第85話 眠気を誘う
「わぁ、リンだぁー」
クランハウスの庭でゆっくりしていたらニアさんに呼ばれ、来たらヒュプノスさんが居た。何を言ってるか分からない…事はない。
「なんで居るんですか」
反射的に身構えてしまう。
ヒュプノスさんというと、遺跡があった湖の畔で会って小屋の探索途中で僕に抱きついて寝たという印象しかない。頑張っても振り解けない強さで抱きしめられ、今の僕からしたら重い彼女を背負って行動しなければならなかったのは辛かった。
「だって呼んでって言ってるのにアリスが呼んでくれないんだもーん」
だからアリスさんではなくニアさんを経由して呼んだ、と。
ヒュプノスさんが呼んでいるというのはちょっと前に言われて、その時は何かしていて行けなかったから暇な時で良いとアリスさんに言われた。それから呼ばれてなかったけどアリスさんが意図的に呼んでなかっただけなのかな。
「…それで、何か用ですか」
「お昼寝しよー」
《『ヒュプノス』からフレンド申請が届いています。受諾しますか?》
とりあえず承認。
「何処でですか」
「何処でも良いよぉ。暑過ぎず寒過ぎず…やー、寒い場所でお布団で暖まるのもありかなぁー」
そんな場所知らないけど。サスティクの更に北は雪が降るほど寒いらしいけど、まだ行ってないしな。
最近は訓練所か庭で好きに温度も天候も時間帯も変えられるからよく使ってるけど、クランハウスの施設だからヒュプノスさんは使えないし。
……使えないっけ? 聞いたことないけど、どうなんだろう。エニグマに聞いてみよう。
「ニアさんもですか?」
「ヒュプノスの保護者枠だから出来ればそうしたい。無理ならいい」
保護者なんだ。
と、早速エニグマから返信が来ている。クランハウスの施設はクランの管理者、所謂クランマスターが許可した所のみクランに所属していなくても使用可能になるそうだ。
ただし今は不許可にしているとの事。どうせなら誘ってみたらどうだと言われたが……。
「気温とか時間帯を好きに出来る場所はありますけど」
「良いねぇー」
「クランに入らないと使えません」
即興で考えたというのもあるけど、我ながら誘い方が下手。もうちょっと何かこう、良い誘い方が…思いつかないな、これが僕の限界なのか。
「クランって?」
これで食いついてくるのもどうなんだ。しかもヒュプノスさんじゃなくてニアさんだし。
ヒュプノスさんは「何でも良いから早くしてよぉ」と、睡眠が第一だからかクランに入るかどうかとかはどうでも良さそう。興味を持ってくれたニアさんのために軽く説明してみると、クランハウス自体に興味があるようだ。
「入ります? お試しみたいな感じで」
「まだぁー? 眠くなってきたんだけどぉ…」
「じゃあお試し。どうやって入ればいい?」
…どうやってだろう。僕が入った時はエニグマとアズマに連れてこられてサスティクに入った瞬間にシステムメッセージが来た。
メニューから色々探してみるけど見つからないのでエニグマに聞いた。クランの設定にもよるけど、僕らのクランはマスターか副マスターが招待しなければ入れないようなので、エニグマと合流する事に。
エニグマが今はクランハウスには居ないという事で、まだ入れないのでクランハウスの前で待つ。
そして待ち時間にヒュプノスさんが寝た。僕に抱きついて。
何でだよ、と言いたくなる。初対面の時にニアさんの背中に張り付いてたんだからそっちに行けば良いのにと思いながらも、本人は寝てるしニアさんに言うのはお門違いというやつなので黙っておく。
鎖骨にかかる寝息にくすぐったさを感じながらエニグマを待っていると、ヒュプノスさんの体温も相まっていつかの湖の時と同じように段々と眠くなってきてしまう。ヒュプノスさんは人を眠りに誘う特殊効果でも持っているのだろうか。
「おー、なんか好かれてんな」
「エニグマ…」
瞼が少し重い。視界がちょっと霞んでいるが、エニグマが来たので頑張って耐えよう。
「そっちがニアさん、僕の後ろに張り付いてるのがヒュプノスさんだよ…」
「あいよ。話はリンから聞いてる、仮加入だってな。こちらとしても一時的とはいえクランが盛り上がるのは歓迎だ。気に入ったなら本格的に加入してくれると嬉しいが」
「見てから決める」
「是非そうしてくれ。で、そっちの寝てるのは…」
エニグマが僕の後ろのヒュプノスさんを見る。体を動かしてもヒュプノスさんは起きない。
「ヒュプノス、起きろ」
ニアさんは僕が自分では振り解けなかったヒュプノスさんを引き剥がし、肩をブンブンと揺らして起こす。
「あぇー…凄い眠いー」
「申請送って」
「分かった」
エニグマが最初に、続いてニアさんとヒュプノスさんもメニューを操作しているような動きを見せる。クラン:『未定』の詳細を開くと、メンバー人数の表記が「9/20」になっている。
良かった、ちゃんと入れて……いや、なんかおかしいな。
エニグマとアズマ含むダンジョン攻略組の5人に僕で6人。今入ったと思われるヒュプノスさんとニアさんを入れて8人。もう1人は誰だ?
メンバーリストを確認するとそこには「ぐれーぷ」という名前が増えている。ぐれーぷさんも加入していた。一体いつの間に……。
「ぐれーぷさんも入ったんだ…」
「ここに来る前にな」
誘いに行ってたんだ。エニグマやアズマほど付き合いが長い訳ではないけど、比較的よく会うし優しくしてくれるから一緒のクランというのは嬉しい。
「リン、行こぉー」
まだ眠さが抜けない状態のまま、ヒュプノスさんに手を引かれてクランハウスに入る。施設のうちの『庭』に転移して、パネルを操作するば時間や気候を変更出来るという事だけを説明して、草が生えている所へ移動して寝転がる。
ウサギ達が集まってくるのを眺めていると夜になり、少し肌寒くなってくる。天気は晴れで、星空がしっかりと見える。
「じゃぁーおやすみー」
パネルでの操作を終えたヒュプノスさんがこちらへやって来て、先程と同様に抱きついてきた。何処からか取り出した毛布でヒュプノスさん自身と僕を包み、寝た。
「寝るの早っ…」
しかも毎度毎度抱きついてくる力が強い。振り解けないのはステータスの問題なのか、体勢的に力を入れにくいからなのか、それともまた別の理由か。
なんとか抑えていた眠気も再び強まってきてしまう。メニューを開いて時間を確認すると、今は17時ちょっと前。今寝てしまうと夜に寝れなくなってしまいそうだが……。
「あぁ、無理だ、眠い…」
意識が戻るとクランハウスの庭ではなく、草原で寝ていた。
僕にしては寝覚めが良い。眠気も一切ないし、寝た場所も違う。
「どこだここ」
メニューで時間を確認してみると18時半近く。メニューが出たからFFの中ではあるし、意識を失う直前に確認した時間から1時間半くらいは経っているので寝たのは間違いなさそうだ。
立ち上がって周りを見渡してみる。後ろには城壁、前には草原の奥に森がある。それも全部見覚えがある、ルグレとその近くのモリ森。
「なんでルグレに…?」
寝た場所はクランハウスの中だし、クランハウスはサスティクにある。寝ながら移動したにしても限度がある。
それになんか、視界が霞みがかっているように思える。具体的に言うと視界の端が白い。何だこれ。
草原で立っていても仕方がないし、とりあえずルグレに戻ろうか。
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