第449話 ダンジョン最奥の部屋

 俺たちは充分に睡眠を取って、暖かい食事を摂った。

 おかげで皆も疲れがとれたようだ。


「さて、いよいよだ。ベルダ。準備はいいか?」

「お任せくださいませ」

「モコは、まだ戦闘は厳しいだろう。こちらで待機していてくれ」


 モコ自身の状態よりも、主と戦うのは辛いと俺は考えたのだ。

 だから、身体の状態を理由にして戦闘に参加しないよう促した。


「配慮はありがたいが儂は行かせてもらう」

「だが、モコ――」

「儂が戦力として心許ないと言うことは理解している」

「そんなことはないが……」

「いや、自分が一番わかっている。儂は痩せ衰え過ぎた。だから儂のことはいないものと考えてほしい」

「そうは言ってもだな……」


 俺が困っていると、フェムが言う。


『アルラ。フェムからも頼むのだ。祖父上は主の最後を見届けなければならないのだ』

「ふむ」

『三百年、主の最後のためにここに居たのだ。祖父上には命よりも大切なことなのだ』

「……フェム。感謝する。その通りだ」

「いいのかや? 危険なのじゃ。衰えたモコでは……」

 死ぬ可能性は高い。そうヴィヴィは言っている。


『もちろんそうなったら悲しいのである。だけど……。魔狼の誇りに関わるのである』

「……我が息子はよい父親だったようだ」


 そう言ってモコは嬉しそうに尻尾を揺らした。

 魔狼の誇りをフェムが理解していることがモコは嬉しかったのだろう。


「そうか。そういうことならば、モコも来てくれ」

「感謝する。フェムの主よ」


 そして、俺たちは全員で最後の部屋へと入った。



 その部屋は壁も床も天井は、すべて同じ材質だ。

 白くすべすべした大理石に似た、だが大理石とは違う材質である。

 そしてその壁、床、天井に細かい文字がびっしりと刻まれていた。


 横は成人男性の身長の三十倍ぐらいあり、天井は身長の八倍ぐらいある。

 奥行きは横ほど長くはない。身長の五倍ぐらいだ。

 部屋の奥の壁のすぐ近くに透明な真球の水晶のような物体が台座の上に鎮座している。


 そして部屋からはモコが三百年暮らしていたからか狼の匂いがした。


「身体の大きなモコが過ごすには狭いかもしれないな」

「うむ。フェムの主よ。だが、儂は呪いで自由には動けなかったゆえな。広さは関係なかったのだ」


 そう言うとモコは部屋の中をゆっくりと見回す。

 三百年間、呪いで身動きをとれず見回すことすらできなかったのだろう。

 部屋をじっくり見たのも恐らく三百年ぶりなのだ。


 俺は三百年の孤独に思いをはせ、ついモコの頭をゆっくりと撫でる。

 モコは一瞬びくりとしたが、大人しく撫でられてくれていた。


 俺に撫でられながらモコが言う。

「王女ベルダよ。奥に球体が、王族の血が必要な鍵である」

「これが……」


 ベルダは奥の真球の前に進む。

 俺もベルダと一緒に真球のところまで移動し、魔法で調べる。

 ヴィヴィとティミも、俺と一緒に真球を魔法で調べてくれた。

 ヴィヴィをその背に乗せたモーフィも鼻で調べてくれる。


「罠はないと思うのじゃ」

「もっも」

「そうであるな。それにしても高度な技術だ。これは当時の魔王が作ったのか?」

「そうだ。それに主の仲間であった魔導士と治癒術士の三人で作ったのである」

「三人とも、とても優秀な魔導士だったのだな」

「そうなのだ。……そして主は魔人になる前から、三人を合わせたよりも強かったのだ」


 モコはどこか誇らしそうに、そして寂しそうに言う。


 この装置だけでなくダンジョンを作った者たちよりも強かった勇者。

 それが魔人となって、不死者になってさらに強くなったのだ。


「気合いを入れないとな」

「りゃあ!」


 シギショアラも気合い充分だった。


「王女ベルダ。この球体に手のひらを乗せれば封印が解かれる」

「それだけでいいのか?」

「うむ。解かれた瞬間、主は自由の身となる。気を抜けば一瞬で全滅するであろう」

「それは責任重大だな」


 ベルダは緊張しているようだった。

 そんなベルダ俺は言う。


「ベルダ、球体に触れるのは少し待ってくれ」

「わかりましたわ」

「モーフィ。少し巨大化できるか。激しい戦いになりそうだからな」

『できる』


 そしてモーフィは二回りほど大きくなった。

 通常の牛の三倍ぐらいの大きさだ。


「モーフィ、ヴィヴィ。モーフィの背にベルダを乗せてやってくれないか」

 モーフィはとても強い。その背中の上は比較的安全なのだ。


『わかった。モーフィ、べるだのせる!」「構わぬのじゃ」

「助かる。ベルダ。モーフィの背に乗っておいてくれ」

「わかりましたわ」


 ベルダはモーフィの背中に乗った。

 竜騎士なだけあって、ベルダは大きな生物に乗るのは得意なようだ。


「チェルノボク。俺の肩の上に来てくれ」

『ぴぎ! わかった!』

「フェム。背中に乗せてもらうぞ」

『任せるのだ』


 俺はフェムの背中に乗る。これで戦いの準備は整った。

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