第451話 魔人の不死者との戦い

 部屋は広い。とはいえ室内。使用できる魔法は限られる。

 巨大な火球でなぎ払えば、クルスたちにも被害が及ぶ。

 だが、弱い魔法では、元勇者には全く通じないだろう。


 俺は魔力弾を細く鋭くして、元勇者へと撃ち込んだ。

 魔力弾は元勇者の硬い皮膚をつらぬいて、腹から背中へと抜ける。

 即座に傷は再生された。あっという間に腹部の傷も背中の傷も跡形もなくなった。


「やはり再生が速いな」

『アル、接近するか』

 遠距離攻撃でダメージを与えるのが難しいと考えたフェムが聞いてくれる。


「いや、大丈夫だ。こうするからな」

『どうするのだ?』


 そのフェムが尋ねた瞬間、元勇者の腹部が爆発した。

 魔力弾をただ貫通させたように見せかけて、体内に魔力の爆弾を残しておいたのだ。


「やはり、体表は硬くとも体内はそうでもないようだな」


 腹部が大きく吹き飛んで、元勇者の攻撃が止まる。

 たちまちクルスたちが猛攻を仕掛ける。

 浅くない傷が無数に元勇者につけられていく。


「このまま押し切るよ!」

 クルスが叫ぶ。前衛たちの攻撃はますます激しくなった。


「ぐおおおおおおおおお!」

 無数の傷を負った元勇者が叫ぶ。

 すると、体が巨大化していく。背中から羽が生え、手足は伸びた。

 爪と牙が鋭く長くなっていく。

 その姿は完全に人ではない。明白に魔人だ。


「……あぁ、主よ」

 モコが元勇者の姿を見て嘆くようにつぶやいた。


 その間も元勇者は変質を続ける。

 ついに元勇者の皮膚が金属光沢を持ち鈍く輝きはじめた。


「はぁ!」

 クルスが変質しつづける元勇者に斬りかかる。

 聖剣が元勇者の首に直撃した。激しい金属音が鳴り半ばまで斬れた。

 いや、半ばまでしか斬れなかったと言うべきだろう。


「硬い! 本気で斬ったのに!」

 当代の勇者クルスが本気で聖剣をふるって、切断できなかったのだ。


「クルスが斬れないなら、私にも無理ね!」


 ルカがそう言って少し距離をとった。

 剣聖であるルカの力量が不足している訳ではない。剣が持たないのだ。

 ルカの剣も魔法のかかった一流の品だが、聖剣ほどではない。


 ルカならばある程度斬れなくはないだろう。

 だが、再生速度を考えると無意味な程度しか傷つけられまい。

 だから、ルカは剣を消耗させないために一度退いたのだ。


 そして、退いたルカと入れ替わるようにしてエクスは突っ込む。

 元勇者の魔人に斬撃を加えた。


「とおおおおおおおおお!」

 気合いの咆哮を上げるエクスの斬撃は魔人の腕を半ばまで斬る。

 だが、そこで剣が折れた。

 エクスは剣が折れたことにも慌てることなく、すぐに後方へと飛んで距離をとる。 


 そんな前衛に向けて魔人の魔法攻撃が飛ぶ。基礎的な魔法である魔力の矢である。

 だが、威力がすさまじく、速さも尋常ではない。

 前衛たちも身を躱すので精一杯だ。


 その上、魔人の再生能力は金属になっても衰えていない。

 むしろ、再生速度が上がっている。クルスやエクスのつけた傷はすでに完治していた。


 かわしながらエクスは新しい剣を抜く。それは、これまで使っていた物より一回り短い剣だ。


「多少の傷は覚悟して前に――」

 エクスが前に出かけたところで、俺の肩の上に乗っていたチェルノボクが叫ぶ。

『ふしごろしのや!』


 俺は慌ててエクスに擦りかけた魔力の矢を打ち落とす。

 使ったのは魔人同様に魔力の矢だ。


「矢には少しもあたるな! 不死殺しの矢だ!」


 俺は改めて皆に教える。

 俺がクルスたちと一緒に先代の魔王を討伐した際。

 先代魔王が死に際に放った不死殺しの矢をひざに食らって大変な目に遭ったのだ。

 魂を直接傷つけ、治癒を阻害する様々な呪いが込められた恐ろしい攻撃である。


