イデアっぽいナニカが視えた話
黒イ卵
第1話・完
「私、脳をやっちゃいました?」
最新の技術の進歩は目覚ましく、今や
「なにこの、説明的な回想」
『イデア都合である。』
「聞いてたのと違うけど」
『君のイデアだからね。』
「ものごとの真の姿じゃないの?」
『
「うーん、ヤバイこれ、完全に独り言ヤバイ人だよね?」
『
「副作用なら治るかなぁ」
『脳機能のバグが発生したようなもんだからなぁ。』
「口調が私っぽくなってきた」
『君のイデアだからね。2回目だね。』
「はあ〜。今ごろ、飛んだ異世界のナーロッパで知識チートで無双して、俺TUEEE!だったのに」
『本来、見えないものが見えてるという意味では、チートではなかろうか?』
「いや、なんかこう、イデアってさぁ、こう、さぁ……」
『うんうん、わかる。もっとすごい感じのね?』
「完全にくだけた。なにこれ、仕組みどうなってるの?」
『そこはほら、並列思考でも、上位存在の寄生でも、精霊が宿った、でもお好きに。』
「寄生イデアとか、ヤなんだけど」
『わかるわかる〜♫』
フレンドリイなイデアっちとは、すっかり打ち解けて、しばらくの間、生活をどうするか話し合った。
イデアっちとの会話は独り言にしか見えないため、普段は脳内の領域に眠り、私が家にいる時は、水晶玉に映した自分と会話するということになった。
鏡は
一人暮らしだから、とりあえずは問題ないはず。
これって、すっかり打ち解けたのも、寄生による効果なのかな。なんてね、こわい。
そんなこんなで一ヶ月ほど過ごしたある日。
私は惰性で慣れ切った生活に油断して、イデアっちとの会話ーーつまり独り言をーー聞かれてしまった。
トイレで。
「最近の異世界じゃ、お尻にダイナマイトを入れるのが流行ってるらしいよ、イデッち」
「イデアっちを略すな」
私の声と、私の声帯を使っているが、私の声ではない、もう一人の声。
そんなのが誰もいないはずのトイレから聞こえたら、疑問に思うよね。最初は、レトロ趣味で流行った腹話術の練習ということにして、誤魔化しが効いた。
私は手に嵌めるタイプの人形を買って、水晶玉と一緒に、持ち歩くことにした。
だんだんとトイレ以外の、誰もいない講堂や、サークル棟でもやり始めたから、目立ってたみたい。
「き、君もアイディが視えるんだね?
僕と付き合ってください!」
突然、モサっとした髪と服の、眼鏡をかけて、手にホログラム装置を持った男性に声をかけられたのは、学内の芝生で、イデっち人形と、漫才の掛け合いを極めようと、ツッコミの間をコンマ数秒ごとに変えていた時のことだった。
彼の名前はオカダくん。
彼もまた、イデアっちが視える側の人間だ。
「アイディが視えてから、僕はホログラムにアイディを投影したんだよ。仮想趣味ってやつかな、はは……」
ホログラムには、虹色の光をした女の子が、くるくると回っている。
『コンニチハ。ワタシ I.D.。アイディ ト
ヨンデネ。』
オカダくんから、機械音声風にした、幼い女の子を模した声がする。
「オカダくんのイデアなの?」
「う、うん、多分、そう。僕はアイディって呼んでる」
オカダくんの目は、前髪で隠れてるし、眼鏡で隠れてるし、何よりこちらと視線を合わせないから、ちょっとだけイラッとする。
「あのさ、僕と付き合って、て言ったんだからさ。目ぐらい合わせてよ」
「あっ、あっ、ごめん! これでいいかな?」
そう言って、眼鏡外して、前髪をヘアピンで留めた。両目。開いて。
まつげがバサァッて長くてカールして、薄い翠の眼が、猫みたい。きれい。
「目、大きいね……」
『ふむ、新人類か。』
「あっ、アッ! そうです、だからっ、タナカさんもそうかと思って」
『アイディモ オモッタ。』
さっきまでのモッサリしたオカダくんはどこに行ったんだろう。きれいな目をした新人類ってやつで、私の声を使ったイデっちと、オカダくんの声を使ったホログラム・アイディで、すっかり会話が盛り上がってる。
「の、ノド、渇いたっ、水っ」
「あっ、僕、麦茶、持ってます!」
ぷはぁ、と息をついて、喉をうるおす。こんなにたくさん話すのは、実家にいた時以来。
「ねぇ、オカダくん。次の講義、対面?」
「僕は対面終わったから、あと適当にオンライン」
「じゃあさ、一緒に、異世界行かない? イデアで無双しよ?」
イデア仲間がいるとわかって、私は少し気がラクになる。
「よかった、私、廃人になったかと、思ってたんだよね」
「僕も、最初は。そのうち、タナカさんも、目が光るよ」
だんだん、仲間が増えてくる。
新しい人類ってヤツになったら、みんな鏡を嫌うだろうか。
「タナカでいいよ。私も、オカっちって呼ぶよ」
きらりとオカっちの目が光って、嫌いじゃないなって、そう思った。
イデアっぽいナニカが視えた話 黒イ卵 @kuroitamago
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