第40話 湖を求めて(1)
教会で発生する、ファストトラベル開放の為のクエスト。内容はランダムらしい。僕がルークスでやったように孤児の相手だとか、エニグマ達がやったようなモンスターの討伐だとかアイテムの納品だとか。
バジトラでブランと共に受けたクエスト…最早クエストと呼べるかも分からないが、内容は1万ソルの寄付。NPCからは「1万ソル寄越せ」とかではなく、「できれば寄付していただけると有難い」程度の事しか言われてない。無理なら別のお願いをするとも言っていたのでクエスト内容は再抽選できるんだろう。
ポーションを作って売っているのでお金はあったし1万ソルを寄付してバジトラのファストトラベルを開放。
その場でやりたい事が全て終わったので解散し、ルグレの教会へファストトラベルして戻った。初めてファストトラベルを実行したが、隣の街なら5000ソル、隣の隣だと1万ソルという風に街を1つ飛ばす事に5000ソル加算して寄付しなければならないようだ。
ルグレに戻ってからは急ぎの用事もないのでまったり魔法陣の量産やポーションの作製なんかをしていた。
そして枯渇する水。そろそろ空きのガラス瓶が2000個を超えてしまう。何日も前に対策として水が出るアイテムを探し、結果的に師匠から水のクリスタルを貰ったのだが、魔法陣を描くのにMPを使うせいで水のクリスタルにMPを割けず使えてない。
そうなるとMPを使わずに水を確保する方法を探すことに帰結するわけだが。
「…確か店主さんがモリ森に湖だか川があるって言ってたような」
湖も川も見たことないけど。
念の為店主さんに聞くと、湖は確かにあるらしい。店主さんも行ったことがあると言っていたので、情報は信頼して良さそうだ。だがかなり深い所にあるとのことなのであまり推奨しない、とも言われた。
推奨されないと言えど、水が枯渇…もとい、空き瓶が大量に余っているのをどうにかしたいので行くことにする。例え死んでしまったとしても1回くらいなら問題ない。死んだ時の僕がムキになって再挑戦しなければ大丈夫だろう。
「うさ丸はお留守番ね」
生きて帰って来れるという保証もないし、方向音痴気味である僕はモンスターに勝てても迷って帰れなくなる場合がある。
その時は1回死んで戻ってくる事になるが、うさ丸も一緒に戻ってこれるかは不明である。よってうさ丸は雑貨屋ぐれ〜ぷで待っててもらう。
ほぼ常に頭の上に乗せてるから降ろすと違和感があるね。
戦闘用に魔法陣もかなりの量用意したし、準備は万端だ。
魔法陣といえば昨日描いた髑髏の絵の魔法陣があるが、それが完成しない。MPを全て使いHPも9割ほど削られるのを2回繰り返してみたが一向に完成する気配がない。昨日は毒の魔法陣を作ろうとしていたが、睡眠や麻痺らしき魔法陣と比べてMPの消費が桁違いなのを考えるとこれは毒ではないのでは? という疑念が出てくる。
髑髏から関連するイメージというと毒物か死が思い浮かぶが、そう易々と即死魔術を作れるようにする訳が無いだろう。だが毒ではないという仮説は否定しきれない。
……後で師匠に聞いてみよう。
「今何時だろ」
ゲーム内はもう夜。メニューで時間を確認しつつスクリーンショット機能を起動し、『星占い』で使うための写真を撮影しておく。現在時刻は12時半過ぎ、ゲームをやってると時間が流れるのが早い。
星空の写真を撮っていると森が近くなってきたので、カメラをしまって短剣と金属バット、魔法陣を取り出す。
前にエニグマとアズマとこのモリ森に来た時に、称号を取得してはしゃいで狼を撫でようとして噛まれた事があったが、それでは死ななかった。あの時よりレベルも上がってHPも増えているし、VITが初期値といえど即死はないだろう。
だが狼は鼻が利くし耳も良い……と思う。なので互いを発見するのは狼の方が早い場合が多い。そうすると何が起きるか、答えは簡単、奇襲だ。
奇襲への対処法は特に考えてないし、思い付かない。反応できれば避けるなり反撃するが、森という見通しの悪い場所に加え、今は夜。ほぼ真っ暗な森の中で隠れて攻撃してくる狼に気付くのは困難だろう。
「昼に来れば良かったかな」
余程強い個体だとか弱点を狙われるという事がなければ一撃なら耐えられるはずだ。無警戒で能天気に突っ込むという話ではないが、どうせ無駄ならリソースはそこまで割かなくてもいいだろう。
