第123話 ノックスレイドパーティー(2)
鎧の回収とスライムの処理を行い数十分。ようやく通路が終わり、少し開けた空間へやってきた。
しかし道は変わらず1本しかなく、進む先には扉があるだけだ。
木製の古びた扉を開けて中に入ると、暗い部屋に出る。
背後から差し込む光を利用して部屋を見渡す。埃が溜まっているが、その埃の下には本や机などがあり、ここで生活していたというのが見て取れる。
「汚いなぁ…」
今の師匠の家には僕が本棚を設置したが、ここには本棚がなく本は地面や机の上に積み上げられている。その上積み上げた本が倒れてどこかのページを開いたまま放置されている物もある。
通路の1部から拝借した明かりを発生させる装置を取り出し、照らして部屋を確認すると、壁にスイッチとメモがあった。
【気がついた時に明かりを灯そう】
どういう意味なんだろうかと疑問符を浮かべつつもスイッチを押してみると、部屋の中が一気に明るくなった。どうやら通路にもあった装置と同じものがこの部屋にもあり、それが起動したようだ。
そうなるとこのメモはここに住んでいた者、すなわち師匠の物になるのだが、何故こんな事が書かれているんだろうか。明かりを点けずに作業する癖があったとかなのかな。
明るくなった部屋をもう一度見渡すと、やはり大半が埃を被っている。
適当な1冊を手に取る。埃を払って表紙を見ると、「メモ4」というタイトルだ。
……タイトル? メモって書いてあるけど、それはタイトルに分類されるのだろうか。
まあそれはさておき、ここに並んでいる本は大抵は師匠が書いたメモのようだ。
有用性はどうだか分からないが、また取ってこいとか言われても面倒だ。とりあえず回収しておこう。それに、もしかしたら僕が読んで新たな発見もあるかもしれない。
「図鑑と研究書だっけ…」
ごちゃごちゃと積み上げられた本を回収していくが、それらしき物は見つからない。
というかメモが多すぎる。ちらっと表紙を見た中には62とか書かれてあったけど…どれだけ書いてるんだろうか。
師匠とは遠隔から連絡する手段がないから不便だなと考えている途中で、研究書という文字が見えたのを確認する。
「おっと…」
見逃すところだった、と本のタイトルを読むと「星占い研究書」という物だ。クエスト概要に記されていた研究書は「レト=ノクスの錬金研究書」。つまり違う物だった。
だがこれはこれで気になる事はある。師匠は『星占い』というアビリティについて殆ど知らなかったようだが、研究はしていたようだ。やはり写真を使うアビリティだから、研究しようにも成果は出なかったのだろうか。
肩を落としながら星占い研究書をインベントリに収納し、片付けを続ける。
結局、この部屋には目的の物はなかった。メモは大量にあったけども。
それでも、隠れ家はここで終わりではない。更に奥へ続くと思われる扉があるし、そちらにあるのだろうか。
ドアノブに手を掛け、扉を開ける。
──しかし何も無い。
「壁だけど…」
開いた扉の先にある壁をぺたぺたと触るが、幻ではなく本物の壁だ。
つまりこの先には何もなく、隠れ家も全て調べ終えたという事だろうか。だとしたら、研究書も図鑑も見つけられてないのはどういう事だろうか。この部屋しかないのだったら、研究書も図鑑もこの部屋に必ずあるはず。だが実際はなかった。隠れ家にないんだったらクエストも発生しないだろうし、存在しないとかではないと思うんだけどな…。
この部屋に研究書も図鑑も無かったのだから、隠れ家にはまだ他の部屋があるだろう。その部屋をどう見つけるのか、それを考えるべきだ。
何処かで何かを見落とした、という可能性もあるし、隠れ家へ入った時と同じように転移するための魔法陣が隠されている可能性もある。
利便性でいえば一瞬で移動できる魔法陣の方が可能性は高そうだが、何処かに隠されていたりするんだろうか。
隠れ家に入った時は魔法陣を可視化して起動すると別の魔法陣が現れるといった、面倒な手順を踏んだ。それを考慮するなら、見えずとも何処かに隠されていても不思議ではない。
そう、例えばこの扉とか。扉という形式を取っている以上、移動するための物だと思われる。それか師匠が忘れやすいから取り付けたとか。
だったら扉の先の壁にMPを込めれば魔法陣が出てくるかも…!
