第29話 再会

 空島へ上がる方法をつきとめました。


 ほんとはギルドに大金を積まなきゃですが、はやりの女神像をいくつか進呈したところ、手練てだれの冒険者まで案内人として付けてくれる大盤振おうばんぶる舞いでした。


 飛龍ひりゆうのカゴにのって、アンダレイ山脈まで空の旅を満喫したあと、冒険者さんの転移能力を使って、島の一角までたどり着きました。


 ここで、報告です。

 じつはお兄ちゃんってば、あれから目を覚ましていません。

 ディーネちゃんも梨乃ちゃんも心配で心配で、無意識のうちにぱくぱくと間食が進みます。

 ちょっと顔がふっくらしたかも?

「梨乃さま! そのクラゲフライの串焼きは、わたくし、タレの味が染みたころに食べようと、名札までつけて共有ストーレージへ収めておきましたのに、どうしてしれっと食べてしまいますのっ!?」

「ごめんなさい。まさかクラゲ星人がクラゲを食べるとは思いませんでした」

「ぬぁんですって~っ!!」


 ストレージというのは、別の空間にモノを入れておけるポケットみたいなものです。

 異世界では『ひらけ友愛ゆうあい』と念じれば、光の窓が、空中に浮かび上がります。

 その光の窓には、収納以外にも魔法、図鑑、ギルド連絡帳などすぐれた機能があり、ティノちゃんが解析を済ませてくれたおかげで、今後は地球でも使えるそうです。やったー!


 さて、目的地に到着しました。

 頭上から光がさしこむ、鍾乳洞しようにゆうどうみたいなところ。


「直木さまっ!」「直木さんっ!」


 青いマントを体に巻いたティノちゃんが、急ごしらえな雑草クッションの上で、お兄ちゃんを膝枕していました。


 ちゃんと意識は戻りそう?

 わたしも不安です。


 金髪の剣士ティアラさんは、この三日間、ティノちゃんのことを『女神様だ!』とあがたてまつり、通信でちょこちょこやりとりするときも、行儀が良すぎる節がありました。


 じかに会うのは初めてなので、まずは自己紹介します。

「直木さまの婚約者をしております、水の妖精、ウンディーネと申します。直木さまとは名実ともに一心同体でございます」


 すると梨乃ちゃんが、やや控えめな声で。

「直木さんと私は、運命の赤い糸で結ばれています。私より相性のいい女性なんてこの世にはいません。ティノーさんのお墨付きです。直木さんとの結婚は秒読みの婚約者、江上梨乃です」


 妹の、神場妹です。よろしくねっ!


 すると、ティアラさんは、困ったような表情で。

「ああ、なんだ、君たちのことは、ナオキの追っかけくらいに思っていたが、驚いたな――。私は、身も心もナオキに捧げた貴族きぞくの剣士、ティアラ・ルイスだ。母を助けるためにこの島へ潜入したが、用が済めば今すぐにでも、ナオキと結婚する腹づもりでいる。ナオキが望むのであれば、妻でも奴隷でも何人囲おうが私はかまわん。ただし私がナオキの一番だ」


 うわわぁ~。

 ディーネちゃん、目からゼリーが流れ出ています。

 梨乃ちゃんも、ひらひらワンピースに歯形が付きました。


 すると、ティノちゃんの膝枕からむっくり。

 お兄ちゃんが起き上がります。


「ん、ん~……。おい、ここはどこだ」


 あれ、記憶喪失かな?


「いや、記憶はあるぞ。たしか俺は、そう、グリーンドラゴンにやられて――」


 徐々に、記憶を呼び戻すうちに。

 はたと目を輝かせて。


「ひっくっ!」


 しゃっくりをしました。

 そこから先は、猫みたいな動きで。


「ああ、ティノー、かわいいよ、すべすべだ。ひざも、すべすべだ。むねも、ふにふに、だいすきだ。ああ、俺と結婚してくれ。いますぐにでも結婚してくれっ~」


 お兄ちゃんが、壊れたっ!?

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