第109話 ギミック解除までが長い


「ちょっとアズマー! 倒すの手伝ってー!」


 忘れかけていたが、モンスターを引き連れている状態だった。

 正しい意味でのトレインを行ってしまったが、アズマに頼らないとこの数は倒せない。悲しい事に、僕の戦闘力はそこまで高くない。


「ヘイトは任せた!」


 盾を取り出して構えているアズマの後ろへ隠れ、弓を取り出して背負っている矢筒から矢を取り出し、番える。

 アズマから少し離れているゾンビの頭を狙って矢を放つと、真っ直ぐ飛んでいき、見事に眉間を直撃した。だがそれでは倒せていないようで、矢が刺さったまま立ち上がってくる。


「ちょっと下がって! 『マルチプルアロー』!」


 マルチプルアロー、多くの敵を相手にする時に使える弓術のアビリティだ。

 ゾンビや骨の上空に放たれた矢は、数十、数百に分裂して降り注ぐ。


 分裂元の矢を鉄製の物にすれば良かったのだが、咄嗟の事で忘れてしまった。これは反省。


「『パラライズアロー』!」


 マルチプルアローは強力な反面、クールタイムが非常に長く、10分に設定されている。

 この戦闘を10分以上続けるのなら話は変わってくるが、長引かせたい訳ではない。つまり、より早く殲滅する為に他のアビリティを使うことになる。



 弓術のアビリティにおいて、この戦闘で使えるアビリティはクイックアローとパラライズアロー、バーサークアローの3つだけだ。

 アビリティを所持していないのではない、使えるのがその3種類だけなのだ。


 状態異常系のアビリティであるポイズンアロー、パラライズアロー、スリープアロー、バーサークアローだが、毒と睡眠はアンデッド達には効き目が薄い。反面、麻痺と狂化は1発で発現するので、有効な手段と言えるだろう。

 耐久力のないアンデッドモンスターとの戦闘においては、1発の強さが重要視されるのだ。毒と睡眠は1発では発現しないから、この戦闘では弱い。


 クイックアローは単純な威力アップのアビリティとして、大抵の戦闘で使える。今回も例外ではない。


 マルチプルアローと同じ枠と言えるミラージュアローは、相手の知能が低く騙す必要がないので、使う必要も無い。



 なので基本的には、アズマに比較的近いモンスターにパラライズアロー、離れている奴にはバーサークアロー、クイックアローは適当にという感じで矢を放つ。



 通常の矢でも2発で倒せるくらいには脆いアンデッドモンスター達。

 アズマの盾の仕掛けでは1発で倒せるし、盾の形状が下半分が鋭利な三角形をしているので、仕掛けを使わずとも盾を振り下ろせば攻撃が可能だ。更に、アズマが盾で殴った場合も一撃で倒せるようだ。



 盾って本来そういう武具ではないよなぁと援護しながら眺めていたら、バラバラになった骨の破片やゾンビの腕とかが飛んでくる。


 全年齢対象…あれ、前もこんなことあったような…?


 ゾンビの四肢が目の前にボトッと落ちてくるの、子供が見たらトラウマになるんじゃないだろうか。大丈夫なのかなぁ…。



「『クイックアロー』!」


 でもまあ、すぐ消えるし、多分大丈夫。

 というか僕の知ったこっちゃない。悪いけど、知らない人がこのゲームでトラウマを抱えようが僕には関係ない。ブランとかだったら怒るけど。


 アズマがかなりの数を倒してくれているのもあり、数は目に見えて減った。

 あとは残りを殲滅し、墓石付近を掘って紋章を取り出し、石版に嵌めてギミックを……って、長いな。












****











「あったあった」


 地面から箱を引き抜き、蓋を開ける。

 「Alchemist」と書かれた紋章を取り出し、インベントリへ収納する。


 これで戦闘の一族のアウシア家に続き、錬金の一族であるエシル家の紋章も手に入れた。

 残りは3つ、魔法の一族のマギク家と技術の一族のフィクトス家、参謀の一族のケトゥン家だ。この3つの名前が入った墓石を探し、紋章を掘り出して石版に嵌め込めば何かのギミックが解ける。



 それにしても、探索を始めてから結構な時間が経った。メニューから時間を確認するともうすぐ21時で、夜ご飯を食べてお風呂に入るのが推奨される時間になってきた。

 だがここでおかしな点が1つ。これまでの経験上、21時はゲーム内では日が登っている時間なのだ。それなのに未だに夜のまま。


 何が言いたいのかというと…この墓地、特殊マップかそれに類似する空間異常を持つ場所である可能性が高い。


「ずっと夜だね」


 これまで何回か特殊マップに迷い込んできた身としては、昼夜が変わらないというのはそこまで珍しい訳ではない。

 師匠が住んでいる逢魔の空間へと繋がる裏路地も侵入した時点から出るまで変わらないし、サスティクの特殊マップも常に夜から変わらなかった気がする。


 だがしかし、僕にとって珍しくない事でもアズマにとっては珍しいようで、夜から変わらないという話題を出した直後に、メニューを操作しているらしき動きをしてから腕を組んで止まっている。