「不死殺しの矢? それは危ないわね。エクス、食らってはだめよ」

「わ、わかりました」

「確かにかすかにだけど、怪しい気配をかんじますね!」


 死王チェルノボクだけでなく、クルスも危険性を感じたらしい。


「先代の魔王より、危険な気配を隠すのがうまいようだ」


 俺がそう言うとクルスは頷く。

 危険な気配を隠すのがうまいから、一度見たことのあるクルスたちもすぐには気づけなかったのだ。


 その間もずっと魔人は不死殺しの矢を打ち続けていた。

 前衛たちは少し距離をとって、不死殺しの矢を回避し続けている。

 後衛は俺やティミが不死殺しの矢を打ち落とすことで、守り続けている状態だ。


「攻めに転じることも難しいわね! アル、どうする?」

「そうだな。魔法で……」


 俺がルカの問いかけに返事を仕掛けると、エクスが叫んだ。

「剣で触れたときコアの位置がわかりました! コアを覆う結界には剣も魔法も通じませんが破壊神の権能なら壊せます!」


 コアの位置と壊し方がわかったのは、破壊神の権能のおかげなのだろう。

 強力な権能だ。


「でかした。で、結界はどこだ?」

膏肓こうこうのあたりです」

 膏肓とは、心臓と横隔膜と間あたりのことだ。


「それは、身体の奥深くだな。破壊神の権能で直接コアを壊せないのか?」

「無理です! 結界を露出させれば結界すら壊せません!」

「膏肓を露出させる必要があるのか」


 中々難しいことを言う。


 不死殺しの矢をかいくぐり、無尽蔵な再生能力を上回る攻撃を浴びせなければならない。

 しかも、肉体自体が金属へと変質し、耐久度が跳ね上がっている。

 剣や魔法を使っても容易に魔人を傷つけることができない。


『さわれば、よわくできるよ! ぴぎぃ!』


 チェルノボクが言う。それは死神の使徒の権能だろう。

 魔人であると同時に不死者。ならば死神の使徒の権能が通じるのは当然である。


 だが、戦闘力に乏しいチェルノボクが魔人に直接触れることは難しい。

 ならば、俺がチェルノボクを魔人の元へ連れて行くしかあるまい。


 そう俺が考えたことは皆もわかったようだ。


「援護は任せるが良い! モコとベルダの防御も任せよ!」


 ティミショアラの攻撃が激しくなった。

 モコやベルダの方向に飛んだ魔人の不死殺しの矢も、ティミが打ち落としてくれる。


「助かる! フェム!」

『任せるのだ!』


 フェムは名前を呼んだだけで、俺の意をくんで走り出してくれた。

 不死殺しの矢を華麗によけつつ、魔人に接近していく。


 俺もフェムの背から魔法を放つ。

 魔法の矢で、不死殺しの矢を打ち落とし、魔力弾などの発動の容易な下級魔法で手数を稼ぐ。

 下級魔法でも、俺が本気ではなっているのだ。威力は高い。


 魔人はほとんど防御を無視して攻撃しているので、魔力弾をどんどん食らう。

 食らうたびに魔人の金属の身体がベコリとへこむ。だが、すぐに元の形に戻っていく。


「再生能力はさすがだな」


 フェムに乗った俺が前衛の間合いまで出たとき、魔人は不死殺しの矢を手から放ち続けながら、額に第三の目を開いた。

 その目は白目の部分が赤く、黒目の部分が銀色だった。

 次に口を大きく開ける。口は耳まで裂けて、真っ赤な舌と鋭くて長い牙が見えた。


 ――キイイイイイイイイイイイイィィィィィ……


 かつて生物だった者が発したとは思えない無機的な甲高い音が魔人の口から響く。

 その音は非常に強い魔力を帯びていた。


 それを俺とフェムは至近距離で食らってしまった。

 俺も頭が強烈に痛くなる。フェムが足をもつれさせて転倒する。


 そこに不死殺しの矢が降り注ぐ。俺は必死になってすべてを撃ち落としていった。

『すまない。だ、大丈夫である』

「フェム。気にするな。そして無理もするな」


 フェムは一生懸命立ち上がろうとしてくれるが、甲高い鳴き声は止まらない。

