VRゲームと錬金術とTSと
ねるねる
第1話 プロローグ
VRMMO。小説やアニメなどの創作物の題材、ジャンルと知られている。MMORPGなどを元に、VRであることを活かして実際にゲームの世界で活動しているかのような物語が存在する。
技術の進歩というのは早く、VRを題材にした創作物が流行した数年後にフルダイブ、つまり現実と変わらない感覚で、しかし現実で体を動かすことなくVR空間での行動が可能になった。
技術が確立した当初はコストも高く一般には普及しなかったが、それも最近になってゲーム機の一つとして発売される程度にまでなっている。
しかしゲーム機の発売直後というのは本体があってもゲーム自体が少ない。
それもフルダイブVRという全く新しい機材なら尚更だ。開発には何年もかかるだろう。VR技術が確立した時点で、計画されていたプロジェクトはあるかもしれないが、現時点で発売されたゲームが少ないことから察せる。
そんな中で大規模なプレイヤーが同時に参加できるオンラインVRゲームが発売されるとなったら、発売された数少ないVRゲームをプレイしていた者も、そうでない者も話題には上がるくらい注目されるだろう。
『そしてまた一人、長門凛という男もこのゲームに興味を持ち、新たな物語が幕を開ける』
「開かないよ。勝手にナレーションしないで」
午後18時28分。数分前に友人の一人である東智樹から電話がかかってきたと思ったら、何の説明もなく語り始めた。
「結局なんなの。ステルスマーケティング?」
「何でそう捻くれた思考になるんだ? 一緒にやろうぜってことだよ」
「一緒に、ね。でも機器ないしなぁ」
「ま、無理にってわけじゃない。興味があったら調べてくれ」
ピロンという音と共に通話が終了する。急にかけてきて急に切るとは…。
正直、VRゲームに手を出すのはまだ早いと思って何もチェックしていなかったのでMMORPGが発売されるというのは驚いた。
何はともあれ、智樹にそこまで言わせるゲームには興味が出たので調べてみることに。
パソコンのブラウザを立ち上げ、【Fictive Faerie】とゲームタイトルを入力して検索する。一番上にあったリンクをクリックすると公式サイトに飛んだ。
公式サイトには正式サービスが開始する日付やゲームの概要だとか、色々な情報が載っている。
ファンタジーな世界で剣だとか、槍だとか、魔法なんかもあり、一応ストーリーも存在するがそれをやるやらないも自由。イベントも現時点だけで幾つか開催の準備を進めているらしい。
プレイヤーキルも可能だが、それが嫌という人向けにPvPをオフにする機能もあるようだ。それもそれで悪用する人もいそうだが。
一通り見た後に公式が運営してる掲示板を覗く。かなりのスレッドがある。βテスト時のものも残っているようで、検証していたプレイヤーの記録などもある。
書き込むことはせず幾つかのスレッドを覗いたあとにメニューから公式サイトのトップに戻る。
「7月22日…? 」
一度見た正式サービス開始日を二度見する。今年の7月22日。僕が通ってる高校は夏休みが7月21日から。つまり買えたら夏休み2日目から遊べるということか。
夏休み直前、明日と明後日行けばもう夏休みというところでこのゲームのことを知れてよかった…のだが、もしやるとしても今から機材とゲームを買おうとしても売切れになっているのではないだろうか。
VR機器とソフトが売ってるか検索してみる。品切れになってるという情報は出てこないし、大丈夫そうだ。
「それとなく言ってみるか」
時は変わって夕食時。頼んでみようとは思ったものの、どう切り出すべきか悩んでいると助け船を出すかのようにテレビでCMが流れたので、それに便乗する形で頼んでみる。
「これ友達に勧められて調べてみたけど面白そうだったしやりたいな」
「凛兄がやるんだったら私もやってみたい」
思わぬ援護射撃が妹である真白から飛んでくる。ナイスだ。
「…調べてから考えておくよ」
兄さんはそう言うと皿を片付けて部屋に戻って行った。考えておく、とは言ってくれたが買ってくれる保障はなく、そこから拒否される可能性もある。
どうかな、と思いつつ真白も興味があるということなのでそれについて少し話してみようかな。
「真白もやりたいんだ。やっぱり真白の周りの子もみんなやるって言ってるの?」
真白は中学二年生だし、受験勉強なんかもないし、と続ける。
「うん」
やっぱり初のVRMMOだし、人気あるんだな。僕が知らなっただけで、真白はもっと前からやりたいと思っていて僕に便乗してやりたいと言ったのかもしれない。
「買ってくれるといいね」
「うん」
翌日、学校にて昨日電話をかけてきた智樹に遭遇する。まあ同じクラスだし当たり前だが。
問題なのは遭遇したことではなくその後、昨日言っていたゲームに関して色々と聞いてくることだ。興味は出たかとか、買う気はないかとか。
あと運動部に入らないくせに高い身長といい感じの筋肉を持った智樹が死角からタックルじみた勢いでくるのは普通に怖い。