「そんな所で腕組んでないでさ、墓石探してよ。またゾンビ達がリポップしちゃうよ」


 墓石についた土を払いながらアズマに声を掛ける。

 アズマの方を向かずに、墓石を見ながらだからアズマがどんな動きをしているかは分からないけど、鎧が動く音は聞こえた。


 …残念、今調べていた墓石は目的の物ではないようだ。


 立ち上がってアズマを見ると、墓石の前にしゃがんで土を払っていた。この状態でないと話したくないという事も特に無いので、次の墓石の前まで移動しながら話す。



「紋章が埋まってる墓石の位置って法則性とかないのかな…?」


 発見した紋章は3つ。フォルグ家の紋章は対応する石版から割と近い場所にあったが、アウシア家とエシル家の紋章は石版から遠い。

 というのも、現在探索中の場所は墓地の南側であり、アウシア家とエシル家の紋章は北側にある。要は逆方面にあるのだ。


【アズマ:多分ない】


 僕もちょうどそう考えていたところだ。

 そもそも数が少ないから法則性があっても分からないし、あってもどうせ考えずに探すだろう。


「だよね」





 そんなこんなで稀に来るモンスターを倒しながら墓石を確認していく。

 途中で石版の探索と同様、分かれて行動した方が早いんじゃないかと話して分かれた直後にアズマからフレンドメッセージが来た。


 場所は覚えておくとの事で、スコップを僕が持っていてアズマは所持していないので、合流してからにしようと後回しになった。

 何故かは不明だが、分かれて行動するとアズマの探索効率が上がるっぽい。


 石版の探索時に戦闘を避けていた僕が倒してから調べているのは、石版と違って1つ1つ確認するから同じ場所に留まる時間が長いからだ。先程のように逃げ回りながら探索するというのはできない。

 リポップの周期がモンスターによって違うのか、現れる場所が墓地のどこかであってプレイヤーの近くに確定で湧く訳じゃないのかは分からないけど、数はそこまで多くもない。



 暗さによる視界の制限があるので音に注意しながら墓石を調べていると、記憶に引っかかる名前を見つける。


「フィクトス…これか」


 僕の方もようやく発見できたようだ。

 「コット・ヘファイストス・フィクトス」。実に言いにくい名前だ。ミドルネームとラストネームの響きが似ているのも、微妙に言いにくい。




 目的の墓石は発見できた。そこは良いのだが、これからどうしようか。とりあえずアズマにメッセージで連絡しておき、この先について考える。



 アズマが発見した墓石は僕しかスコップを持ってないという理由で後回しにしたが、スコップを持っている僕にも難点はある。


 モンスターの対処。


 最大の要因である。これまでの3つはアズマが警戒と戦闘を行っていたので事なきを得ていたが、今回はそのアズマが居ない。警戒も戦闘も、自分1人でこなさなければならない。



「とは言ってもなぁ…」


 バジトラの鉱山での記憶を想起する。鉱石の採取ポイントに夢中になって、蟻が近付いてきている事に気付かず、交戦準備が間に合わなくて死んだ。

 それほどまでに、注意力散漫というか…マルチタスクができないのだろう。


 掘りながらの警戒ができないとなると、掘っている最中にモンスターが来ない事を祈るくらいしか僕にできる事はない。




【アズマ:見えた。先に掘っておこう】


 信仰などしていないので誰に、という訳ではないが、見てくれだけは祈ってから掘ろうとしたところでメッセージが届く。

 辺りを見渡すと、鎧がこちらへ手を振りながら歩いてきていた。


「随分近かったんだね」


 二手に分かれた際に、まあまあ距離を取ったところから調べ始めたのだが、いつの間にか近くまで来ていたらしい。

 僕が近付いたのか、アズマが近付いて来たのかは分からないけど。



 何はともあれ、アズマと合流できたなら心配する必要はないだろう。


「じゃ、護衛よろしくぅー」


 スコップをアイテム欄から取り出し、墓石の下を掘る。



 これで間違っていなければ、フィクトス家の紋章を手に入れられる。更に、アズマが覚えているもう1つの墓石の下にも紋章があるなら、残りは1つ。

 ようやく終わりが見えてきたと言ったところだろうか。


 だが終わりというのはギミックを解除できるという終わりであり、そこでこの墓地を攻略できたという訳ではないだろう。

 ギミックがあるなら当然、解除した先に何かはある。

 それがボスなのかダンジョンなのか、宝なのかは僕の知る由はない。だが何かはある。多分。









****










 地面にスコップを突き立て、足掛けを踏んで深く押し込み、土をどこかへ投げ飛ばす行為を繰り返して紋章が入っていると思わしき箱を取り出す。


「よし、さっさと最後の1つを探しに行こう」


 これ以上この場に留まる理由はない。今までも掘った穴は埋めてないし、箱から紋章を取り出すのは歩きながらでも可能だ。


 たった今掘り出した紋章で、マギク家の紋章も手に入った。残りは参謀の一族、ケトゥン家の紋章だけである。



 またしても墓石を1つずつ調べる地味な作業に戻るわけだが、ここでアズマと情報のすり合わせを行う。

 見落としがなければ、既に調べた区域をもう一度調べるというのは無意味な行為だ。


 結果、僕もアズマも目印がなくても比較的分かりやすい端の方から調べていたようだ。

 中央にある石碑の付近がほとんど手を付けていないっぽい。


 それと、紋章が埋まっていた墓石の場所について。

 端的に言えば規則性はない。どうも南に偏っていたり、西や北にポツンとあったりする。東の方もアズマが既に探したらしいが、見つからなかったのだからないのだろう。


 この付近にあれば良いのだが。

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