く。

青い血が手から大量に流れる、その様子に魔王は激昂する。


「貴様…人の分際で我を愚弄するかッ!」


「我、聖女が願う。

 傷纏いし戦士達に慈悲の雨を…憩の空間レストフィールド!」


もう一人の女性が隙を見て魔法を展開する、部屋一面を覆う様に白い魔法陣が展開される。


魔王はその魔法を気にも止めず瞬時に火炎を放った女性の背後に周る。


「ッチ…!」


女性がそれに気づきその場を離れる様に跳ぶ。

しかし、魔王はそれを上回る速度で大剣を振り切った。


「「アリナァァアアッ!!」」


大盾を持つ男と魔法を展開した女性がそう叫ぶが、もう既に彼女の身体は真ん中から二つに両断されていた。


辛うじて意識が残っている彼女が魔王へと手を翳す。


「く…くたばれ…糞野郎…火柱ファイアピラー…」


魔王を包む様に大きな火炎の柱が燃え上がる。


「小癪な…」


魔王は炎に包まれながら、足で女性を踏み潰す。

それと同時に燃え上がっていた炎が収まる。


「ゴルドバッ!!」


剣を持つ青年タカヒロが魔王を睨みつける……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれからどれだけの時間が経っただろうか。


「人間の…人間の分際で…我を…」


魔王は四肢を無くし壁に打ち付けられていた。

既にこの場でタカヒロとルタ以外誰も立っていなかった。


「もう終わりだッ!ゴルドバッ!!」


そう言ってタカヒロが魔王にとどめを刺す。


「グフゥッ…ワレハ…マ…ダ…」


魔王は眩い光に包まれ、跡形もなく消えた。

幾重もの光の粒が上空へと消えて行く。


「ケンジも死んだ…アリナもカエデも死んだ…

 ルタ…俺はこれからどうすれば良いかな…?」


タカヒロは、虚な目でルタにそう問いかける。


「断ち切ろう、この悲しみの連鎖を…」


そうして、タカヒロとルタは3人の亡骸に手を合わせ、この場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



時はアストラ暦812年

この大陸の半分を人間族が。

この大陸の半分を魔族が統治していた。


ー魔族ー


それは、魔を従える力を持った種族。


ー魔族ー


それは、産まれながらにして優れた能力を持った種族。


ー魔族ー


それは、この大陸の半分を支配する種族。


魔族と人間族はお互いを干渉せず、別々の暮らしをしていた。


アストラ暦824年

大陸の空一面に暗雲が立ち込める。

全ての大陸の生物はソレを見ただろう。

魔族領へと落ちる大きな柴色の雷撃を。


アストラ暦825年


魔族が魔物を従え侵攻を開始。

突如、起こった戦火に為す術もなく人間族は

殺されていった。


アストラ暦836年

この大陸の7割を魔族が統治していた。


力を失った人間族は魔物に怯え、魔物を使役する魔族に怯え暮らしていた。


時が過ぎる事に、人間族は減っていき。

力ある者も歴戦の末、戦火に散っていく。


ある村の少年、ルタはいつものように家に帰る。

ルタが家に辿り着くとそこには誰も居なかった。


ルタは不思議に思い、村の人間に両親の居場所を

尋ねた。

そして、連れられた場所には両親だった者が寝て居た。

一度、槍を手にすれば叶う者はいないと言われた

自慢の父親には腕も足も無かった。

雷の加護と呼ばれる特殊な魔法を扱えた、いつも優しい母には身体の半分が無かった。


ルタは全てを悟り、そして泣いた。

永遠にも感じれる時間泣いた、涙が枯れても泣いた。


その涙は復讐の炎となり、ルタを包み込む。

その時ルタに天命が如く一つの魔法式が頭に浮かんだ。


アストラ暦872年


この大陸の8割を人間族が統治している。


ルタと勇者タカヒロは多くの魔族を殺し、大陸中を駆け回った。


それはいつしか伝説となり語り継がれて行く。


ルタは国を作り王となり、タカヒロは悲しみを断ち切る為に魔族を殺し続けた。


アストラ暦881


ついに、大陸は平和となった。

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