第115話 世界観どこ行った?


「なんだこれ」


「え? 頼まれてた毒煙玉だけど」


「猛毒煙玉って書いてあるが」


「なんか流れでそうなった」


 エニグマに依頼されていた毒煙玉を渡すと小言を言われた。それくらいは気にせずにスルーしてほしいものだ。

 しかしそうは言わない。この後に素材の供給量について相談するつもりだし、ここで何かエニグマの気に触れるような事を言ってしまっては元も子もない。


 というのは建前で、実際は言って面倒な事になるのが嫌なだけだが。


「猛毒煙玉になったから毒草の消費量が減ったんだよね。ケムリの実の量を増やしてくれないとバランス取れないよ」


「は? 減ったのか? なんでだよ?」


「ポーションの効果を1段階上げる素材を使うことにしたから」


「待て、お前秘匿してる情報多過ぎだろ」



 結果的に言えば秘匿している事になるんだけど、説明するのが面倒だから言ってないだけだ。

 僕が行動しない理由は大体「面倒だから」で片付く。エニグマの行動の大半が、本人の気分でそうなっているように。エニグマの「気分」が僕にとっては「面倒」というだけなのだ。

 今回もそれだ。頼る場合はエニグマにも理解して貰わなければならないから面倒でも説明するが、頼らないなら説明する必要もない。


 それに、情報を秘匿しているのは僕だけではない。エニグマやアズマなどのクランメンバーも、どういうステータスなのかとか、どんなスキルや称号を持っているのかを知らない。

 聞けば教えてくれるかもしれないが、それだったら僕だってそうだ。聞かれてないのだから自分から言わなくてもいいだろう。


 少しの間頭を抱えて考え込んでいたエニグマがおもむろに顔を上げ、目が合う。


「はぁ、まあいい。んで?」


「ケムリの実の供給を増やして欲しい」


「他は?」


「イベント手伝って」


「あぁ…イベントの方なら任せろ。余裕ある時に楽にポイント稼げる方法を教えてやるよ」


 なんとも頼もしいことだ。











****













 翌日、相も変わらず錬金ラボに入り浸ってアイテムの作製に勤しんでいたりうさ丸と遊んだりしていると、エニグマから訓練所に来るように招集がかかる。

 休憩中だったので行ってみると、既にエニグマが訓練所に居た。


「どうしたの?」


「見せたい物があってな、これだ」


 そう言って取り出されたのは、鉄パイプ…ではなく銃。銃身は鉄だが、持ち手の部分は木で作られている。

 このゲームで今まで1度も見たことがない銃だ。なんなら現実でも実物は1回も見たことない。


「…なんで銃?」


 世界観は? ゲームバランスは?

 エニグマは僕の疑問に親切丁寧に答えてくれる。



 まず銃が何故あるのか、という疑問。これは簡単で、エニグマが知り合いの生産系のクランと共同開発中しているらしい。それの試作品が、今エニグマが持っている銃という訳だ。

 世界観に関しては、作れるんだから知らねぇとしかコメントがなかった。


 次にゲームバランスについて。ファンタジー系のゲームに銃なんて持ち込んだらバランスが崩れるんじゃないかと思ったが、エニグマの話によればそうでも無いらしい。

 装備者がどんなステータスでも一定のダメージは出せるけど、逆に装備者がレベルアップして攻撃力を上げようが、ダメージに変動はない。銃を強化しない限り、防御力があればダメージは低くなるしいずれ効かなくなるので、無双できるとしても防御力が一定以下の敵を相手にだけ、と言っていた。


 最後に仕組みについて。銃って火薬とか使うって聞いた事があったけど、現実で銃に使う火薬と同じものを作ったり発見したのだろうか、という疑問だ。

 実は僕も知っているアイテムで、爆弾に使っているゼリオンクリスタルを使用しているようだ。弾の形状に合うように加工したゼリオンクリスタルを撃鉄で破壊して爆発を起こさせ、弾を発射する仕組みらしい。

 銃の構造について知識がある上に、薬莢に使う雷酸水銀を簡単な仕組みで代用できるから現実のような進化の歴史は途中までスキップした、とかなんとか。


「なるほどね」


 全然分かんないけども。


「いいだろ。あんま強くねぇけど」


「ニアさんが使ったら強そうじゃない?」


「反動ダメージを抑えられる装備があれば、だな」


 撃つ時にダメージあるのか。

 AGI極振りのステータスをしているニアさん。AGIしかステータスに割り振っていなくて攻撃力がないのに、弱点部位を攻撃すると防御力を貫通してダメージを与えられるという仕様を活かしてAGI極振りでこのゲームをプレイしている、プレイヤースキルがなんかおかしい人。

 弱点部位を正確に攻撃できるであろうニアさんなら、銃で弱点部位を攻撃すれば今よりも火力が上がるのではないか。そう思ったのだが、反動でダメージを受けるならVITが初期値のニアさんはそれを抑えられる装備がないと厳しいかもしれない。


「そこら辺も今後の開発で必要になってくる部分だしな、いずれは対策するつもりだが」


 エニグマは一体何を目指しているんだろうか。技術開発者とか?


