第21話 バーベキュー

 わが家には、ルーフテラスがあります。

 いつかたくさん人を呼んで。

 バーベキューがしたいな~と考えていました。


 わたしがつくった人工知能、妹式ティノーちゃんも、生まれて六年間ため込んだ『人間になったらやりたいこと』が、たくさんあるそうです。


 よーし。

 叶えられるときに、さくっと叶えちゃおーっ!


 ティノちゃんは、アプリの中からそのまま出てきたような美少女アバターを使って、まずはお兄ちゃんに、お肉を焼いてあげています。


「はい、あ~ん」

「あ、あーん。(ぱくっ)」


 ブチン。


 あ、梨乃ちゃんがキレましたね。

 わたし知~らないっと。


「あの、直木さん? 私の『あ~ん』は断っておいて、どうしてティノーさんの『あ~ん』は、お口にできるのですか?」

 すると、ティノちゃん。

 いたずらな笑顔で、にしし。

「何をおっしゃいますか。あのときのお兄さまは、彼女ができるまで食事は抜きという誓約を守っていたに過ぎません。そして今、私の『あ~ん』を口にしたということは、もはや誓約は果たされたと、お兄さま自身が認められたわけです! さてはて? 彼女とはいったい誰のことですかね~?」

 わざとらしく目配せして、あなたですよアピール。

 梨乃ちゃんは、ぼわっと顔を赤らめて、とろけちゃいました。


 とそこへ。

 青髪を長くしなやかに伸ばした人間アバター、ディーネちゃんが、きゃしゃな左腕でその髪をふぁさぁ~っと払いのけます。

 つんっ、胸を張って。

「わたくしのことですわねっ」

 さっそうと彼女枠をかっさらいました。


 梨乃ちゃん、負けてられません。

「ディーネさん。あなたはあくまで、地球が滅亡しないように、親善大使としてここに置かれている身分です。本来は、あなたみたいなクラゲ星人は、存在そのものがアウトなのです。ティノーさんも計算外だと明言していますし」

 この宣言に、ディーネちゃんは、バーベキューの串からピーマンだけを皿に抜きわけ。

 お肉の香りをすぅーっと味わいながら。

「甘いですわね。たとえわたくしが計算にあらずとも、直木さまが心から想うお相手に『あ~ん』を迫られたならば、手料理だろうと、冷凍食品だろうと、迷わず食べてくださったはずです」


「うぐっ……」


「そして直木さまは、わたくしの口からエレメントの『あ~ん』を受け入れてくださいましたの。あれぞまさしく、わたくしを彼女たらしめる『あ~ん』であったと、ここに宣言いたしますわ」


 ふたりが争っているあいだにも。

 ティノちゃんは、お兄ちゃんをつかって、串の具を分けあいっこするイベントや、タレで汚れた口をティッシュで拭いてあげるイベントなど、叶えたかった夢を順調に実現させています。

 梨乃ちゃんとディーネちゃんは、彼女の座をかけた真剣勝負に突入していますから、めいっ子のティノちゃんなど眼中にありません。

 いよいよ梨乃ちゃんの肩が、怒りで震えはじめました。

「だ、だ、黙って聞いていれば言ってくれますね、このクラゲ星人。あの『あ~ん』は、度重なる断食で疲弊されていた直木さまを回復させるために、やむなく行われた医療行為だと、心のなかで何度も言い聞かせて、ノーカンにしてあげるつもりでしたが、もう許せません。殿方のファーストキスを無理矢理奪っておいて、あれこそが彼女たらしめる『あ~ん』だとか、クラゲ星人には恋愛のいろはが通じないのですか? あ、クラゲですもんね? 通じなくて当然でしたねっ!」

 ここまで冷静だったディーネちゃんも。

 冷たさの質を変容させて、ちょっとおこな空気が。

「わっ、わたくしのことでしたら、いくらけなされても我慢できますが、母星のみんなのことまでバカにされては、きっちり謝罪をいただきませんと、お母さまに顔向けできませんわっ!」


 ねえ、ふたりとも。

 お肉が焦げちゃうから、はやく食べましょ?

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