「だから分かんないって。兄さんが買ってくれれば一緒にできるし、そうじゃないなら無理」
「頼む~。興味あったらって言った手前執拗に勧めるのは気が引けるけど頼む~!」
智樹は手を擦り合わせて神頼みみたいなことをしている。神様に頼んだって決めるのはウチの兄なんだが。
そもそも智樹だって沢山友達は居るのだし、その人達を誘ってみたらはどうかと提案してみる。
「他のクラスメイトは…うーん、別にそれでもいいんだが仲良いやつとやりたいだろ?」
僕に対して「仲がいい」と言ってくれるのは嬉しくて照れてしまうが、それは遠回しに他のクラスメイトはあまり仲良くないと言ってるようなものではないか。
それはそれで交友関係は大丈夫なのかと心配していると、意識外から背中に衝撃が伝わってくる。
「よっ。何の話してる?」
急に背中を叩かれて背筋がピンとなるほど驚いてしまった。最近は死角から攻撃するのが流行っているらしい。
「お、裕哉。あれだよ、噂のFF」
「成程な。お前らもやるのか?」
話に入ってきたのは深井裕哉。今のクラスは別だが、中学の時に同じ小学校だったらしい智樹を通じて仲良くなった。それからは大体この三人でいる事が多い。
「オレはやるけど、凛はお兄さん次第だって。機器とソフト買ってくれたらいくらでも付き合ってやるってさ」
「いやそこまで言ってないけど」
「神社でも行くか?」
神社に行って祈ろうがお守りを買おうが、決めるのは兄さんなんだけど。
「裕哉もやるの?」
「まあな」
そんな会話をしているとHRが始まるチャイムが鳴り、裕哉が走って教室から出て行った。
先週から午前だけで放課後になる時程になり、それは今日も例外ではない。明日は終業式と掃除とプリント配布くらいしかないだろうし、今日頑張れば夏休み明けまで授業という授業はない。
…頑張るか。
****
あれから授業の合間の休み時間に【Fictive Faerie】について色々教えてもらった。
裕哉はβテストに参加していたプレイヤーの一人らしく、多くの知識を有していたが、それをまだできるかも決まってない状態で聞いても、もし兄さんの許可が下りなかった場合にショックが大きくなってしまうが。
だがこれならもしやれたらそれなりのアドバンテージになる…かもしれない。確実じゃないのは僕が興味が出た職業、というかプレイスタイルにある。
聞いた限りでは職業というシステムがないため、プレイスタイルで何とでも名乗れるらしいが、僕が惹かれたのは錬金術師だ。
偏見かもしれないが、錬金術というのは未知を解明し、不可能を可能にするというイメージがある。かもしれないというより完全に偏見だが。
データを初期化すればやり直しは可能らしいので、若干不遇と言われていたが構わない。
面白そうだしゲームというのは楽しんでやるべきだろう。
できたらの話ではあるけども。
「ただいまー」
一人で勝手にテンションが上がっては勝手に下がってをしている内に家に着いてしまった。鍵は開いていたので真白か兄さん、またはその両方がいるのだろう。
「凛、こっちにおいで」
鞄を置いてネクタイを外しているとリビングから顔を出した兄がちょいちょい、と手招きしていた。
「どうしたの?」
兄さんの後を追ってリビングに入ると、テーブルの上に段ボールが三箱積み上げられている。
「これは?」
「凛も真白も、やりたいと言っていただろう? 調べてみて、面白そうだし俺もちょっとやってみようと思って。保護者的観点もあるけど」
つまり。この段ボールは一箱ずつ、VRゲーム機とソフトが入っているということで?
つまりつまり、今超やりたかった噂のMMORPGをサービス開始の瞬間からプレイできるということで?
「開けてもいい?」
「いいよ。部屋でゆっくり開けな」
兄さんが積み上げられた段ボールの内、上の一つを手渡してくれる。ずっしりとした重さを感じるが、今はそれどころではない。
重さなど無視するかのように段ボールを抱えて階段を駆け上がり、自分の部屋に入ったら段ボールを床にそっと置き、ペン立てから鋏を取って包装を剥がす。
中には二つの箱が入っていた。一つはVRゲーム機であるヘッドギア。もう一つは【Fictive Faerie】、通称FFのパッケージ版だ。
「やったぁ!」
テンションが上がった勢いのまま智樹と裕哉に一緒にできる、と連絡する。
ここで一回冷静になって考えよう。このゲームをやり込むとして、先にやっておくべきことはなんだろう。
「…宿題か」
夏休みの課題。明日は終業式くらいしかないため今日の時点で配られたもので全部だろう。これさえ終わらせてしまえば夏休みに憂うことはない。そうと決まれば全て終わらせよう。
「13時過ぎか。集中すれば終わるな」
高校一年の課題ということもあり、割と簡単なものしかない。集中力が続けば、半日でも終わらせられるだろう。
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