第76話 戦闘方針
「んぅ…ふあぁー」
涼しい風とわさわさと木の揺れる音で目を覚ます。
いつも通り現在が何時か確認しようと時計を探すが、視界の中の光は月と星のものしかなく、真っ暗で時計は見つからない。
それに、今起きた場所はベッドの上でなく草の上だ。後ろには木がある。
「あー、ね」
腕の近くで寝ているうさ丸を見て全部思い出した。昨日、ご飯を食べたりお風呂に入った後にFFにまたログインしたけど、何かする気にならなくて訓練所で面白い形の雲がないか眺めてたんだった。
仰向けで寝転がりながら雲を見ていたから、時間が経って寝落ちしちゃったんだ。
しかし訓練所内は昼の設定だったし、風は吹かないはずだ。誰かが風が吹くようになるカスタムを購入して適用し、訓練所を夜の設定に変更したんだろう。
メニューで時間を確認すると7時。冬でもこの時間で日が登ってないのはあるかな、ってくらいだし違和感は強い。
グイーっと伸びをしつつ立ち上がり、パネルを操作して訓練所の時間帯を夜から朝、昼と少しずつ変える。これは真っ暗な夜だったのに急にパッと昼になったら、急激な変化で目が痛くなったりしそうだからこうした。
正解だったのかは分からないが、少なくとも間違いでは無いようで、目が痛くなる事もなく無事に昼の明るさに慣れた。
「やっぱり全員オンラインだなー…」
フレンド欄を見て呟く。オフライン表示が1つもない。
もしかしてこのオンラインという表示、ログインしてるかしてないかで表示される? だとしたら、今僕がやっていたようにゲーム内で寝ててもオンラインになる?
…ありそうだ。
「ま、それはそれとして…っと」
もう一度伸びをしてから、うさ丸を持ち上げてクランハウスのホールへ転移してから自分の部屋に戻り、錬金釜を取り出し合成でポーションを作りながらメニューを開く。
今日は火曜日、イベントが開催されるのは土曜日だ。
メンテナンスのお知らせに書いてあったイベントの名前は「大狩猟祭」。前日譚となるクエストが冒険者ギルドで受けれるらしいが、それは今は置いといて。
名前を見る限りでは、このイベントはモンスターか何かを倒す事がメインとなる物だろう。エスパーじゃないし、名前だけでイベントの全てが分かる訳では無いけど、少なくとも謎解きや採取をするような名前はしていない。
つまりだ。戦わなければならない。この戦闘力で。
「んーむ…」
とは言うものの、他の人よりは弱いけど、戦えないって程ではない。戦うという行為自体はそれなりに出来る。
ただ、効率や強さを求めるとなると、今の僕では不安定なのだ。
理由は簡単。戦闘スタイルが定まっていないから。
僕がこれまで行ってきたそれなりに大規模、或いは強かった敵との戦闘を思い返してみる。
まずは森のクマさんこと、モリ森のボスであるフォレストベアだ。あれは過程がちょっと色々あったけど、決め手となったのは落とし穴と毒煙玉だ。
次にルグレからバジトラへ行く際に戦ったゴブリンの集団。僕、ブラン、アリスさんの3人で行ったが、全員魔法使いのステータスだった為、僕がインファイトで数を減らしつつヘイトを稼いでいた。元々近距離で戦うステータスはしてないから最後の最後で運に助けられた。
次、湖底遺跡のでっかい金色のスライム…はいいか。僕は何もしてないし。
最近ではサスティクで迷った時に侵入した特殊マップ。骨はそこまでだが、鎧はそれなりに強かった。1体は落とし穴と魔法陣で倒したが、その直後に別個体にやられた。
と、まあ、これだけ並べれば落とし穴とかで行動を制限しつつ他の攻撃手段を使う、という戦い方をしている。のだが…。
ここで出てしまったのが、昨日の弓の練習なのだ。その練習の成果が、スキルレベルが大量に上がり、複数のアビリティを取得した事になる。
弓の攻撃というのは物理の遠距離。これまでの攻撃手段のどれにも属さない攻撃方法なのだ。
「それだけなら良いんだけど、結構強いのがなー…」
攻撃手段が多いのは悪いことではない。しかし、それは攻撃が同じ物理攻撃同士、または魔法攻撃同士なら、という場合だけだ。
何が困るかって、ステータスの分配が1番困る。物理攻撃に必要なのはSTR、魔法攻撃はINT。物理、魔法両方の防御を捨てたとしても、どっちも使おうとすると片方に全振りした場合の半分になるのだ。しかもAGIもあるし。
また、スキルレベルに関してもそうだ。色んな戦い方をすると、それだけスキルレベルが上がりにくくなる。そうすると、同じレベルの同じステータスで戦ったとしてもスキルレベルの差で負けることもある得る…かもしれないのだ。
「むぅー…」
解決策はなくはない。
僕が使う魔法攻撃は魔術。通常の魔法とは違い、その威力は魔法陣の完成度と込めたMPの量に比例する。僕はいつも込められなくなるまでMPを使っているが、別に途中で発動するのも可能ではあるのだ。
