初恋リベンジ〜ハイスペック陽キャになって青春を謳歌するはずが別れた幼馴染と再会した〜

午前の緑茶

第一章

第1話 出会いは別れの始まりである

 むかし、むかし……といっても今から十数年ほど前の頃、2人の幼い子供が出会いました。運命を感じた2人は幼馴染として共に成長し、付き合い始め、そして…………。


♦︎♦︎♦︎


 今思い出すと真っ黒とも呼べる黒歴史であるが、俺は中学2年から3年の夏にかけて幼馴染、姫乃澪と付き合っていた。


 澪との初めての出会いは4歳の時だった。向かいの家に引っ越してきた澪の母親が挨拶に来た時、母親の後ろに隠れている澪を見つけた。


 漫画などでよく見かけるシチュエーションであるが、ここまで聞けばもうお分かりだろう。


 ひょこっと足の横から顔を見せた澪と目が合ったその時、俺は恋に落ちたのだ。もう、一目惚れだった。

 あいつは4歳にして人生で一度きりの俺の初恋を一瞬で奪い去った。


 くりくりとした愛らしい瞳。甘くとろけそうな柔らかい唇。整った鼻。さらさらとまるで絹のように滑らかに煌めく黒髪。4歳の時すでに澪の美貌の片鱗は見えていた。

 そんな可憐な女の子を目の当たりにして落ちないはずがない。単純な俺は一目惚れしてしまった。


 そんな一目惚れをした澪に片思いし続けて10年。近所ということで家族以外で話す回数は第一位。自然と距離は近づいていく。仲良くならないはずがない。

 どんな時でも一緒だった。澪を知れば知るほど、どんどん惹かれていく。留まること知らず、どこまでも俺の恋心は大きくなっていった。


 そして思春期に突入し、異性というものを意識し始めた中2の秋、抱え募った想いを告白して見事成功した。


 いや。成功……なのかは今思えば甚だ疑問ではあるが、当時の俺は告白は成功したと思っていた。

 

 ここから浮かれて幸せな絶頂期に突入する。当然といえば当然と言える。10年もの片思いが実ったのだから喜ぶのは無理もない話だ。

 しかも人生で初の彼女で、それも幼い頃から好きだったりした幼馴染みだ。誰が当時の自分を責められるだろう。


 さて。出会いがあれば別れがあると言うように、ここから澪との別れのカウントダウンが始まる。中学生の恋愛なんて所詮続かないことがほとんどであるが、愚かなことにも俺はずっと続くと思っていたのだ。


 澪が学校では目立つタイプだったことで、付き合い始めたことは一瞬で広まった。ただ、付き合ったからといってそう簡単にこれまでの関係というものが変わるわけではない。相変わらず親しい友人といった感じがほとんどだった。

 元々近い関係だったから、一緒にいる時間も一緒に遊ぶ頻度もそこまで変わらなかったのは仕方ない。


 ああ、親しい友人として、と言ったがもちろんだからといって恋人らしいことをしなかったわけではない。

 当然、俗に言ういちゃつきというものは何度もした。まったく思い出したくもないが。


 初めての彼女ということで不慣れで不器用だったためそのスピードは遅々としたものだったけれど、デートに行き、手を繋ぎ、下手っくそなキスをして――という、取り立てて特筆すべきところのない、そこら辺にいるカップルのようなイベントを、順番にこなしていった。

 

 だが、俺はこの時に気付くべきだったのだ。彼女の対応がおかしいことを。残念ながら恋に盲目となっていた俺はそんなことに違和感を感じながらも、特に気にすることなく、のうのうと一年もの間彼女と付き合い続けた。

 まったく、とんだお花畑の頭だ。反吐が出る。


 その違和感というのは彼女から積極的なアプローチが一切なかったことである。


 もちろん、中学生の不慣れな女子なのだから仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。

 だが、それにしても何も彼女からアクションを起こすことがなかった。


 例えば、


「来週の土曜日暇か?」


「ええ、まあ」


「来週の土曜日一緒に遊ばないか」


「……別にいいけど」


 このようにデートに誘うのはいつも自分。明らかに話し方の感じから澪が乗り気でないことは分かるが、当時の俺は一緒に遊べることに浮かれてそんなことには気づかない始末。全く救いようがない。

 他にも、手を繋ごうと提案するのも、三ヶ月記念をお祝いしようと言うのもすべて自分からだった。


 様々なことで彼女は「仕方ないわね」とそう言って自分に付き従っているだけだった。


 ここまで聞けばもうお分かりだろう。彼女は自分のことを好きではなかったのだ。もしかしたら、人としては好きだとは思っていたのかもしれないが、少なくとも異性としては好きだと思っていなかったに違いない。おおよそ人間関係が壊れるのを嫌って俺の告白を了承したのだろう。

 それが結果として彼女の受け身思考を生み出していたのだ。そう考えれば辻褄が綺麗に合う。


 そんな彼女のことに気づいたのは残念ながら付き合ってから一年過ぎた3年の夏休み前の時だった。


 本当に手遅れとしか言いようがない。貴重な中学の1年間をあいつに捧げたなんて馬鹿馬鹿しい。

 気付くならもっと早く気付くべきだった。そしたら……傷はもっと小さく済んだはずだ。


————夏休み前、忌々しい最悪の出来事が訪れる。

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