──しかし何も起きない。
はい。
「まあ、そうだよね、うん…」
まだまだ師匠への理解が足りていないようだ。師匠が何を考えていたのか、それを予測できれば隠された部屋も見つかるだろう。
「師匠が考えてそうな事…」
ぬぬぬ…と唸る。
僕が知っている限りでは、師匠は何かの用事で街へ出掛ける事がある。ルグレと繋がっている逢魔の空間に住んでいる師匠しか知らないからどうにも言えないが、この隠れ家に住んでいた時も頻繁に街へ行っていたのだとしたら。
その場合、おそらく僕が隠れ家へ入ったのと同じ方法で帰ってくる。そこからわざわざあの長い通路を通ってここまで来るだろうか。
断じて、とは言いきれないけども、考えにくいのは確かだ。となると、魔法陣で転移してきて降り立ったあの通路に移動用の魔法陣があると考えるのが妥当だ。
「…戻ろう」
スライムはリポップしていないようで、来た時よりかは楽に戻ってきた。その証拠に一度もエンカウントせずに、襲われる前に回収していなかった鎧が並んでいる場所にやってきた。
また襲われるのも嫌なので、回収していない鎧もインベントリへ突っ込み進んでいくと、通路の奥の床に魔法陣があった。
降り立った位置の真後ろにあるので、帰還用の魔法陣だろうかと乗ってみると、隠れ家に入る時のテントのような木の前へ転移する。
やはり帰還用の物か。ならこの魔法陣とは別の物を探さないと。
メモを見ながら手順通りにMPを込めてもう一度隠れ家に入る。
中がリセットされるといった事態もなく、並んでいた鎧は僕が回収したせいで無くなっているままだ。
「さて…」
入口まで戻ってきたは良いが、やはり魔法陣は見つからない。ここにあると仮定したら、入ってきた時と同じように隠されているだろう。
それをどうやって見つけるのかが問題なのだが…虱潰ししかないか。
壁に手を触れ、MPを流す。何も起きないのをきちんと確認してから2、3歩進み、またMPを流して…と繰り返す。気の遠くなる作業であり、あるかどうかの保証もない。
狂気じみた作業を行っているのは考えない方が良いだろう、精神衛生的に。
しかし発見は案外早く、右側の壁から始めて帰還用の魔法陣へ進み、左側の壁を少し調べた時に別の魔法陣が現れた。
赤い光を放つ魔法陣だ。乗ってみるといつもの転移する感覚の後に、真っ暗な場所へやってきた。少しでも歩くとバランスを崩してしまいそうな程に真っ暗なので、その場から動かずにアイテム欄からランタンを取り出して掲げる。
目の前に人の骨があった。
「うわっ!?」
今まで骨というとモンスターしか見なかったので反射的に蹴り飛ばして武器を構えてしまったが、スタンドに立てられた骨だった。
理科準備室にあるような、人骨の模型だろうか。
幸い、バラバラになるような事は無かったので立て直す。少し傷が付いてしまったが…謝れば許してもらえるだろう、きっと。
明かりは無いのだろうかと探すと、さっき探索した部屋と同じようにメモが壁に貼り付けられていた。しかしスイッチはない。
【スイッチの材料買ってこい】
なんか、師匠にしては荒々しいような。誰かへのメモなのか、自分へ言い聞かせているのか。
どちらにせよ、結局スイッチは作られていないようだ。
しかし代わりになのか、魔法陣は壁に描かれている。だがそれも経年劣化のせいか、1部が消えている。
魔法陣は小さく星のマークがあり、それ以外には鎖っぽい物が描かれている。
知っている魔法陣で助かった。これは僕も閃光玉や爆弾を作る際によく使う、「同期」を表す魔法陣だろう。この魔法陣を起動すればリンクしている他の魔法陣も同時に起動するという物だ。
星マークは消えておらず、消えているのは鎖の1部とそれらを囲う円。それを綺麗に修復すれば、先程の部屋と同様に明かりが
ランタンをベルトに引っ掛けて、いつ買ったか覚えてないけどなんか持ってた筆を取り出す。インクは羽根ペンに使っている物を無理やり付けて、魔法陣を修正。
所々消えている程度なので、修復にそう時間はかからず、すぐに完了した。
「よしよし…」
起動してみると、部屋に複数設置されていた照明装置が一斉に光を点す。しっかり修復できたらしい。
「ふー、流石僕」
振り返って部屋を確認すると、やはり本が重ねて置かれており、そしてやはり埃を被っている。
…本多すぎない?
またメモが積み上げられているのかな、と思ったが1番手前にあった本のタワーの最も上にあった1冊を手に取って埃を払うと、タイトルはメモではなく「生命創造研究書」。
知らない単語が出てきた。これがアビリティなのか何かの行為を示すのか、どちらかは不明ではあるが不穏であると同時にとてもワクワクする。
ゲームとはいえ新しい生命を自分が思うがままに作れる、そんなの絶対面白い。実際にどういった物なのかは不明ではあるが。
しかしこの本もクエストの目的の物ではないようだ。他の本も見てみると研究書や図鑑、資料ばっかりで、メモは一切見当たらない。
そう考えるとさっき行った部屋はメモ置き場だったのかな。
1つずつ確認しながら全ての本をインベントリへ収納していく。
途中で無事に錬金研究書と生物図鑑を見つけられた。傷もなく、インベントリに収納したので、僕が変なことをしなければこれ以上破損する事もないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます