VR「殴り愛」〜拳で語り合おう〜
金魚屋萌萌(紫音 萌)
序章 殴り『愛』
1話 拳であそぼ
「ねえ、『殴り愛』してみない?」放課後、私の机に両手をついて幼なじみのリコはそう提案してくる。
「え、殴り合い? いいよ」私、スイは突拍子もない提案に少し戸惑いながら椅子から立ち上がる。拳を前に構えファイティングポーズをとる。
「おら、かかってこい」
「違う違う! 殴り合いじゃなくて殴り『愛』! あいが愛してるの愛なの」
「殴り愛? なにそれ?」
「とりあえず拳おろしてもろて。リアルに殴り合う訳じゃないから。ほら、『VRドーム』の新作だよ」そう言いながら私の両の拳を手の平で包む。
「ああ、そういう事ね。二人きりの時だけじゃなくみんなが見てる場でもそういう事したいのかと……」
「いや二人きりでもしてないからね? 誤解を招く言い方やめて?」
『VRドーム』とは、名前からもわかるとおり、今流行のヴァーチャル・リアリティを楽しめる施設だ。日本で最大級とのふれこみで半年程前にオープンした。
「簡単に言うとね、VRの中で実際に殴り合って友好を深めるって内容なんだって」リコはスマホの案内を見ながら言う。
「え、面白そう! でもなんか人気はでなさそう」
「そうなんだよ。新作なんだけどスイの言うとおり人気がなくて待ち時間が一〇分とからしくて」
普通、新作は一時間二時間待つのが当たり前だった。私もリコも待つのが苦手なので遊ぶ時は旧作をメインに遊んでいた。
「早っ。とりまいってみるか」思い立ったら吉日、私の今日の矜持だ。今決めた。
「あ。でも部活あるよね」
「いいよさぼるから。大会も終わったばかりだし。青春はやりたいことやってなんぼでしょ」
「たしかに?」リコは少し首を傾げながら同意する。
「ほらいこ。はやくはやく」私は片手に通学バックを掴み、もう片方の手でリコの手を握り教室を出ようとする。
「まってまって。私まだバック持ってないって」リコはあわてて私を引き留める。
「はよはよはよ」リコをリコの机に引っ張っていく。
「痛いって! もー」リコは少しむくれながらバックをとる。
「ごめん……」手を離し、ちょっと急ぎすぎたな、と反省する。
「まいいんだけど。はやる気持ちはわかるからさ」そういいつつリコは私の手を再度握る。
そうして、私たちは教室を出た。
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