第125話 ゴーレム作製
さて、『構築』についてを師匠に聞きに行って教えてもらった同時にクエストを受け、そのクエストを遂行するついでに色々な本を貰ったわけだが。
一気に課題が増えた気分だ。だが悪い気はしない。とても面白そうだ。
錬金ラボまで戻り、手に入れた本を読んでみようと思ったのだが、読むのにも条件があるらしい。
唯一読めた物が、ゴーレム研究書などのゴーレムに関連する物だ。
逆に、それ以外の気になっていた本、例えば錬金魔術とやらについてや、生命創造研究書などは読めなかった。引っかかった条件はINT不足やアビリティが未習得だから、とか。
余っていたステータスポイントを割り振っても条件を満たす数値には届かなかったので、後回しにするしかないようだ。読まないんじゃなくて読めないのは想定していなかった。
読めない本は仕方ないので大事に保管しておき、ゴーレム研究書を読み漁る。
この本はかなり前に貰った指南書や教科書のような、人に読ませるのを前提に書かれている物ではなく、師匠が自分の研究成果をメモしたりまとめるために書いた物だ。
指南書や教科書に比べると分かりにくいが、それでも研究の過程やどういった実験をしたかなども知れて面白い。
読み進めていくと、ゴーレムの作製には前提に『分解』や『構築』が必要になる場面がそれなりにあるという事が分かる。
特に『構築』はゴーレムを作製するにあたって欠かせない、基幹となるアビリティになる。
どうやらゴーレムの体を作る際に『構築』を使うようだ。別になくても作れなくはないが、造形や構造の作成や微調整などをするなら絶対に使った方が良いらしい。
《『錬金術』のアビリティ:『ゴーレム製作』を獲得しました》
「ふむふむ…」
一通り目を通し終え、要点をまとめる。
まずゴーレムについてだが、魔石をコアとした勝手に動ける人形みたいな認識だ。
ボディーの素材は何でもいいが、魔力伝導率という要素が高ければ高いほど高性能になる。それと同様に、コアとなる魔石も純度や内蔵魔力によって出力や活動時間も変化する。
勝手に動けると言っても大半は自己学習するAIのような物ではなく、決められた行動を繰り返す物だ。
その行動を決めるのは『ゴーレム製作』というアビリティを用いて行う。魔法陣なども描けばゴーレムが使えるようになるので、『魔術』にも対応しているっぽい。
『ゴーレム製作』は先程、読んでいる途中で手に入れた。ゴーレムについての見聞を広げたら手に入るのか、この研究書自体がアビリティを取得するアイテムとしての機能を持っているかのどっちかだ。取得した以上気にするものでもないし、どうでもいいけど。
ゴーレムは2つの状態に分かれる。1つは活性化状態、もう1つは休眠状態だ。両方とも名前通りの状態だ。
休眠状態ではゴーレムはHP回復を行う。回復は活性化状態でも一応できるが、休眠状態の方が効率がいい。
そして驚きなのが、ゴーレムのコアに使用した魔石は本来魔力を回復しないような純度でも回復能力を持つようになる。内蔵魔力の回復は休眠状態でのみ発現する。
そんな感じ。
魔力伝導率とやらについても気になったが、当たり前の事なのか一切記述が無かった。どういう物なのかは名前で大体予想はつくが、どの素材が伝導率が高いかが分からないのが辛いところだ。
研究書に記されている過程を辿り、同じものを作ってみよう。1回作れれば、ある程度は仕様を理解できるだろうし。
「作るかー」
魔石は大量にあるし、毒煙玉やポーション類を作製する時についでに凝縮していたので純度が高い物もある。コアで困ることはそうないだろう。
どちらかというと問題なのはボディーだ。魔力伝導率についての知識が皆無。今回は研究書に書かれているのと同じ鉄を使うが、魔力伝導率もそのうち調べるべきだ。
作るのはミニカーみたいな物。
コアは『ゴーレム製作』のアビリティを使用すれば入れる隙間が無くても組み込めるらしいので、先にボディーを作っても平気だ。
構築キットの黒い紙を取り出し、机に広げる。
ゴーレム研究書に記述があったが、構築キットの黒い紙はその上で他の構築キットを用いることで素材の変形を容易にできるらしい。
実際にやってみようと、鉄インゴットを紙の上に置くと真っ黒なウィンドウが出てくる。
既視感があるウィンドウ。金属を加工する時に見た、閃光玉や爆弾を起動させる際に使っている金属板に魔法陣を描いた時に出てきたのと同じだ。
なら使用方法も同じだろうと、鉄インゴットをウィンドウに押し込む。全て入り切ると同時に、黒い紙の上に鉄インゴットが出現した。
「なんか間違えたのかな…」
自動販売機で千円札を使おうとして端の方が折れていたら戻ってくるみたいな感じだろうか。
とりあえずインゴットが正常であるのを確認し、もう一度ウィンドウに突っ込んでみようとしたが入らない。
チュートリアルが存在しない事についてはあまり気にするべきではないと常々思っているのだが、それでも何も説明が無いのは本当にどうなんだろうか。
仕方なく『構築』に関する研究書を読み、仕様を調べる。
何ページか捲り、それらしき内容を見つけた。
どうやらウィンドウに入れた素材は黒い紙─正式名称をビルドマットというらしい─の上に現れ、その状態では素材を空中で固定したりできるようだ。ウィンドウに入れなくても素材の加工はできるとも書かれていた。
なら最初に薬草で試した時にウィンドウが出なかったのは何故だろうかと疑問に思ったが、それについても記載されていた。どうやら一定の物量か重量を満たさないと現れないようだ。薬草の後に木の板と金属板も試したが、薄かったから重量に満たなかったんだろうか。
「やっぱチュートリアルないの不具合の類なんじゃないの…?」
仕様を解明するとかいう意味不明な作業をユーザーにやらせるのは少しどうかと思う。
僕は師匠の研究書とかの本を持ってるからいいけど、本がなかったらと考えると……。
最近は初期より錬金術をやる人も増えてるって聞いたけど、どうしてるんだろう…と考えかけたところでやめた。
赤の他人の心配をしても意味がない、さっさと続きをやろう。
ビルドマットの上にある鉄インゴットを持ち上げて手を離すと、落ちることなく空中で止まっている。その空中の鉄インゴットに触れながら固定するように念じると、動かせなくなった。
なるほど、確かに空中で固定できているようだ。ならウィンドウに入れようとしても入らなかったのは既に効果があったからか。
構築キットの道具は見た目によらず、それぞれが各々役割を持っている。
釘とトンカチは物によって釘が変形してを繋げられたり貫通できるし、バーナーは溶接できる。カッターナイフは切断。
ニッパーは刺した釘を回収できるので、繋げた部分を繋げる前の状態に戻すのと、貫通した釘を回収すれば穴を開けれる。
鉛筆はどんな素材でも書き込める。カードケースは入れたカードを取り出すのが楽らしいが、それ以外はただのケースだ。
これらの道具は素材には関係しない。つまり、金属だろうと構築キットが使える場面であればカッターナイフで切断が可能だ。
「こうして…こう?」
鉄インゴットを切断していき、形を整える。
とりあえず中央部分を作り、前後を釘で貫通させてからニッパーで回収し、穴を開ける。
中央部分が完成したら、タイヤとなる部分を4つ、中央部の前後に開けた穴に通す棒を2本、それぞれ作っていく。
最後に棒を開けた穴に通し、棒の左右とタイヤをバーナーで溶接する。
「で、ここからか…」
ゴーレムのボディーは完成した。次はコアを入れ、行動を決めればいい。
『ゴーレム製作』を使用した直後、視界の彩度が低くなり、白と黒で構成されたグラデーションでしか色を認識できない、モノクロ写真のような視覚になった。
だが、異常な色覚の中で作ったボディーだけが通常の色を持っている。
「ゴーレムにできるって事なのかな…?」
急に視界が変わった事に驚きつつも、それよりも色が変わらないボディーへの好奇心が勝る。
魔石を取り出して作ったボディーへ近付けてみると、スゥッと吸い込まれるように入っていった。すると色覚が元に戻り、鉄インゴットを入れたのとは別のウィンドウが現れる。
ウィンドウには2つのタブがある。「学習」と「入力と出力」、だ。
最初に開かれているのは「学習」の画面。このタブではゴーレムにスキルの取得をさせたり、経験値を与えて強化ができるようだ。その他にもAIみたいな自己学習機能を付けるのも可能だが、それには別途経験値が必要らしい。
「入力と出力」のタブへ移動すると、入力方法と出力結果を設定できる。研究書の内容と同じように、入力方法に「手を叩く音」に、出力結果を「進む」にして、設定を完了する。
設定を終えるとウィンドウが消えた。
「これで終わりかな」
試しに何回か拍手してみると、ゴーレムは拍手の回数と同じだけタイヤを回転させて進んだ。
拍手をしながらゴーレムを観察する。
どうやら成功したようだが、人型にすると歩いたりするのにも関節部分が必要になるし難しそうな感じがするな。それと、造形もかなり適当に作っているから、ちゃんとした物を作るにはやはり造形もちゃんとしなければならない。センスも必要になりそうだ。
難しいが、それでも自由に好きなゴーレムを作れるようになればできることの幅は大きく広がるだろう。やらない手はない。
「まずは魔力伝導率を調べる所からかなー…」
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