「…まあ頑張ってね」


「いや、自慢するために見せた訳じゃねぇんだよな。なんかアドバイスとかあったらくれ」


「えぇ…?」


 銃の知識なんて無いんだけど。

 アドバイスなんて求められても、すぐに思いつく事はない。考えて思いついた事でも、僕が考える事ならエニグマも考えてそうだが。

 それでも何か言わないといけなそうな雰囲気なので、腕を組んで唸りながらそれっぽいアドバイスを考える。



 中々思い浮かばずに唸り続けていると、暇なのかエニグマが藁人形に向かって銃を撃ち始めた。

 腕を組んで空を見ながらぼーっとしてたので、急に爆発音がして肩が跳ねるくらいにはびっくりした。


 銃を撃っているのを見ていると、思っていた物とは少し違うようだった。弾を発射した後に、トリガーの上の方にあるレバーを引く動作を必ず行う。

 なんかこういう銃の総称みたいなのがあった気がするけど忘れた。


「そのレバーは引かないと駄目なの?」


「あぁ、ボルトアクション方式はこうしないと排莢と次弾装填ができないからな」


「次弾装填? リロード?」


「リロードとはちょっと違うな。次弾装填は銃の内部に込められた弾を発射する機構に持っていく動作で、リロードは銃に弾を込める動作だな。俺の知識が間違ってなければ」


 要は、次の弾を発射するために必要な動作なんだろう。毎回それをやるのは手間がかかりそうだし、戦闘中にできるのかというのは気になるが。


 それはそうと、早く何か言えよみたいなエニグマの視線が突き刺さってきているので、そろそろアドバイスっぽいのを言わなければ。


「…そうだ、ゼリオンクリスタルなら威力上げれる…かも」


 ゼリオンクリスタルについて詳しくはないけど、これなら心当たりがないでもない。


「爆発の威力か。いいな、どんなのだ?」


「同じアイテムを合成すると凝縮できるらしいからそれで威力が上がるかも?」


 でも前に薬草同士を合成したことがあるけど、変化はなかったから確証はない。もしかしたら? って程度の話だ。


「錬金術か。便利だな」


「んね」


 それは僕もそう思う。


「いいな。それに錬金術師も居た方が視野が広がるかもしれん。よし、お前採用」


「何に?」


「開発チーム」


 知らないうちに知らないチームに入れられていた。採用ってこっちから志願したみたいな言い方だけど、別に志願なんてしてないのだが。

 というか拒否権ないのか。


「まあいいけど…」


「今度呼ぶわ」


 だからそれまでに何か作っといてくれ、と頼まれる。

 そうは言われても、確証がないし失敗したらどうするんだ。呼ばれた時に「前に言ってたやつ無理だった」なんて言えないんだけど。知らない人の前でそれ言うのとてつもなく恥ずかしいじゃん。


「いや、別にいいだろそんくらい…」


 できるかは分からないというのを伝えても返答は同じ。

 仕方ないので諦めてやるだけやってみよう。それでできたなら、この心配は杞憂で終わらせられる。



 訓練所では生産活動が禁止されているので考えるだけだが、いきなり始めるよりかは事前に考えている方がやりやすい。錬金ラボに戻るのもいいけど、考えている途中で聞きたい事が出てくるかもしれないのでここで考えよう。


「ゼリオンクリスタルの凝縮…」


 考えるべき点はそこ。

 単純にゼリオンクリスタル同士を合成させるのもいいが、薬草のように変化がないかもしれない。一応やってみてゴーグルの『鑑定』を使って調べよう。


 それ以外にも『分解』というアビリティがある。ゼリオンクリスタルを構成する性質は「爆発」「クリスタル」「崩壊発動」の3つ。

 ゼリオンクリスタルを分解して手に入れた「爆発」のカードを他のアイテムと合成する事で、エニグマの手助けになる可能性もある。

 おそらく「爆発」のカードと別のカードを合成すると、クリスタルのような物ではなく爆発という現象自体がアイテムとして完成する。しかしそれでは使えない。

 ちゃんと形を持つアイテムと合成すればあるいは、といったところか。まだデータが足りないからなんとも言えないけど、それについて調べるのも兼ねて試してみればいいだろう。


 と、ここまで考えてある疑問が浮かんでくる。


「爆発が強くなったらさ、銃が壊れたりしない?」


 ただでさえ地面に穴を開けるような威力を持つゼリオンクリスタルだ。正直、強化せずとも銃が壊れて所持者もろとも消し飛ばしそうな爆発力を持っているはずなのだが、強化して平気なんだろうか。


「一応、な。メイズの近くの火山に生息するモンスターに爆破攻撃をしてくる奴が居るんだが、それの生態がまあ特殊でな。

 爆発する粘液を飛ばすとかじゃなくて自爆特攻なんだよ。自分自身が爆発に耐えられないと意味無いからだと思うが、爆発に対して異常なまでの耐性がある甲殻を持ってる。

 集めるのは大変だが、相応の価値がある素材だ。そいつを銃の内部に使ってるから爆発には耐えられるはずだ」


 そんなモンスターが居るのか。自爆してくるのに、その自爆で死なずに生きてるモンスターとか戦いたくないな。

 モンスターは一旦スルーしておくとして、爆発による自壊の心配がないなら強化した後の影響とかを気にする必要もなさそうだ。反動と反動ダメージが強くなるかもという心配は消えないが。

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