第2話 潜在能力
「剣士として新しいパーティに入るか、一人でやっていくか」
パーティから追放されたものの、思った以上に悲しくはなく、これからのことを考える余裕さえあった。
今はまだお金に余裕はあるが、そんなものはすぐに尽きるだろう。取り敢えずは少なくても良いからお金を稼いでいかないと。
それなら一人でやるべきか、と何となくの予定は決まった。
もう陽も暮れて来ていたため、今日はもう休もうと足を進めていた時
「チッ! なんだよこれは! 適当なこと言ってんだろ!」
「でも! 本当にそうやって見えたんです」
と、どこかで争う様な声が聞こえた。最初の方は無視して宿に向かっていたが、どんどんと大きくなる声が気になり、声がする方へと向かった。
「こんなのでお金が払えるわけがないだろ! 早く返せよ!」
「そんな……。酷いですよ! 相手の潜在能力を見るのは本当に大変なんですよ!」
柄の悪そうな男性一人と、亜麻色の長い髪を持った美人な女性一人のやりとりだった。
個人的な問題なら、首を突っ込むのは野暮だと思ったがそんな様子では無かった。
それどころか、男は今にも女の人に殴りかかりそうな勢いだった。
(流石に止めるべきか)
俺はそう思って足を動かした。
「そろそろ終わりにしとかないか?」
「誰だぁ?」
男は振り返ると、こちらにガンを飛ばしてきた。
「男が女の人に突っかかるのはどうかと思うぞ」
「ああん? お前からボコボコするぞ!」
そう言葉を発するなり男は拳を飛ばしてくる。
「はぁ……」
一つため息をついて男よりも早くに一発の蹴りをみぞおちに入れる。
「がっ!」
その瞬間、男は蹴りが入ったところを押さえながらうずくまった。
「テメェ……」
うずくまりながらも未だにこちらを睨んでくる。
「早くどっか行った方が身のためだぞ」
「クソが……!」
男はふらふらとしながら、不機嫌な様子で立ち去っていった。
「大丈夫か?」
「えっ? ああ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
一瞬驚いた様子を見せていたが、すぐにお礼を言って来た。
改めて容姿をよく見てみると、大人っぽい雰囲気美人な女性だった。垂れ目で落ち着きのある喋り方と言うこともあり、余計にその雰囲気を強くしている。
「大丈夫なら良かった。……えっと」
「ステラです。ステラ・アルシオーネ」
名前が分からず良い詰まっていると、それを察したかの様に、ステラは自分の名前を口にした。
「ステラか。俺はアラン・ギフテッドという。よろしくな」
「はい。アランさんですね」
自分の名前を言うと、ステラは頷いていた。自己紹介もそこそこに、さっきの状況の方が気になっているため話を変えて訊いた。
「ああ。それでステラ。何があったんだ?」
「それはですね。私は相手の生まれ持った潜在能力を見れる『千里眼』という能力を持っているんです」
「へー……。それは珍しいな」
3年以上攻略者をしていても、そんな能力は聞いたことが無かった。
俺が感嘆していると、ステラは言葉を続けた。
「ですよね。だからその能力を使って商売をしているんですよ。自分の潜在能力が気になっている人は多いと思うので」
「すごいな……」
ステラのゆっくりと丁寧な説明を聞いていると、ふと、そんな声が漏れてしまった。需要に合わせて商売をしようなんて、簡単に出来ることではない。
しかし、その能力で一つ疑問に思ったことがある。
「その潜在能力はどれくらいまで見れるんだ?」
「剣技、攻撃魔法、支援魔法、の三つが分かります。でも、生まれ持った潜在能力までなので、努力で身につけた能力までは分かりません」
「なるほどな。——面白そうだな。やってもらっても良いか?」
「ええ、全然大丈夫ですよ」
『千里眼』とやらの能力は普通に気になるし、自分の能力も気になる。見ておいたら対処法も見つかるかもしれない。
俺はステラに指定された金額を渡した。
「では、いきます! 目を瞑っていてください」
ステラは今までのゆっくりとした口調とは打って変わって、真剣な口調に変わった。
言われた通りに目を閉じる。
その後、顔の前に気配を感じた。手をかざされているのだろう。
ステラはその状態で小さな声で何かを唱え始めた。
その数秒後、目を瞑っていてもわかるほどの光が俺の周りを覆っていく。
「……もう大丈夫ですよ」
「…………、あ、ああ」
俺は言われるがままに、ゆっくりと目を開ける。
まるで俺だけ時間が止まっていたんじゃないかと、錯覚させるほどに一瞬の出来事だった。
「……これが、アランさんの潜在能力です……」
何やら文字を書いた紙を渡して来た。しかしステラの様子は今までとは違っておかしく見えた。驚いている様なそんな様子だった。
そんな様子に不審に思いながらも、もらった紙を見てみる。
剣技 100点中(50)
攻撃魔法 100点中(???)
支援魔法 100点中(0)
と書かれてあった。
「ここの攻撃魔法のところなんだが……」
あからさまに変だったところをステラに訊く。数字ではなく「?」の文字で書かれてあった。
それ以外の二つの能力はがちゃんとした数字なため、不自然さが余計に目立つ。
「ごめんなさい」
俺の問いかけに深々と頭を下げて謝ってきた。
「多分なんですけど、アランさんの攻撃魔法の潜在能力が高すぎて、私の能力じゃ測りきれなかったのだと」
あくまで予想ですよ。と、説明の最後に保険をかける様に付け足して来た。
どういう事だ……。俺は今まで剣技だけを極めてきた。今年でもう18歳になる。歳から見てみても、10年以上は剣の修行をし続けてきた。
それなのに今頃になって、魔法の方が向いていたとでもいうのか。
「もう一度金を払う! だからもう一回能力を見てくれないか!」
「は、はい。良いですよ」
俺は今までして来た努力を無駄だと言われた気分に陥っていた。それがどうしても、納得できなかった。
しかし何回やっても結果は全く同じだった。1回目と変わらず全く同じ数字。
それでも俺は諦めきれなかった。
「もう一回!」
「もうこれ以上は……」
「頼む! お金も倍払う。これで最後だから」
「…………分かりました」
ステラは俺の気迫に押されたのだろう。渋々ながらも首を縦に振った。
「本当にこれで最後ですよ」
「ああ、分かってる」
一言忠告した後、ステラは始めてくれた。
「はぁはぁ……。これが、アランさんの潜在能力です……」
受け取った紙を見てみると、結果は変わっていなかった。
「師匠! 俺絶対に師匠に教わった剣で世界に名を轟かせて見せます!」
「それは楽しみにしてるぞ」
「アラン。これからもずっと剣を続けようね」
「当たり前だ」
師匠とも幼馴染とも約束したのに…………。
バタン
気分が沈んでいると、何かが地面に叩きつけられる様な音がした。
その音がしたことによって我に戻った。
「ステラ⁉︎」
「はぁ……っ……」
ステラが苦しそうな息遣いをしながら倒れていた。
その時、ステラと男が言い争っていたときの言葉を思い出した。
『相手の潜在能力を見るのは大変なんですよ!』
やってしまった……。そりゃあ相手の能力を見るなんて、とてつもない能力を酷使していたら、倒れるのは分かりきっていた。
なのに……。
いや、今は悔やんでも仕方がない。
ステラを抱えると全速力で走り出し宿に向かった。
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