第57話 突然じゃない死
アリスさんからヒュプノスさんは寝てるから起きてる時でいい、という連絡があり、それならまた用がある時に連絡してほしいという返事をした。
さて、錬金術記号のお試しの続きである。
遺跡探索中に考えていた、硝酸と塩酸の記号を使ってそれらを発生させ、混ぜれば王水になるのではないかと考えていた。
硝酸と塩酸の比率は詳しく覚えてないが、作れそうならエニグマに聞けば良いだろう。
「硝酸は…っと」
メモを見て硝酸の記号を確認する。硝酸の記号は円を縦に2等分した線が引かれているもの。物で例えるとコーヒー豆? みたいなのだ。
魔法陣として描き、MPを込めて完成…ではなかった。完成しない。MPは消費したのに。
「何でだ」
考えられる原因としては、何かの条件を満たしてないのか、硝酸の記号は魔術に対応してないのか。
しかし太陽の記号は使えるのに硝酸は使えないとかあるのだろうか。硝酸は対応してないのに、太陽は対応しているのは謎だ。
「塩酸の方も試してみよう」
塩酸の記号は3のようなものが2つ並んで2本の横線が引かれているもの。それを紙に描いて魔法陣を作り、MPを込めてみる。
「やっぱり完成しない…」
結果は同じ。MPは消費したけど、魔法陣は完成しない。アイテム名が「紙」のままであり、「魔法陣」に変化していない。
しかし硝酸と塩酸だけの結果から錬金術記号に関する結論を出すのには、少し早い。錬金術記号はまだ沢山あり、月や火星などの惑星や、時間を表すもの、理科とかでよく耳にする昇華とか蒸留なんかもある。
…のだが、描いてみてもどれも完成しない。
「太陽だけかぁ…」
寧ろ何故太陽だけ完成するのかは謎ではあるけど、結果が全てではある。
王水も僕の数少ない戦力に加わってくれるのではと期待したのだが、そう上手くはないらしい。なんかこのゲーム僕に厳しくないか。
何はともあれ。錬金術記号が魔法陣に使えないのは分かった。
未だに不明な点として、先程突然の死を迎えた、莫大な量のMPを必要とするであろう太陽の記号を複数描いた魔法陣がある。偶然、別の記号とかになってたりするのだろうか。
髑髏の魔法陣と太陽記号が複数並んでる魔法陣を2つ並べて置いてみる。この2つは完成しない魔法陣…魔法陣として成立はしているが、何らかの要因で完成しない物だ。
太陽記号の方は、MPの総量の問題だろうと何となくではあるが予想は着いている。だが、髑髏の方はこれを描いた時からずっと完成しない。何回にも渡ってMPを込めているので、単純に込めるMPが足りないとかだとしたら太陽と同じく僕は一瞬で死ぬだろう。だが今までそれはなかった。
MPの量ではない、何かの条件を以てようやく完成するという事なんだろう。問題はその条件が何なのか、という所である。
「曰く、探究こそが楽しさ」
師匠に聞こうとも思ったけど、調べるのが楽しいんだろうと言って教えてくれない事もあるし、今回も何か教えてくれない気がするので自分で考えよう。
髑髏の魔法陣が表す効果として、予想できるのは最初にこうだったら良いなと思っていた毒、或いは髑髏から連想される死。
しかし睡眠や麻痺といった状態異常属性がすぐに完成した事を考えると、毒ではないと思われる。太陽記号のように、意図せずとても強い毒になっているから完成しない、という可能性もなくはないが…それなるMPが減るのもずっと速いはずだ。
「なら即死属性とか…?」
口にしてはみるものの、即死属性とかあるのだろうか。
このゲームをやる前までMMORPGを知ってはいたが自分でプレイした事はなく、勝手が分からなかったのだが最近ようやく分かるようになってきた。所謂メタ読みというのがある程度はできるようになってきたのだ。
クリア特典で無限に弾が撃てるロケットランチャーとかがあるゲームも今までプレイした物の中にはあったが、こういうゲームではそういうのは無いだろう。
それと同様に、相手を即死させるのはバランスがおかしいのではないだろうか。遭遇した事はないが、PvPの要素もあるのだし。
でも前にやったRPGでは即死させる代わりにアイテムも経験値も貰えない魔法があったような。あれは敵の強さによって変動する確率だったっけ。
「確率…いやそれ以前に完成しない理由が」
即死属性のバランスよりも、何故完成しないのかが問題なんだった。