 足が思うように動かないようで、中々起き上がれていなかった。

 俺はフェムから下りて、魔人とフェムの間に立つ。

 そして頭痛に耐えながら、魔法の矢で不死殺しの矢を撃ち落とし続けた。


 俺の肩の上で、鳴き声をまともに食らったチェルノボクはほとんど気絶していた。

 俺の懐の中に居るシギショアラも大人しい。気絶していてもおかしくはない。


「な、なにこれ……」

「この鳴き声は呪いと魔法の混合なのだわ」

 ルカがひざをつき、ユリーナがよろめく。


 そしてエクスはバランスを崩して、派手に転倒した。

 起き上がろうとするが、手足がもつれている。


「きっついなぁ……」

 精神魔法への耐性が非常に高いクルスも頭を押さえている。


「皆落ち着け、不死殺しの矢は俺に任せろ」


 俺はクルスたちに向かって飛ぶ不死殺しの矢もすべて撃ち落とす。

 時間を稼げば、耐性の高いクルス辺りから鳴き声になれて攻勢に転じてくれるだろう。

 それまで時間を稼がねばなるまい。


「もっも!」

 モーフィはその背にヴィヴィとベルダを乗せたまま、一気に距離をとる。

 モーフィ自身も相当きついはずだ。だがヴィヴィとベルダを守るために頑張っている。


 そのモーフィにティミは並走する。

 竜だけあって耐性が高いのだ。それでも頭が痛そうだ。


「まずいぞ、アルラ! 古代竜の我でもきついほどである!」

 そういいながら、不死殺しの矢を撃ち落としつつ、魔人に攻撃を仕掛けてくれていた。

 ティミも頭痛に苦しめられているようだが、手足がもつれるほどではないようだ。

 ティミの活躍で、戦線の維持が格段に楽になっている。


 一方ヴィヴィは、

「ここまでとは思わなかったのじゃ!」

 青い顔をして脂汗を流しながら、ベルダがモーフィから落ちないように支えていた。

 そうしながら、右手から自分の刻んだ魔法陣に魔力を飛ばした。

 すると無数の魔法陣が青くぼんやりと光る。


 同時に、頭痛がかなり治まった。


「魔法防御系の魔法陣を仕込んでいたのじゃが、ここまでの威力とは思わなかったのじゃ。効果を消すのは無理じゃ!」

「相当ましになった、助かる」


 ルカやユリーナ、エクス、それにフェムは、それでも戦線復帰は難しそうだ。


 だが、抵抗の高いクルスは動き出す。


「ヴィヴィちゃん、ありがと!」


 クルスが一気に攻勢に転じる。

 不死殺しの矢を聖剣でたたき落とし、魔人を斬り刻んでいく。


 クルスの猛攻が、魔人の再生速度を上回りかけはじめる。

 だが、ヴィヴィの魔法陣が一つずつ砕け始めた。


「わらわの魔法陣では、長く持たないのじゃ!」

 しばらく抑えられるだけで、充分凄いのだ。


「わかった!」


 クルスの攻撃が一層加速する。

 ヴィヴィの魔法陣が効果を発揮している間に押し切るつもりだ。

 俺もクルスに加勢して、クルスに襲いかかる不死殺しの矢を撃ち落としながら、魔人に魔力弾を叩き込む。

 当初使った、先端を尖らせて体内で爆発させる術も使う。


 俺とクルスの攻撃により、徐々に魔人の身体が崩れ始める。


「もう少し!」

 だが、ついにヴィヴィの魔法陣の最後の一つが砕け散った。

 途端に鳴き声の効果に襲われる。

 頭が割れるように痛い。魔法の制御が難しい。手足がもつれた。


「す、すまぬのじゃ」

 ヴィヴィはモーフィの背の上で、気を失いかけながら言う。


「今度こそまずいのではないか! アルラ! シギショアラは我が預かろう」

 ティミが叫ぶ。

 ティミはシギを連れての撤退を視野に入れているのだろう。


「りゃ?」

 自分の名前を呼ばれたからか、シギが顔を出した。

 この悲惨な状況だというのに、きょとんとしている。

 まるで魔人が放つ呪いの鳴き声が全く通じていないようにみえた。


 シギは周囲をキョロキョロと見回してから、魔人に目を向ける。

 そして大きく目を見開くと、くしゅーっと鼻から息を吐く。

 なにやらシギは怒っているようだった。


 母を殺した魔人という種族が目の前にいるということに怒っているのか。

 魔人の鳴き声自体に怒っているのか。

 もしくはその両方に怒っているのかわからない。

 だが、とにかくシギは怒っていた。


「ティミ。シギのことを頼む」

「了解である!」


 これから俺は状況を打開するために攻撃に専念しなければならない。

 ならばティミにはシギの保護に専念してもらう方が安全だ。

 そして、余裕を持って状況を打開する手段が見つからない以上、ティミにはシギと一緒に脱出してもらうべきだ。


「シギ。ティミと一緒に行きなさい」

「りゃ!」

「叔母さんと一緒に行こう、シギショアラ」

「りゃーりゃ!」

「わがまま言わないの。俺も後からすぐに行くから」

「りゃ!」


 そんな会話をしている間も、俺は不死殺しの矢を撃ち落としているのだ。


 魔人の鳴き声のせいで、割れそうなほど頭が痛い。

 先ほどよりも鳴き声の威力が上がっているようだった。


 手足がもつれそうになるのを、全力で押さえつける。

 不死殺しの矢の迎撃には精密な魔法操作が必要とされるというのに、鳴き声が邪魔をする。

 迎撃に失敗したら仲間たちに不死殺しの矢が直撃してしまう。


 余裕がない。攻勢に転じる糸口すら見えない。


「りゃーりゃ!」

 というのに、シギはいやいやをして、ティミに抱っこされるのを拒否している。


「シギ。わがまま言わないの。……む?」


 俺も、そして古代竜のティミも、そして勇者クルスだって、鳴き声に苦しんでいる。

 だというのに、なぜかシギは全く苦しそうではない。


「……シギ?」

 シギは小さな口を大きく開くと、

「リャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 魔人めがけて大きな声で鳴いた。


 シギの声には魔力が乗っていた。それも普通の魔力ではない。

 俺も見たことのない魔力だった。あまりにも濃い魔力だ。

 見えないはずなのに、俺にはシギの鳴き声が部屋に広がるさまが見えた気がしたほどだ。


 魔人の鳴き声とシギの鳴き声の魔力の乗った波がぶつかり、なんとも言い表せない音が鳴り響く。

 あえて言うならば「リイイイイイイ」が近いだろうか。


 そして、不快で頭痛をもたらした魔人の鳴き声がかき消されていく。

 数秒後には、シギの「りゃあああ」という可愛らしい声が部屋を満たした。

 依然として、魔人は鳴き続けているが、シギの声に上書きされている。


 頭痛は消え去り、手足も自由に動く。魔法制御も自在にできるようになった。


「シギ! 助かった!」

 そういうと、シギは鳴き続けながら、尻尾を振った。

 恐らく竜神の使徒の権能という奴だろう。


 破壊神の使徒エクスは、権能の使い方とできることは突然に理解できたという。

 シギも魔人と状況を見た瞬間、理解できたのだろう。


 魔人の鳴き声の効果が消え去り、前衛たちが動き出す。

 俺も不死殺しの矢を撃ち落としながら、魔法攻撃をぶつけていった。


「防御は任せろ! 不死殺しの矢は俺がすべて落とす!」

「ありがとうございます!」


 不死殺しの矢を気にしない前衛たちの動きは素晴らしかった。

 エクスも「はああああああ!」と気合いの入った叫びをあげながら、剣で斬りかかり破壊神の権能で魔人を破壊する。

 破壊神の権能は強力だ。一撃で魔人の体に、こぶし大の穴がボコッと開く。


 クルスとルカの斬撃もすさまじい。斬り落すのは難しそうだが、金属の皮膚を切り裂いていく。


『乗るのだ!』

「助かる」

 復活したフェムの背に俺が乗ると、フェムは一気に走り出す。


 至近距離まで接近した魔人は俺たちめがけて腕を振るい鋭い爪で切り裂こうとした。

