第117話 爆破祭り
まずい。ひっじょーにまずい。
想像を軽く超えてきた。
まず前方に居る2体の鎧、どちらも鎧の外観だけでこれまで戦ったことのある鎧型のモンスターとは別格だと分かる。サスティクの特殊マップで徘徊しているのも、バジトラからサスティクへ行く途中に居た鎧よりも。
そして不利な状況を加速させているのが背後から聞こえる物音。ここまで来る途中で見た骨はほんの一部だろう。この広い空間のあらゆる所に骨が落ちていて、それが全て動き出したとしたら数的不利とかそんなレベルじゃない。
できる限り冷静に、ここから生き延びる術を考える。
骨は上で徘徊しているのと同じであれば、数以外はそこまで脅威じゃない。この場で最も危険なのは鎧2体。
ならば鎧を速攻で処理できれば、あとは大量の骨をどうにかするだけで大丈夫だ。そのためには全ての敵に対して一瞬でも隙を作る必要がある。
隙を作る方法なら知っている。前に鎧に試したが、閃光玉はちゃんと有効だ。
「ポイっと!」
自分で視力を失わないように光を防ぎつつ、次に使うアイテムを取り出す。
ここから最短で最大のダメージを出すのは、武器もスキルも使う必要はない。むしろ使ってしまうとダメージは低くなる。
使うのはゼリオンクリスタル、もといそれを使って作った爆弾だ。勿論蓄積値20の、先程作った物。1個しかないけど、作り方は知ってるんだからまた作ればいい。ここで惜しむ必要は無い。
この爆弾であれば、相手のVITが1の場合1個で4000ダメージが入る。鎧のVITはそこまで低くないだろうが、それでも有効なダメージソースになるはずだ。
「爆ぜろっ!」
フラフラしながらこちらへ近付いてくる鎧へ爆弾を投げつけ、起爆する。十分離れたと思っていたが、衝撃によってHPの7割が消えた。
回復ポーションを飲んで削れたHPを回復しつつ、爆発した方を見る。流石にこの威力なら一撃で倒せるだろう。
…と思ったのだが、そうでもないらしい。
複数に分かれて散らばった鎧の部位が、宙に浮いて合体し元の鎧に戻った。閃光玉による目眩も消えているようで、しっかりした足取りで再びこちらへ向かってくる。
「えぇ、マジですか…」
爆発時に近くに居た骨は衝撃で消し飛んだ。他の骨もまだ閃光玉の影響を受けているが、直に回復してしまうだろう。
とりあえず作戦変更だ。倒せない、倒しても復活するなら拘束しよう。その間に骨を全て倒し、じっくり考える時間を作るべきだ。
ここで取り出したるはいつもの便利な魔法陣、落とし穴だ。落とし穴の深さであれば、鎧は重くて出られまい。
鎧達と僕の間に魔法陣を起き、こちらへ向かってくる鎧達が落とし穴に落ちていくのを視認したら行動を切り替える。
「よし、骨を全部消す」
暗視のポーションを飲み、視界をクリアにする。目眩から回復した骨達が四方八方から来るのを確認し、遠くの骨に向かって毒煙玉や爆弾を投げ、近くの骨は金属バットと木刀で殴り飛ばし、骨をバラバラにする。
音を立てて崩れ、光となって消えていく骨達。ダメージを受けたらポーションで回復して骨を殴り続けてと繰り返し、目に見えて数が減ってきた頃、迫ってくる骨の後ろに先程の鎧が合流してきたのが見えた。
「なぁんで出てきてんのさっ!」
それなりにあるAGIをフル活用して全力で走り、後ろに向かって爆弾を投げ、起爆。爆風で飛んでくる骨の破片を弾いたり避けつつ、もう一度確認する。
幻覚でなければ鎧は出てきてしまっている。一体しか見えないが…と、落とし穴を見てみると、今まさに穴から這い出てきた所だった。
「うそだぁ…」
骨が密集している所へ毒煙玉やら爆弾やらを投げて起爆させつつ、鎧への対処を考える。
鎧の移動は歩きしかなく、速度は遅い。逃げ回りながら骨の数を減らしつつ攻撃に巻き込む程度ならできるだろう。しかし拘束できない以上、戦いながら鎧をどう倒すか考えなければならない。
鎧を倒すのに考えられる可能性は、パッと思いつく限りでは4つ。
1つ、復活回数みたいなのがあって何回か倒せば復活しなくなる。
1つ、1回倒してから復活するまでの間に何かをする必要がある。何をするのかは分からないけど。
1つ、鎧自体を原型を留めない形状に変形、あるい溶かす。ただこれは攻撃力がそこまでない僕では難しいし、鎧を溶解させる手段も持っていない。
最後の1つ、倒している間は鎧の1部がアイテム判定になり、インベントリに収納する事で復活を防げる。
どれも微妙に有り得そうなのが困る。
最初の1つは他の可能性を試していれば自ずと回数が重なっていくので、そこまで考えなくていいだろう。そうなると他の3つの可能性だが。
幸いにも、爆弾は普段戦闘に使わないおかげでかなりの量ある。最初に蓄積値20のゼリオンクリスタルを使った時は一撃で倒せたのだから、復活回数を重ねる毎に強化されるとかでなければ2個使えば確実に倒せる。
「せぇいっ!」
もう一度倒すために、骨と一緒にこちらへ向かってくる鎧に向かって爆弾を投げ、起爆させる。
爆発の中で鎧の1部があらゆる方向へ飛んでいくのが見え、その内の1つを追いかけて走り出す。
地面に突き刺さった鎧の1部に触れ、インベントリに収納するように念じると、いつもアイテムをしまう時と同じように消えた。メニューを開いてアイテム欄を確認すると「ゴーストアーマーの手甲」もいうアイテムを手に入れている。
簡単にできるものからやろうと思ったのだが、最初で正解したようだ。
だがこれで倒せるほど甘くはないようで、回収した手の部分を除いて集合し、また鎧を形成する。
「手は直らないのか」
抜けている部分は再生されない。つまり、これを繰り返して復活できないレベルまで、最悪全ての部位を回収ればいい。
倒す方法は分かった。あとは死なないように、実行するだけだ。
それが難しいのだけども。
現在の戦闘において、僕が死ぬ可能性はそこらじゅうに転がっている。毒煙玉や爆弾も距離を測るのをミスしたら自爆するし、鎧の攻撃もどうせ一撃でも当たれば致命傷になり得るだろう。それらを全て回避して残りの骨と、2体の鎧を全て倒さなくてはならない。
難易度は高い。でもそれは諦める理由にならない。
何よりも、この特殊マップで特異に変化しているダンジョンの内部、その奥にある2体の鎧に守られている扉の先に何があるのか。それを知りたいという好奇心はそう簡単に止められるものでもない。
合流してきたもう一体の鎧と再生し終えた鎧、その数を減らした骨達を見据える。
「ふぅー、大丈夫大丈夫、落ち着くんだ僕…」
ここまで戦っていた疲労と高揚感を抑え、冷静に努める。
鎧はその手に持った武器を投げてこない限り、遠距離攻撃の手段はない。
こちらが距離を取り続ければ手も足もでないはずだ。万が一に接近されていても、先に武器を回収していれば体術くらいしか攻撃手段がなくなるだろうし、先に取り上げるべきなのは武器だろう。
それに加え、鎧を構成する中心部、胴体部分がなくなれば再生できないかもしれない。なんとなく想像しにくいからそう思っただけだが、試してみる価値はある。
最初に武器、次点で胴体部分を奪って回収する。それでいこう。
「僕のために死んでくれ…!」
爆弾を2体の鎧の間に投げ、どちらにも当たるというタイミングで起爆。一体はバラバラに崩れて飛び散り、もう一体は耐えてこちらへ向かってくる。
耐えた方を無視だ。飛び散った鎧の部位、その中から武器を持ったまま飛んで行った手を探し出し、全力で回収する。
ブロードソードを握ったままの手甲。ガタガタと震えて動き出そうとしていたが、なんとか回収できた。復活した鎧は両手がなくなっているが、変わらず動き出す。
もう一度爆弾を使って倒し、鎧を回収してまた爆弾を使い…と繰り返し、残り少なかった骨も爆発に巻き込こんで全て倒し、広い空間に2体の鎧と僕だけが残る。
鎧のパーツはかなりの数を減らし、腕や脚、頭など所々無くなっている。中心部ともいえる胴体は回収しようとすると他の部位を回収する時よりも早く復活してしまい、とうとうここまで回収できなかった。
そして鎧達も学習しない訳では無いのか、爆弾を投げると飛び退いて回避しようとしてくる。爆発範囲が広いから避けられていないが、段々と回避するのが速くなっているので、いつかは完全に避けられてしまうかもしれない。
「避けられるようになるのと倒しきるの、どっちが先か、か…」
当然、そんなのやるつもりはない。この場にもう骨がいないという事は、鎧を2体同時にバラバラにするか、片方をどうにか動けなくするのが良い。
要は閃光玉とか落とし穴をまた使えば、数秒は片方に集中できる。
片方は頭がなくなっているのに効果があるのか不安になったが、閃光玉を使って視界を奪う。両方とも効いていて、歩き方がフラフラになった。
「ほれ、頑張れ」
頭がない方の鎧に爆弾を投げ入れ、爆破させる。『思考加速』を使って飛んで行く部位を確認していくと、爆発の中で四方に飛び散る部位とは違ってその場に留まる部位があった。
胸当、先程まで散々逃げるように素早く復活されて回収を阻止されていた部位だ。
「ゲットォォォォォ!」
復活などさせるかという執念で飛び込み、抱えながら前転しインベントリへ収納する。
少し時間が経過しても、飛び散った肩当などは戻ってくる事はない。
「胸当を回収すれば倒せるのか」
ならもう一体も同じ手順で倒せるはずだ。頭部を回収してから中に爆弾を放り込んで爆破させ、その場に残る胸当を拾って収納する。
やはり、復活しなくなった。
この場に、僕以外誰も居なくなった。骨も鎧も、全て倒しきった。
倒した際にどこかへ飛んで行った鎧を全て回収する。
「あー疲れたぁぁぁぁぁ…」
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