ナイト・オブ・ナイト

@tabizo

Knight of Night

Knightナイト ofオブ Nightナイト・・・夜の騎士か」

そう独り言のように呟いてきし 直人なおとは出かける準備を始めた。

つけっぱなしのテレビからはニュースが流れてる。

“本日も新型コロナ感染者は100人を超えました。そのうち重症患者は・・・”

“昨日、コンビニで女性が刺された事件の犯人が捕まりました。容疑者はコロナでむしゃくしゃしてた、誰でも良かったと供述しているようです。さらに・・・”

“今入りましたニュースです、無断で民家に侵入した男が、それを目撃した近所の住民に取り押さえられたとのことです、動機はコロナで会社を解雇され、生活に困っての犯行のようです。なお・・・”

今日もまたコロナ関係のニュースが立て続けに報道されている。

彼はテレビを切るとバイクのキーを掴んで部屋を出た。

外はすっかり暗くなっており、空には夏の星座がまたたいていた。


駅の近く、街灯が薄暗く照らす路地で老人が2人組の若い男に持ち物をひったくられようとしていた。そこにバイクに乗った男が現れ、あっという間に二人の男を組み伏せ、警察に引き渡した後、名前も告げずに走り去った。

それから少しして、居酒屋を出たところで「全てコロナのせいだ」と叫びながら酔っ払いが暴れるという騒ぎが起きた。

またまたバイク乗った男が現れ、その場を収めて去って行った。

このところ、何か揉め事や事件が起きた時にバイクに乗った男が現れ、解決して去って行くという事象が数多く目撃されていた。

男は決して名前を名乗らず颯爽と去っていくため、ネットでは謎の正義の味方の存在が話題になり、拡散していった。

助けられた人の証言で、外見から男性のようだと言われていたが、中には男装した女性だという噂もあり謎のヒーロー探しは盛り上がるばかり。目撃されるのは夜が多く、それが余計にミステリアスなイメージを作り上げていた。銀色のカスタマイズされた大型バイクを駆って現場に現れ去って行くので白馬に乗った騎士ナイトのようだとい人もいた。


しばらく市街地を走って、あるマンションの前ではバイクを止め、エレベーターのボタンの7階を押した。

ある部屋の前で立ち止まり、表札をみる。

表札には名前がなく【7110】と数字が書いているだけ。

(ナ・イ・トオ・・・ナイトか、アイツらしい)

彼は鼻で笑って、チャイムを押した。

ドアが開き、出迎えたのは眼鏡を掛けて小太りで冴えない風体の男性。

「おう、入ってくれ」

「よう、名人。相変わらずだな」

彼はそう言って慣れた感じで部屋に入っていく。

「岸、よく来てくれたな。なんか急にお前と指したくなってな」

「いいってことよ。プロの棋士と対局出来るチャンスなんてなかなかないしな」

「もう何年になるかなぁ、あの頃は冗談交じりに言ってたことが現実になった」

彼は壁に貼ってあるポスターを見て頷きながら言った。

「確かにな。大学の将棋研究会サークルの双璧と呼ばれた2人がテレビで対局するんだからな。ホントおまえらは凄いよ。なあ、寄野よるの名人」

ポスターは将棋の名人戦のもので、寄野民雄よるの たみお名人VS真野英雄まの ひでお八段と書かれていて、日付は明後日のものになっていた。

「頭はいいが地味で引っ込み思案だった寄野おまえが今や人気棋士だもんな。ナイト・オブ・ナイトだったっけ?」

目の前にいる小太りのプロ棋士は照れたように頭を掻きながら答える。

「あれは俺がだから、将棋ファンの奴らが面白がって夜の騎士ナイト・オブ・ナイトと呼びだしたんだよ」

2人は顔を見合わせて苦笑いした。

「そうだ岸、おまえは英雄とはたまに会ってるんだろ?あいつは元気にしてたか?」

「ああ、元気にしてたよ。相変わらずバイク好きで俺が行った時も見たことのないでっかい銀色のバイクをいじってたよ」

「そうか、対局が楽しみだ。あ、ところでバイク原チャリどこめた?」

「ゴミステーションの横んとこ。空いてたからな」

「そこだったらいい、前におまえが駐車禁止の場所に置いていたから、後から管理人さんにチクチク嫌味言われたんだよ」

「それは悪かったな。さぁてプロ棋士のお手並み拝見といきますか」

対局はすぐに勝敗がついたが、もう1局、また1局と語り合いながらの対局は朝まで続いた。

「なあ岸、もしおまえが棋士になっていたら・・・」

「ん?なっていたら何だ?」

「棋士の岸=(たくさんの)きしの中のきし、つまり騎士のなかの騎士ナイト・オブ・ナイトと呼ばれてるかもな」








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