週末の金曜日
立樹
第1話
今日は週末。
楽しいはずの金曜日。
なのに残業、残業……。
早く帰りたくても、やってもやっても終わらない仕事の量。
資料を作るにも時間が必要だ。
プレゼンをするとなると、チームを組んでそれにあたることも多いが、それとは別に企画案から資料作成に至るまで自分でこなさなければいけないものもある。それも必業績イコール給料のためだ。
そう、実績が重視されるこの会社は、成績で給料が変動する。
上層部は、お互いに切磋琢磨し、技術向上とやる気を上げるためにやっているかも知れないが、実際底辺にいる俺なんかからすると、すごいプレッシャー……。
企画だって、すべてが通るわけじゃない。落ちると分かっていても、やるっきゃないときだってある。中途半端な企画なんて通るわけもなく、毎回全力投球だ。
それが報われれば、やる気も出るというものだが、俺よりもすごい奴はたくさんいる。やっても報われない時は、週末はやけ酒を煽るのが常になっていた。
同じ職場に、同期の青木がいる。
こいつとは最初から馬が合って、飲みたい気分の時は誘って飲みに行くことが多い。
今日は、梅雨に入ったばかりで、猛烈な湿気と熱気に仕事前から疲れていた。
その纏わりつくような空気に体が重い。
パソコンを前に唸りながら作業をしていると、後ろから声がした。
「佐藤、また残業?」
さわやかなテノールの声。
その人物をふり返ると、コーヒーが入ったカップを片手に持った青木彰吾が立っていた。
青木は、営業職ということもあり、スーツだ。
髪の毛も不快にならないように、いつも少し長めの髪を整えている。
目元も優しく、見ていると気持ちが和らぐ。
そんな彼を女性たちが放っておくはずもなく、いつも、何かきっかけを作っては青木にアプローチをかけている女性をよく見かける。
そんなイケメンの部類に入る青木からの差し入れ。
すでに時刻は夕刻の8時をまわっている。
社内にいる人はまばらで、空席が目立つ。
「ほら」
と、青木から差し出されたコーヒーを有難く受け取る。ひんやりとしていて気持ちいい。
「いつも悪いな」
「いいよ。で、今日は金曜日だけど、飲みに行ける?」
「ああ、あと少ししたらこの資料ができるから、それからでもいいか? 駄目だったら先にでてもいいぜ?」
「いやいいよ。こっちもまだやることはあるから、終わったら声をかけて」
目元を和らげ言う青木は、男の俺から見てもいい男だと思う。
それに、なぜ、彼女を作らないのか不思議に思うこともあるが、今はこの金曜日に飲みに行くという関係を崩したくなくて、聞けないでいた。
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