第37話 それぞれのおもい

 ここは桃源郷とうげんきようかな?


「直木さま~、わたくしがお背中を流して差し上げますわよ~」

「直木さん、トレーニングばかりだと汗疹あせもができますよ?」

「ナオキは空島のときも、裸の女神様とべったりだったからな。もう慣れたものだろう。お湯のかけ合いっこなら負けないぞ?」


 ヴォルベーヌ火山帯が一望できる物見ものみやぐらのヒノキ風呂から、お兄ちゃんを誘惑する婚約者一同さま。


 お兄ちゃんは腕立て伏せをしながら、お風呂が目に入らないように、境界へティノちゃんを座らせています。

 浴衣姿かわいいです。

「おいティノー、壁役はもういい」

「おや? ついに桃源郷を眺める気になりましたか?」

「いや、妹とポジションを代わってくれ。腕立て伏せのメニューに重量を加えたい。ただ、妹では重すぎるんでな。ティノーが背中に乗ってくれると助かる」

 ちょっ!?

 聞き捨てならないんですけどっ!

「承知しました」

 ティノちゃんも、さりげにわたしを横へずらさないで。


 すると、入浴中のディーネちゃんは、きゃしゃな女の子アバターの口内から、青色ゼリー成分をにょきにょき伸ばして。

「わたくしが手伝って差し上げますわっ!」

 お兄ちゃんの背中にへばりつきました。

「お、おい、やめろ」

「わたくし、ティノーさまより身軽な自信がありますのよ?」

 巻き込まれたティノちゃんは、浴衣がぐしょぐしょ。

 お兄ちゃんってば、背中にふたり乗せた状態で。

 ぷるぷる、ぷるぷる。

「お、俺は、たとえ崖から落ちそうになっても、ふたり分の重量を、片手かたて懸垂けんすいで持ち上げられる、そういう男だ……」


 うん。

 わたしは『あきらめる』に一票。

 だってほら。

 梨乃ちゃんまでお風呂から上がってきて。


「私はたぶん、ティノーさんと近しい重さですが、クラゲ星人より重たいぶんは、愛の質量とおもって受け止めてください」


 小柄で背筋をピンと伸ばした梨乃ちゃんは。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。

 ぐちゃっ。


 あわわっ、ディーネちゃんを物理的につぶしました。

 お兄ちゃんの背中のくぼみに、横座りしています。


 なかなかの絵面です。

 ティノちゃんは、おしり寄りで、女の子座りしています。

 ディーネちゃんは、ふたりに潰されてなお、背中にほおずりしています。


 びき、ビキ、ビキキッ。

 筋肉の、悲鳴でしょうか……。


「ナオキ、私も邪魔するぞ」


 あっ、おっぱい魔人さんが。


 梨乃ちゃんとティノちゃんの隙間に、割り込みました。

 なんと馬乗りです。


 ビキキ、ビキィィ――ッ! カクンッ――。

 どしゃっ。

 ぐしゃ、むにゃ、べちゃ~ん。


 お兄ちゃん。

 びしょびしょの女の子まみれになって。


 う~ん、でも。

 あれじゃあ何も見えないし。

 背中のツボマッサージと、そう変わらないかもね。

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