 それを魔力障壁で防ぎ、魔力の縄で縛り付ける。一瞬魔人の動きが止まった。


「ぴいいいいぎいいいいいいいいいい!」

 そのタイミングで死王チェルノボクが魔人の腕に触れた。

 そして強く輝く。まるでチェルノボク自身が小さな太陽になったかのようだった。

 死神の使徒、死王によるターンアンデッドだ。


 その瞬間。俺の目には魔人から虹色の不思議なもやのようなものが出たように見えた気がした。

 もやは物理的なものではなく魔力的なものだ。

 チェルノボクが魔人から不死者性を無理矢理引き剥がしたのだ。


 それにより、魔人の再生速度が目に見えて遅くなった。


「これなら押し切れるかも!」


 クルスとルカ、エクスが魔人を斬る。

 再生速度が遅くなったとは言え、魔人の身体が硬すぎて剣では簡単には深手にはならない。

 それに魔人は再生速度が落ちたからか防御をしはじめた。

 魔人は剣を胴体で受けるだけでなく魔力の障壁をはって斬撃を凌ぐ。


 それでも三人はフェイントを交えて、魔人の手足を重点的に狙っていく。

 どうやら手足は胴体よりも柔らかいらしい。それに障壁による防御も甘い。

 魔人がどうしても守りたいのは、やはり胴体のようだ。


「胴体の防御が手厚すぎるよ!」

「硬い上に防御までされると厄介ね!」

「私は主に手足を狙います! 手足でもダメージははいるので!」


 クルス、ルカ、エクスは必死の形相だ。


 剣では胴体に有効なダメージを与えられないならば、俺がなんとかするしかあるまい。

 俺は不死殺しの矢を打ち落とし続けながら、何度か放ったのと同じ魔力弾を作る。

 そして、魔人めがけて撃ち込んだ。


 俺の魔力弾を見てやばいと考えたのか魔法障壁が分厚くなった。

 軽くはじかれてしまう。


「これでは届かないか。ならば!」


 俺は魔力弾を大量に作り、威力も跳ね上げる。

 それを一気に降り注ぐように、魔人に浴びせた。


 魔人は大量の不死殺しの矢が、俺の魔力弾を迎撃しようと飛んでくる。


「魔法比べといこうじゃないか!」

 手数と威力の比べあい。絶対に押し負ける訳にはいかない。

 俺が負ければ味方に不死殺しの矢が降り注ぐことになる。


 数百を超える衝突が起こる。魔人の魔力は膨大だ。押し切るのは容易ではない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 だが、ついに俺が押し切った。


 魔人に俺の魔力弾が降り注ぐ。

 魔力弾は魔人の展開する障壁に激突して、ついに砕く。

 魔人の皮膚を貫き、体内へと入り、そこで爆ぜた。


 今まで同様の傷を負わせても一瞬で塞がっていた。

 だが、いまは傷口が開いたまま。再生してはいるのだが、その速度はこれまでと比べものにならないほど遅い。


「見えました!」

 エクスが叫んで魔人に向けて手をかざす。同時に魔人の胴体の中心近くが爆ぜた。

 魔人のコア、その結界を破壊神の使徒の権能で破壊したのだ。


「まかせて!」


 直後、クルスが一気に間合いを詰めた。

 そして、聖剣で、魔人の心臓付近、コア部分を貫く。

 クルスが聖剣を引き抜くと、その剣の先には透明なコアが突き刺さっていた。


 剣を引き抜かれると同時に、

「ぐギギぎぎガガガ」

 魔人はうめきながら動きを止め、仰向けに床へと倒れた。

 そして、金属光沢を持つ皮膚が、普通の人間の皮膚へと変わっていく。

 巨大な身体も元の大きさへと縮んでいく。

 不死者でも魔人でも無くなり、人間へと戻り始めたようだ。


 だが、この部屋には言ったときに見たような青年の姿になるわけではない。

 約十秒後、そこにはしわくちゃの老人が一人倒れていた。

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