一応、最低限の事はしている。足音を抑えたり、耳を澄ませて物音がしないか確認したり。
だがそれでも茂みだとか背後から襲ってくる狼はいるし攻撃を受ける前に反応できないので、噛まれてからすぐに短剣を突き刺し、離れてもう一度噛み付こうとしてくる所に金属バットをフルスイングで当てて倒す、というのを繰り返す。
初期の街の近くというのもあって狼のHPは低く、この行程だけで倒しきれる。
短剣と金属バットを使い分けているのには勿論理由があり、気分ではない。最初に噛み付かれた時に短剣を突き刺すのは振りかぶる必要がある金属バットよりも速く攻撃でき、狼が噛み付いていたのを離すくらいのダメージを与えられるから。金属バットをフルスイングして倒すのはリーチが短剣より長いから。
「よし、っと」
単体だけでなく複数と同時に戦闘する事もあったが、回復ポーションを飲んだりして危なげなく進んでいった。
そして時間が経過し……
──迷った。
方向音痴気味、ではなく方向音痴だった。地図欲しい。
既にどの方向から来たのかも分からないし、目的の湖も見つかってない。前に進んでいるのだから後ろへ戻れば帰れる、とも考えたが木に阻まれて少しずつ進行方向がズレているだろうし、恐らく無理だ。
「自殺するか…? いやでも、もう少しで湖が見つかる可能性がなくはない…かもしれないし」
ただしこのまま見つからなかったら時間を無駄にする事になる。
進んでれば必然的に戦闘が発生するので経験値を稼げてレベルが上がるというポジティブな考え方もあるが、当初の目的は果たせない。
「勝手に死ぬまで進めばいいか…」
どうせ何処かで力尽きて死ぬだろうしそれまで適当に進もう。
湖の探索を半ば諦めつつ、効果が不明な魔法陣を取り出す。
睡眠や麻痺が発生するかもしれない物や、「火」と文字で描いた物、なんか四角とか三角を適当に描いたら完成した物、円の中心に点を描いただけの物。
最後の2つは何故か大量のMPを消費した。髑髏みたく完成しないという程ではなかったが。どれも完成の判定は存在していたので発動しない事はないだろう。多分。
「最近自信無くなってきたかも」
錬金術に関する予想が尽く外れていたのが原因だろうか。
思考の3割くらいを考え事に割り振りつつ肩に噛み付いてきた狼に短剣をぶっ刺す。
「ほれほれ」
魔法陣をひらひらと靡かせて挑発させつつ、飛び付いてきた所で発動する。
まず試すのは麻痺…っぽい魔法陣。エフェクトらしいものは無く、狼をひょいと半身を捻って回避すると、狼はそのまま顔面から地面に突っ込んだ。
近付いて観察すると脚がピクピクしていて動かず、目を見るとこちらを睨んでくる。
金属バットを顔面に振り下ろすとゴシャァという音と共に光の粒となって消えていく。
「なんかいつもより音が…」
変だった。全年齢対象じゃなかったっけこのゲーム。
消えていく狼を見下ろしていると、音に寄ってきた別の狼に噛まれる。手慣れた感覚で短剣を突き刺すと、当たり所が悪く目を刺してしまい、一撃で死んでしまった。
「いやあぁぁグロいグロい!」
本当に全年齢対象ですか?! と叫びたくなる。若干柔らかい感触と、目に短剣が刺さった狼の姿。血は出ないが十分グロテスクだ。姿は今までやってきたゾンビゲームとかのおかげでそこまででもなかったが、感触がキツい。
……本当に全年齢対象ですか?
多大なる嫌悪感を抱きつつ、次に試す魔法陣を決める。
試したいというと使った事がない魔法陣全て試したいが、効果が大体分かる物は後回しでいい。麻痺が存在するんだから睡眠もあるだろう、きっと。ほぼ確定だから面倒になったとかでは断じてない。
となると、残りは3つ。そのうちの1つは何となく効果が分かる。「火」と書いただけで魔法陣として成立するのだから火が出るんだろう。これで水が出てきたら笑えるが。
文字で魔法陣を作れるのなら難易度が大幅に下がる。
「どうせ戦闘に使えないだろうし先に試しておこうかな」
「火」と書かれた魔法陣を広げ、発動する。
火が「火」という文字の形で出てくる。
「…はっ、笑える」
しょうもな。
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