懸念点は魔法陣の作成に必要なMPの量がレベルとINT値に依存する事と、師匠から貰った本の中にあった、読むのにINT値が条件となる物がある事。
そしてもう1つ、僕のレベルは現在11。上がりにくくなると言われている13までもう少しなのだ。つまり、「必要になったらレベル上げてステータス振ろう」というのが難しくなる。
レベルが上がってもステータスを分配せずにポイントを貯蓄するという手もあるが、それなら効率を上げてレベルアップを目指した方が早い。
…でもまあ、INTは151あるし当面は大丈夫か。
ここからはSTRに振る方針で行こう。
そして戦い方について。「使える」と「実戦で使う」というのは違う。どうせなら他の人と被らない戦い方をしたいし、ギルドメンバーを参考にしてみよう。
エニグマは基本は剣、近接格闘とか魔法を使う事もあるし、魔法剣士というのに分類されるだろうか。アズマはタンク。鎧と盾で防御力を上げ、剣も持っているから最低限の攻撃は可能になる。
他3人は直接戦っているのを見た訳ではないのでエニグマからの言伝だ。エアリスさんは双剣を使い、ステータスをAGIメインにしたスピードファイター。アクアさんは見た目通り遠距離から支援する魔法。クロスくんは遊撃担当且つ、本人の性格上様々な武器や攻撃手段を用いて戦うらしい。
「…弓使う人居ないな」
そもそも遠距離攻撃をする人が少ない。魔法担当のアクアさん、遊撃担当のクロスくんもやるかも、ってだけか。
というか。実戦の中でどう戦うか、っていうのを考えようとしたけど、戦闘中に魔法陣は描かないし、魔法攻撃の手段は事前にしか準備出来ないからその場でどうにかするとなるとどうせ物理になるな。
じゃあ魔法とか物理とかはそこまで深く考える必要ないや。
物理攻撃も近距離か遠距離かはその時の気分と状況で変えれば良い…かなぁ。遠距離の方が有利になりやすいしアビリティも多く強いから基本弓を使おう。
結構悩んでた割に案外さっくりと解決した。
「だったら装備も揃えないと…」
弓を使うと判断を下したが、それで終わりではない。
エアリスさんから貰った「レインボウ」も弱い訳ではないが、装備条件が存在しない以上、他と比べるとやはり劣ってしまうだろう。
ただこのレインボウ、装備条件がないにしては強過ぎる気がする。前に武具屋で弓も見たが、これより弱かった…と思う。
少し悩んだ末に結論を出す。いつもの後回しだ。頭の片隅にでも置いておこう。そんな今すぐ困るような事でもないし。
今買っておくべきなのは弓本体ではなく、矢の方だろうか。毒などの状態異常にしてもアビリティにはクールタイムがあるし。
武具の種類や品質はそれぞれの街で違いがある。需要と供給という概念があるが、品揃えや質の違いは街によって需要も供給も違うからだ。
例えば初期の街であるルグレ。ルグレはあまり特徴がなく、街の周りのモンスターも大して強くないので他の街と比べて品揃えも品質も劣る。
これについては、RPGで最強の剣が最初の街で売ってるか、みたいな話になるしゲームバランスの事もあるから当然ない。それは勿論ゲームにもよるが、最初の街に最強の剣が売ってたとしても最終盤とかクリア後でようやく買えるような金額になってるだろう。
先程の需要と供給で考えても同様。意味が分からないくらい高い剣を穏やかでモンスターも弱い街で売っても買う人居るのか? って話になる。ゲーム的な話であればプレイヤーは買うだろうが、NPCからするとそうでもなく、需要は0なので強制的に供給も0になるのだ。
とは言っても、最近はサービス開始時に比べてルグレでも武具屋…というよりあらゆる店の品揃えが良くなった。恐らくプレイヤーがこの街でFFの世界に降り立つから人口が増えた、という事だろう。
要は、需要が増えたことで矢くらいならサスティクとかバジトラと同じ品揃えになってるし、わざわざそっちに買いに行かなくて済むから楽、だ。
しかし防具や武器なんかはサスティク、バジトラなどと比べるとやはり劣る。矢は仕入れや運送が楽だからこうなっているんだろうか。何にせよ僕にとっては有難いが。
「状態異常系はアビリティの方が効果高いし、クールタイムもそんな長くないしお金もあんまり無いし少なくても良いかなー」
前には見なかった鉄製の矢なんかもある。これは少し多めに買っておこう。
そして矢を選びながら思いついたのだが、マルチプルアローを使う時に特殊な矢を使っていた場合はどうなるんだろう。元のと同じものが増えて落ちてくるのであれば、普通は同時に発動出来ないアビリティの状態異常よりも矢自体が状態異常を持っている方が強くなる。
暇な時に試してみよう。
次はポーションを納品するために雑貨屋ぐれ〜ぷへ向かおう。
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