第116話 自覚なき迷子


 では早速実験だ。



 まずは同じアイテム同士の合成。

 これまで行ってきた同アイテムの合成は、薬草と魔石がある。

 かなり前、『合成』の仕様を理解できていなかった最初期に薬草と薬草を合成した記憶がある。結果は1つの薬草になってしまった。あの頃はそれしか把握できなかった。

 もう1つ、魔石の方は薬草とは違って明らかに情報が増えたという点がある。『計測』というアビリティを使用して、魔石のコストを確認していた。そしてそのコストを見た限りでは、合成後の魔石は合成前の2つの魔石のどちらよりもコストが高かった。


 薬草の合成では名前に変化がなく、失敗だと思われた。だがコストを確認していた魔石の合成でも、名前に変化はなかった。コストは増えているのにも関わらず、だ。

 これらから予測できるのは、凝縮を行っても見た目や名前に変化が表れない場合があるという事だ。魔石の場合は名前に変化はなくとも、透明度などは変化していたので一概にそうとは言いきれないのだが。


「まあ試してみれば分かるか…」


 取り出したゼリオンクリスタルを錬金釜へ入れて合成する。2つ入れて出てきたゼリオンクリスタルは1つ。ここまでいつも通りだ。

 ゴーグルを装着し、『鑑定』を発動する。



───


アイテム名:ゼリオンクリスタル レアリティ:レア

耐久値50/50 状態:良好

性質:爆発、クリスタル、崩壊発動

蓄積値:2


耐久値が0になると爆発するクリスタル。破壊に至る一撃で耐久値が減少した割合で爆発の威力が変動する。


───



 「蓄積値」という項目が増えている事を除けば、おかしな点はない。

 問題はこの増えた項目。これまで見た事がない物だ。凝縮を行って出てきたのだから、更に凝縮させれば蓄積値は増えるのだろうか。


 凝縮を繰り返してみると、予想通り「蓄積値」の項目に表示されていた数字が増えた。

 蓄積値が5を超えてから説明文の「耐久値が0になると爆発する」というのが、「耐久値が0になると大きく爆発する」になり、蓄積値が10になると「とても大きく爆発する」に変化した。20になるまで凝縮してみたが、10から変化はない。


「やり過ぎた…?」


 物は試しということで、訓練所で試してみることにした。

 ゼリオンクリスタルを魔法陣を描いた紙で包む。魔法陣は土属性の針と遠隔から起動させる物を描いてあるので、これを藁人形の足元に起き、十分な距離離れてから起爆させる。


 爆発した瞬間に、衝撃と爆風が押し寄せてくる。一瞬で砂埃を上げ、爆発地点は一切見えなくなっている。

 数秒経ち、砂埃が晴れると、訓練所の真ん中に大きな穴が空いていた。


 パネルを起動してダメージを確認しようとしたらいきなり「修復しますか?」という質問があったので「はい」を選択すると、空いていた穴の消えた部分が薄く現れ、段々と濃くなってから爆発する前の地面に戻った。

 そういう機能もあるんだなと感心しながら、今度こそダメージを確認する。藁人形に与えたダメージは4000──


「─4000!?」


 前に見た時はゼリオンクリスタルの爆発は2000ダメージだった。つまり倍になっている。ただでさえアホみたいに高いダメージが、倍になっているのだ。


「衝撃が強かったのもそれか…」


 十分に距離を取ってから起爆したのに衝撃や爆風が強かったのも、訓練所に大きな穴が空いたのも、このダメージならある意味納得できる。

 それと同時に、今の爆発の半分の威力でも抑えられる、銃に使っている耐爆性のある素材の凄さも理解した。あの小ささで爆発の衝撃を全て抑えられるのだから、単純な耐久力だけでなく爆発を吸収するような効果もあるかもしれない。是非とも『分解』を試してみたいものだ。


 …思考が錬金術師っぽくなってきたな。


「とりあえず成功かな」


 最初の実験で成功してしまった。失敗した時のために『分解』で手に入れた「爆発」のカードを使えないか、ってのも考えていたが、別にやらなくて良さそうだ。



 これ以上開発はしなくていいのだから、他の事をしよう。何をやるかは既に決めてある。

 イベントをやろう。

 昨日から開催されているが、昨日からずっとクランハウスに引きこもっていたのでポイントは0だし、何と交換できるかも知らない。

 せめて冒険者ギルドに行こう。欲しいアイテムがあったらそれを優先するために必要なポイントを知っておくべきだ。


 訓練所からホールへ移動し、クランハウスから出てサスティクの冒険者ギルドへ向かう。

 マレアの教会からクランハウスに転移してきたままだったから移動費の3万ソルを要求されたが、この2日間で色々とアイテムを作ってお金を稼いでいたのでまあまあ余裕で払えた。


 そして歩いている途中で気付いた。冒険者ギルドの場所を知らない事に。


「…」


 これまで冒険者ギルドに行ってなかったのが原因だろう。

 記憶のある限りでは、ルグレの冒険者ギルドにエニグマとアズマに着いて行った事が1回あるが、それから行ってないと思う。クエストなんかも発行されているらしいが、受けたことない。


