ひさしぶり、と彼女が言った

nekojy

第1話 もう、夏服は着ない

 ひさしぶり、と彼女は言った。


 あなた、誰?

 あたし?あたし、アキ。ノギヘンに火って書く、秋。一年ぶりね……


 *  *  *


 ねぇ、もうすぐ夏が終わっちゃうんだよ。2020年の夏はもう、二度と、来ないの……


 そんな当たり前なことに気付き、アタシは少しオロオロしていた。

 そんなときは決まって、なにかがアタシに追い打ちをかける。突然、雨が降ってきた。急いで家に帰る。


 その途中、軒下の隙間のようなところで、抱き合っている男女がいた。

 ほんの一瞬、ガン見する。だって、口づけしていたから……

「一生、そうやってろ。このリア充め」

 アタシは嫉妬混じりに、乱暴な祝福を投げかけた。


 あ〜ぁ、服がビチョビチョだ……

 濡れた服にピッタリ抱擁されている。首すじを髪に舐め回されていた。

「早くシャワー浴びよう」

 そう考えながら、素っ裸のアタシが乾いたタオルケットに抱かれている姿を想像する。


 アタシは胸の前で両手をクロスさせ、掌で肩の先端を掴む。そうしてギュッと、自分の心を抱きしめていた。


「夏、本当にこれで終わっちゃうのかな……」

 そんなことを考えながら。


ー終ー

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