しかし考えても思いつかないのだが。魔法陣に何か描き足す必要があるとか? いやでもこれ以上描くことないしな。
…等価交換という概念が錬金術以外にも適用されるとしたら、相手の命を奪うのに命を代償とする、とか。
そうであれば、この魔法陣にMPを込めつつHPが肩代わりしても続けHPが0になって死ねば良いのだろうか。
自分の命を捧げて完成した魔法陣で相手の命を奪う。まあそれなりに筋は通っているのでは。こういう禁忌の魔法って代償が付き物な気がするし。
だがそれで確定ではないし、さっき不意に死んだばかりなのにまた死ぬのは…別にいいか。
「そうと決まればやってみよ」
お金は店主さんが貸してくれてる貯金ボックスに預けておこう。さっき突然死んだせいで減ってたし、預けておけば安心だ。
もう1つのデスペナルティである経験値の減少は回避できない。そんなポンポンとレベルが下がる訳ではないが、繰り返していけばレベルは下がってしまう。まあ最近上がったレベル分のステータスポイントもスキルポイントも使ってないから特に問題ないが。
死ぬ準備はできたので、髑髏の魔法陣にMPを込め始める。次第にMPは0になり、代わりにHPが減少するようになる。そのHPバーも減って全てが黒になる、つまり0になると水が見えてくる。
「…」
噴水の水だ。周りを見ると、先程と同じ噴水広場に立っている。
今度は驚きも戸惑いもしない。死ぬ前提でやったのだから。
それにしても、街中で死ぬ事をあまり想定されてないのか雑貨屋ぐれ〜ぷまで戻るのが面倒だ。街の外で死んだ場合は安全な街の中央に戻るというのはそこまで気にならないのだが。
これで完成してればいいなと考えながら雑貨屋ぐれ〜ぷに戻ってくる。
机の上に置いてある2つの魔法陣のうち、髑髏の方を手に取ってMPを込めてみるが、まだまだ入る。普通、完成したらMPは込められなくなる。つまり完成はしてないということになる。
「別に命が必要って訳じゃないのか、数が足りないのか」
どちらも有り得そうだから分からない。意地を張らずに諦めて師匠に聞くだけ聞いてみよう。
これで魔法陣を描くのは終わり。性能のテストはやれる時にやっておこう。
メモしておいた内容で、残りはバジトラの鉱山に行きたいというのだけだ。
ダンジョンらしいし単純に行ってみたい。あと、特定の物が欲しいという訳では無いが、素材はあるに越したことはないので素材集めも兼ねてだ。
現実にある鉄だとか石炭だけでなく、ファンタジーな石や鉱物もあると良いな。爆発する石とかがあれば戦闘に使えそうだし。
「先ずバジトラに行きますか」
バジトラはルグレの隣だから、教会のファストトラベルで5000ソル。往復の1万ソルと、何か買うかもしれない用として2万ソル。合計3万ソルを貯金ボックスから取り出す。
ルグレの教会は街の南東にある。南西門を出ずに城壁に沿って左に向かっていけば着くはずだ。流石に壁に沿って歩くだけなら迷うこともない。多分。
鉱山とはいえダンジョンならば、モンスターもいるのだろうか。
仮にいるとして、どんなのがいるだろうか。鉱山だから鉱石をドロップしそうなモンスター? 岩のゴーレムとか?
それと、明かりってあるんだろうか。先日の湖底遺跡探索では明かりがなかったので暗視ポーションを使っていたが、もうない。3人で行ったから消費量も3倍だったし。
となれば、ランプみたいなのが売っていれば買うべきだろう。暗いのにその対策用のアイテムが無いとは考えにくいし。
考え事をしながら壁の横を歩いていると、教会が見えてくる。
教会の中に入り、大きなステンドグラスの光が差す下で祭壇に向かって手を組むと、ウィンドウに行先選択が出てくるのでバジトラを選択すると視界が光で埋まる。収まっても変化はないように思えるが、確認できてる中ではどの教会も構造は同じなので移動はしているはずだ。
「この空の感じ、間違いなくバジトラ…」
教会を出て見える空は薄暗く、初めて来た時と同じ印象を受ける。鍛治系統の産業が盛んで、それの影響として出てくる煙なんかで暗くなっているんだと思う。
「さて、と…」
ところで、鉱山って何処にあるんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます