第58話 おばけなんてないさ


「お待たせ」


 バジトラの地形が一切分からないという事で、ログイン中かつ暇そうなフレンドにメッセージを送り、救援を求めた。まあ送ったのはエニグマとアズマ、ブランの3人だけだったのだが。

 エニグマとアズマはパーティーでサスティクのダンジョン攻略中で来れないらしく、ブランは暇だったので来てもらった。


「いやー助かる〜」


「凛姉は方向音痴だもんね」


「そこまでではないけどね」


 きっと。

 ブランは僕がエニグマ達と湖底遺跡を調査したりその準備の期間で色々やっていたらしく、既にバジトラからサスティクへ行っている。


「鉱山にはもう行った?」


「まだ行ってない」


 数日ぶりにゲーム内で会ったが、装備がかなり変わっていて、ローブを着ているしとんがり帽子を被っている。ついでに言うとステンドグラスっぽい髪飾りや、白い水晶が嵌め込まれたネックレスなんかも身に付けている。装飾品は魔法攻撃力を上げたり、MPを増加させる効果があるらしい。

 まだ見てはないが、武器も新調したと嬉しそう語っていた。鉱山の中で見るのを楽しみにしよう。


 僕とてずっと同じではなく、変化はしている。

 魔法陣も前より増えてるし、武器だってトマホークが追加された。三叉槍は今は水中でしか使えないが……なんか近接武器ばっかり増えてるような。ステータスは魔法特化なんだけどな。


「マップは買った方がいいよ凛姉。方向音痴もなんとかなるから」


「そんな酷い?」


「昔は出かける度に迷子だったよね。最近はスマホのおかげで何とかって感じ」


 そうだったっけ?


「だから絶対買った方がいい」


「あー、でも何か称号の効果でマップ持てないんだよね」


「……そんな称号あるの? 本当に?」


「あるある。『迷い人』って称号でね」


 ブランに称号の効果を説明すると、やっぱり方向音痴じゃんと言われる。認めたくないけどちゃんと理解はしているつもりだったが、他人に言われると少し落ち込む。

 他愛もない話をしながらブランに案内してもらい、鉱山の入口までやってくる。入口は警備とかもなく、ただの山に空いている穴という印象でしかない。


 ダンジョン内に入るというのもあり、僕は魔法陣とトマホークを、ブランは話していた新武器を取り出す。

 ブランの新武器というのは、ネックレスと同じような白い水晶が木に絡め取られているようなデザインの杖だ。以前バジトラで武器を更新した時は、魔法攻撃力が高いという理由で魔導書にしていたのだが、今回は杖なのか。


「呪われてそうな見た目してるね」


「呪われてないよ。それと強い」


 呪いの装備ってこのゲームにあるんだろうか。

 それはそうと、魔法陣を片手に持ったまま戦闘するというのは少しやりにくい。だからといって使う度にアイテム欄を操作して取り出すのは咄嗟の時に対処できない。今度アリスさんに魔法陣をしまっておくポーチみたいなものの作製依頼をしてみよう。


 鉱山の通路の壁にはランタンが等間隔に吊るされていて、視界は確保できている。ブランを待っている間に適当に寄った店で売られていた、自分用のランタンとピッケルは買っておいたのだが、ランタンは必要なさそうだ。

 店の人から聞いた話によれば、採取ポイントをピッケルで採掘すれば鉱石とかが手に入るらしい。その採取ポイントが分からないのだが。


「凛姉も斧にしたんだね。耕兄みたい」


「あー、そういえばゲーム内で兄さんと会ってないなぁ」


 サービス開始日に僕の保護者枠としてどうとか言ってたような気がするけど、何やってるんだろう。ちゃんと楽しんでるならいいんだけど。

 というか兄さんも斧を使ってるのか。どういうプレイスタイルなんだろう。斧持ってる人ってあんまり居ないイメージだけどな。


「薄暗いなー」


 既に何個かの別れ道を通っているが、モンスターとエンカウントしないし噂の採取ポイントとやらも見つからない。まだ浅いからだろうか。


 そして僕が迷子になりやすい理由が何となく分かった。多分通った道を覚えてないからだろう。或いは道を戻る事をしないからか。

 現にもう通った道を覚えてないので、ブランが覚えてなければリスポーンで帰ることになるが…。まあ探索は始まったばかりだ、死んで戻るにしても後でいいだろう。


 進んでいると、稀にピッケルを肩に担いでいる人とすれ違う。


「結構人いるんだね」


 率直な感想を述べたつもりなのだが、ブランは「何言ってんだコイツ」みたいな目で見てくる。いや、ブランはそんな事言わないからどちらかというと「何言ってるの」か。


「さっきすれ違ったじゃん」


「鉱山に入ってから誰とも会ってないよ?」


「え?」


 じゃあさっきのピッケルを担いでた人達は誰? あんな真横をすれ違って気付かない訳ないと思うんだけどな。

 なんか考え事でもしてたのかなと結論付け、引っ掛かりはするが気にせず歩く。


「凛姉、何も解決してないよ」


 僕としてはこの話は終わりで良いと判断したが、ブランはそうでもないらしい。それもそうか、僕が適当すぎるだけなんだろう。

 でも、だからと言って解決する訳では無い。ブランは誰とも会ってないと言うが、僕はすれ違ったピッケルを担いでいる鉱夫っぽい人と目が合ったし、会釈もした。


 ブランが別の何かに集中していて気付かったとかでなければ、僕は見えていてブランは見えないんだろう。そこら辺のNPCが透明化の手段を持っている筈もないし、僕だけが見えてるのは謎だ。

 一般論では幽霊を認知できるかは霊感の強さにより、強い人は感じたり見たりでき、弱い人は認知できないという。つまり幽霊ではないかという説なのだが、僕は生まれてこの方幽霊を見たことも感じ取ったこともない。霊感が強いとは到底思えないのだけど…。


「なんだろう…」


 最近できるようになったメタ読みというのを参考にすると、わざわざ昼夜特有のイベントなんかもあると言ってゲーム内の1日を現実時間の4分の1の時間にした運営が、ランダムに付与される才能みたいなもので幽霊を認知できるか決めるとは考えにくい。

 つまり何か条件があるのではないか、という事だ。そもそも幽霊と決まった訳では無いが。


「僕とブランの違い…?」


「ステータス?」


「違うんじゃないかなあ。変更不可な物ではなく、頑張れば条件を満たせるようなもの…」


 僕よりブランの方がレベル高いし、その分のステータスポイントの差もある。ブランは相変わらずINT極振りらしいから似たようなステータスである僕が勝っているのはAGIしかないが、AGIが関係してるとはとても思えない。

 仮に幽霊だとして、1番関係しそうなのは魔法系のステータス、つまりINTかMNDだと思う。少なくとも物理ではないだろうからね。

 しかし僕とブランのMNDは同値、INTはブランの方が高いんだから僕だけ見えるのはおかしい。ステータスが高ければ見えるというのなら分かるが、下げる事ができない、変更不可な物である以上低いステータスでのみ見えるというのは違う気がする。


 となるとステータスではないのだろうが、他に努力すれば変えられる点というとアイテム、スキル、場合によっては称号になる。

 アイテムというのは、遺跡があった湖のようにマップを持っていると辿り着けないみたいな条件だ。特定のアイテムを所持している、或いは所持してない状態であれば条件を満たせる、とかそんな感じの。

 今回の場合、待ち時間で買ったピッケルとランタンが鉱山に関係にしてるかもしれない。それを証明するのは簡単だ、ピッケルとランタンをブランに貸せばいい。


「という訳で。はいこれ」


「ん」


 ランタンとピッケルをアイテム欄から出し、ブランに渡すとインベントリにしまった。

 これで僕が見えなくなり、ブランが見えるようになればランタンかピッケルのどちらか、又は両方が条件になる事が分かる。

 …筈なのだが、数分歩いて進んでもブランから誰かを見かけたという言葉は出てこない。僕も見ていないので単純に遭遇してないのかもしれないが、今まで3分に1回はすれ違っていたのに急に居なくなるとかあるのか?

 推測が外れた可能性がある。…いや、1部は正しいのかもしれない。


「居ないけど。はい」


 ブランからランタンとピッケルを返してもらうと、急に男の人が目の前を通り過ぎて行った。返してもらった瞬間に見えるようになったので、ランタンとピッケルが条件に絡んでいるのは間違いなさそうだ。

 しかしそれではブランが見えないのはおかしい。つまり、ランタンとピッケルも条件の1つに過ぎず、まだ条件はあるという事だ。


 アイテム欄を眺めてみるが、鉱山や幽霊に関係ありそうなアイテムはもうない。となると残りはさっき考えた、スキルか称号になる。

 ステータス画面を開いてスキルと称号を確認してみる。

 称号は『動物に愛されし少女』と『迷い人』しかなく、両方とも関係なさそうだ。

 スキルは『魔術』や『タロット占い』なんかも怪しいが、単純に考えるなら『探知』だろうか。


「ブラン、探知ってスキル持ってる?」


「ううん」


 必要条件は揃っている。魔術やタロット占いなんかも持ってないだろうから十分ではないが。


「探知かなぁ? 1回街に戻ってオーブ買う?」


 僕が探知スキルを取得した時は遺跡の宝箱から出てきたが、その時にエニグマから街で売っているからレアではないという話を聞いた。

 エニグマの話が正しければ、街へ行ってスキルオーブを売っている店で探知のスキルオーブも置いてあるんだろう。


「襲ってこないなら無視してもいい」


「じゃあこのまま進む?」


「うん」


 僕が頑張って考えた見えるようになる条件は一体……。

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