 今からでもエニグマかアズマに聞くべきかと考えたが、時既に遅し。

 気が付いたら辺りは暗くなり、青い火の玉のような物が建物の上で彷徨っている。

 見覚えはあるし、いつか来ようと思っていた場所だ。サスティクの特殊マップ。正規の侵入条件は不明だが、『迷い人』という称号のせいで侵入できてしまった。


「んー、今来たくはなかったかな…」


 どうにも運が悪い。迷子になると近くの特殊マップへ50%の確率で侵入するという説明でも、『迷い人』を取得してから今まで、迷子になった際はどこかしらの特殊マップへ100%侵入している。

 だが来てしまったものは仕方ない。なるべく死なないようにしながら戻る方法を探そう。



 このサスティクの特殊マップには骨と鎧が出てくる。前回は骨はそこまで危なげもなく倒せたが、鎧をなんとか倒せたという所で別の鎧に殺されてしまった。

 あれからレベルアップしたり武器を変えたりと、戦闘力は上がっているので、鎧までなら倒せるだろう。それより強いのが出てきた場合は知らないけど。


 しかし、戦わなければならない理由があるのかと言われるとそうでもない。骨と鎧を無視して探索できるのであればそうした方が楽だろう。

 問題はスルーできるか、だ。

 墓場で似たようなモンスターであるゾンビや、同じモンスターだけどここのよりかは弱い骨を無視して走り回った。墓場という開けた場所だからというのもあるかもしれないが、かなりの距離を開けない限りは追ってくるのだ。

 同じモンスターであるならば、骨だって振り切るのは難しいだろうし、街中という地形の関係で挟み撃ちされる可能性もある。


「…閃光玉、使えるかな」


 前に使った時は有効だった。挟み撃ちされた時は閃光玉を使ってみよう。それで無理なら…まあ諦めて、次来る時までに対策を考えておこう。


 そう決め、走り出す。

 前回の探索でこのマップも少し見て回ったが、ボスらしいボスは居なかった。街の中央なら何かあるかも、とも思っていたけど何もなく、脱出の手掛かりになる物はないかと探しているうちに死んだ。

 脱出の手掛かりというのが見つからない限りは、このマップから出る方法は死んで戻るくらいだろう。もっとも、その手掛かりが存在するかは分からないが。

 また、走り回っていたのに途中まで鎧と会わず、一体目の鎧と戦い終えた直後に別の鎧が出てきたのを考えると、時間経過で出現するモンスターが変化するマップである可能性もある。




 なるべく骨に気付かれないように、気付かれたら全力で走って振り切るという風に行動していると、気になる施設を発見した。


 冒険者ギルドが管理する、サスティクの街中にあるダンジョンの入口。見た目を簡単に説明すれば駅の改札だ。それに近い感じでダンジョンへ入る冒険者の管理などを行っている、とエニグマが言っていた。

 そのダンジョンへの入口。本来なら冒険者ギルドの職員がいるはずなのだが、特殊マップで人がいないから、誰も見えない。

 この施設が気になったのは、特殊マップ内にあるダンジョンの入口だからだ。通常マップなら用がなければスルーしている。人がいなくて、モンスターが出てくる特殊マップにあるダンジョンの入口というのは、非常に気になる。同じ構造なのかとか、変わらずモンスターが出てくるのか、とか。


 背後にモンスターが着いてきていないのを確認してから、装置の間を通ってダンジョンの入口へ向かっていく。

 前にエニグマ達に連れて行ってもらった時と変わらず、階段で下がっていく形式のようだ。

 だが階段を下りていった先は、前とは違う景色だった。


「なんだここ…」


 通常、このダンジョンに入ってすぐは石造りの通路が続いているはずなのだが、通路ではなく広い空間が続いている。しかし石造りのように整っているものではない。

 岩肌が露出していて、穴を開けたとか、削り取ったという印象を受ける。

 吊るされたランタンの光を辿って広い空間を壁沿いに歩いていくと、所々に白骨化した死体が落ちている。この死体は墓場やダンジョンに入る前に徘徊していた骨とは違い、近づいても反応はないし、動き出すこともなかった。


 しばらく進むと、入ってきた方向からちょうど正反対になるような位置に扉があるのが見える。だがその扉の前には、扉を守るように2体の鎧が立っている。メインカラーを黒で、縁を金色で装飾された鎧だ。カッコイイと思ったが、それどころではない。

 バレないように、ほぼ反射的に呼吸を止めたが、無意味だったようだ。モンスターかもしれないという予想は当たってしまった。

 こちらから視認できるというのはつまり、同じ視力であれば相手からも見えるということ。こちらに気付いた2体の鎧は、それぞれ背中に背負った大剣と腰に差していたブロードソードを取り出して構える。

 それと同時に、背後からもカラカラという物音が大量に聞こえてきた。


 振り返って確認することなく理解できてしまった。

 この音はおそらく、ここまで進んできた途中にあった骨だ。動かないからモンスターではないと思っていたが、戦闘に入ると活性化するタイプだったか。


「いや、キツイって…!」


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