第423話 竜王シギショアラ
「む? 破王の印がないな……。ティミ。近づいていたはずでは?」
「はい。近づいておりました」
ティミショアラは跪いたまま答える。
いつもよりも口調も丁寧だ。
六柱の竜大公たちが見ているから、俺を摂政閣下として扱っているのだろう。
竜の世界も大変そうだ。
「破王が死んだ……、わけはないよな。きわめてすぐ近くにいるのかもしれないな」
俺たちと同じく、シギショアラの竜王の印に隠れて表示されていない可能性が高い。
破王については、後で調べればいいだろう。
今は平伏したままの竜大公たちに頭を上げてもらうのが先だ。
いつまでも竜大公に頭を下げさせ続けるのは心苦しい。
「竜大公殿下の皆さま、どうか頭を上げてください」
「はは、有難き幸せ」
竜大公六柱は、ゆっくりと頭を上げる。
「りゃっりゃ! りゃあ~」
大きい竜大公が身体を起すのを見て、シギはとても嬉しそうにはしゃいでいる。
「畏れ入り奉ります」
はしゃぐシギに対して、竜大公の一柱が返答している。
シギの言葉がわかっているかのようだ。
「この場にいる竜王陛下のご友人を紹介しておきましょう」
「りゃぁ」
「「「ははっ」」」
俺は順番にクルス、ルカ、ユリーナ、ベルダを紹介する。
フェムとモーフィ、チェルノボクのことも忘れてはいけない。
紹介を終えたあと、俺は竜大公を歓待しようかと考えた。
「立ち話もなんですし……。とはいえ」
竜大公たちの巨体では室内に通すのは難しい。
きっと竜大公たちはティミと同様、人型にもなれるのだろう。
だが、人型になれというのは、失礼なことかもしれない。
俺は古代竜の文化を知らないので、うかつなことは言えないのだ。
「いえ、今日はご挨拶に伺ったまで」
「竜王陛下に忠誠を誓い臣下として認めてもらうために急いで駆けつけたのです」
「即位式はまた後日でございますから」
古代竜のしきたりを知らない俺に優しく竜大公たちは教えてくれた。
平伏した竜大公の頭を撫でて、言葉をかけるて、今日の儀式は終わりとのこと。
その後、再び竜大公はシギに平伏する。
そしてシギは一柱ずつ頭を撫でて「りゃありゃあ」鳴く。
すると、竜大公たちは感動した様子で、目に涙を浮かべたのだった。
儀式が終わると、竜大公たちは飛び去っていく。
竜大公たちは、自分の宮殿に戻って、臣民に新王即位を布告するためだ。
六柱の竜大公は、エルケーの街の上空を大きく周回する。
そして、優雅に去っていった。
六柱の竜大公が去った後、俺はティミに尋ねる。
「ティミ、シギが竜王になったことって気づいてなかったのか?」
「……すまぬ」
「謝らなくていいが」
「シギショアラの宮殿を出るときに地図を確認した。その時は竜王ではなかったのだ」
「なるほど」
つまり、シギが竜王になったのは極々最近。今日か昨日なのだろう。
それで六柱とも駆け付けるのだから、大したものだ。
普段竜大公は自分の領地、つまり高山や月面、深海などにいる。
「さすがは竜大公。移動速度が凄まじいな」
「……我もしきたりについて勉強せねばならぬ。竜大公践祚は勉強したのだが……」
「竜王即位は想定外か?」
「うむ。面目ない」
「いや、俺も予想外だった。確かに最近シギが立派になっている気はしていたんだが」
「りゃあ?」
今日もシギは立派に鳴いている。そして、一点を指さした。
「どうした?」
「りゃっりゃ」
「ふむ」
どうやら、シギは何かに気づいたようだ。
俺がそちらを確認すると、何者かが息をひそめていることに気が付いた。
「シギえらいぞ」
「りゃあ」
俺はシギを撫でてから言う。
「隠れてないで出てきてくれ。色々終わった」
「…………よくお気づきになりましたね」
そう言って出てきたのは、とても綺麗な顔をした少年だった。
いや、少女だろうか。中性的な若者だった。
「気付いたのは俺じゃない。この子が賢くて勘が鋭くてな」
『フェムも気付いていたのだ』「もっも!」
「ぼくも気づいてたよ!」
フェムとモーフィ、クルスが気づいていたとアピールしている。
とりあえず、フェムたちのことはスルーしておこう。
「ともかく素晴らしい気配消しの技術だ。見事。ただ者ではないな?」
クルスやフェム、モーフィは気配察知に関しては別格で特別だ。
仮にもSランク冒険者である俺が気づかなかったのだ。
その若さでこの技術、見事というほかない。
俺が若者をじっと見ていると、
「……アルラさま。この者は私の副官でございますわ」
「……ほう。ベルダの副官とな。随分と優秀な若者を配下に持っているようだな」
「畏れ入ります」
そういえばベルダは副官を呼んでいると言っていた。
その副官が
ベルダが敬語を使ってしまったので、俺は竜の摂政として振舞い続けることにした。
「畏れ入ります」
「名前はなんという?」
「侯爵エクス・ヘイルウッドと申します」
「……なるほど。ところで、侯爵閣下は破壊神の使徒だな?」
そういうと、エクスはバッと俺から距離を取った。
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