第34話 トレーニングの成果

 おもってたより、強いのかも。

 黒の剣士さんじゃなくて。

 お兄ちゃんがね。


「オラオラオラァー、俺が知っているラノベのライバルどもは、もっとマシな踏み込みで剣を振るっていたぞ!?」

「くっ、貴様、何者だ……」

「妹のボディーガードだ」


 まだ言ってるし。

 お兄ちゃんってば、飛んでくる火球を剣で切り払って、大剣の横やりも平たいところをうまく蹴り返すし。

 そのまんまくるんって回転して、スライディングから相手の足をもつれさせています。

 黒の剣士さん、背後から首を絞められて苦しそう。

「うぉご、おのれぃ、魔法で筋力を増強させても、なお振り払えんとは、ごほっ、ごふぁっ」

「ばかめ、なぜ自分だけが筋力を増強させていると考えた」

「ぐぬ、もしや、あれほどの変則的な動きを見せながら、光の窓すら出さずに魔法を使ったのか……」

「条件が同じであれば、日夜トレーニングで鍛えている俺のほうが筋力は勝るというわけだ。さあ、この黒いかぶとは、客へのサービスでがせてもらうぞ」

「ぬぅお、や、やめろ、おのれぇぇ――――っ!!」


 とっても、悪役らしい叫びでした。

 黒の剣士さん。その正体は――。


 金髪ロン毛で、ヒゲはたくましく。

 わりかし身分が高そうな、おじさま、かな?


「ち、父上っ!!」

 ティアラさんが叫びました。

 お兄ちゃん、唖然としています。


「バレてしまっては仕方がない。オレの名はジョルジュ・ルイス。娘のティアラを空島で鍛えようと画策したところ、ゴミ虫めが一匹くっついてきたので払ってやるはずが、まさかこれほどの実力者だとは、感服したぞ」

「それは事実か?」

 あれ、お兄ちゃん半ギレです。

 そのまま続けて。

「ティアラさんはな、あんたの嫁さんを助けるためにえらく苦労していたぞ。それをあんたは、ほくそ笑みながら傍観していたというのか?」

「あ、いやその、ちょっと……」

 ジョルジュさんは、耳元まで近づくなり、小声になって。

「(嫁のキララとは、監獄プレイを楽しんでいたに過ぎん。ちょ~っと食料を調達しに行ってた隙に、キララどころか他のお客さんまで全員連れ去られちまって、あれはどんな手品だ?)」

「ふむ……それは邪魔したな」

 あれれ~?

 ルイス家のパパさんも頭がおかしな人かな?


 冒険者ギルドの支部長さんが、生還も救助も絶望的だと説明している場所で、監獄プレイ? キララさん、ちょっと苦い表情だったのは、そういうこと?


「(おう、ふつうの冒険者にはアブねー区域だからな。助け出す方もガチな活躍ができるし。やたら満足度が高けぇってんで、ギルドも役者魂を燃やしちまってるわけよ)」


 ギルドぐるみの、マッチポンプでした。

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